Kylie Minogue『Disco』は本当のLove & DISCO


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 シンコペーションが効いたベース・ラインから生まれる肉感的グルーヴに、4つ打ちのキックを執拗に反復する中毒性が高いリズム。2020年はそうしたディスコ色が鮮明な作品と出逢う機会に恵まれた。

 たとえばサウス・ロンドン出身のジェシー・ウェアによる『What's Your Pleasure ?』は、カッソやナンバー・ワン・アンサンブルといったイタロ・ディスコの艶かしくもラフなビートを取りいれたアルバムだった。“Ooh La La”のように、ESG的なポスト・パンクの視点が強いディスコ・ソングもあり、聴いていて飽きる余地がないアレンジの多彩さが光る。
 デュア・リパのセカンド・アルバム『Future Nostalgia』もディスコ要素が目立つ。とはいえ、ボニー・タイラー“Holding Out For A Hero”(1984)に通じるシンセ・ポップ“Physical”(MAMAMOOのファサを迎えたヴァージョンも素晴らしかった)が収められるなど、 ユーロビートのエッセンスも随所で際立っていた。そういう意味では、今年出たディスコな作品のなかでも、特に80's色が顕著なポップ・アルバムと言える。

 世界的ヒット・ソングになったBTS“Dynamite”、韓国の9人組グループSF9が発表した『First Collection』もディスコ要素が濃い良質な作品だった。とりわけお気に入りなのは後者だ。サウンドはもちろん、今年1月10日にリリースされたのも見逃せない。ディスコな作品で溢れる2020年の流れを先取りしていたからだ。この興味深い点は、もはやK-POPはポップ・ミュージックの主流を受けとめるだけのジャンルではないと、あらためて実感させる。他を巻きこむほどの流れを作るジャンルのひとつにまで成長したのだと。

 至るところでディスコが顔を覗かせる2020年のポップ・ミュージック・シーンに、カイリー・ミノーグの最新アルバムが放たれた。タイトルはズバリ『Disco』である。ジャケットでのカイリーは、ノスタルジックな雰囲気を醸すメイクが施され、まるで“I Feel Love”(1977)など多くのディスコ・クラシックを歌ったドナ・サマーみたいなオーラが漂う。
 当然サウンドはディスコが基調だ。オープニングの“Magic”が流れれば、そこは瞬く間にミラーボールきらめく賑やかなダンスフロアへと変わる。
 全曲惹かれたが、強いて推しを挙げるなら“Miss A Thing”だろうか。イントロにおける中域以上をばっさりカットしたイコライジングなど、全体的にはカイリーの代表曲“Spinning Around”(2000)を連想させるフレンチ・ハウスな楽曲だ。しかし、時折鳴り響く上品なストリングスが漂わせるのは、フィラデルフィア・ソウルの香り。ひとつひとつの音に異なる要素が込められた構成は、ジェネレーションZ(1990年代中ごろ以降に生まれた世代を指す言葉)にあたる女性の97%が少なくとも5つ以上のジャンルを定期的に聴くという、現在の聴環境にぴたりとハマる。
 それでいて、ラヴ・アンリミテッド・オーケストラやMFSBなど、1970年代後半のディスコへのオマージュとしても聴けるアレンジが飛びだすあたりは往年の音楽ファンも唸るだろう。全方位的に隙がない秀逸なポップ・ソングだ。

 “Supernove”も飛びぬけている。ヴォコーダーによるロボット・ヴォイス、叙情的ストリングス、性急なグルーヴといった要素が交わるアップテンポ・ナンバーだ。アース・ウインド・アンド・ファイアー“Let's Groove”(1981)あたりを引きあいに出してもいいが、カノ“Now Baby Now”(1980)というイタロ・ディスコの名曲に通じるいなたさも脳裏に浮かぶ。

 『Disco』は、モダンな感性とプロダクションを通して、古のディスコを蘇らせたアルバムだ。過去と現在が理想的なバランスで共立し、単なる焼きなおしではない瑞々しさが刻まれている。
  “I Should Be So Lucky”(1987)、“Better The Devil You Know”(1990)、 “ Can't Get You Out Of My Head”(2001)。これまでカイリーは、多くのダンサブルな名曲を歌ってきた。この魅力は健在どころか、深みが増す一方だ。カイリー・ミノーグは、いまも私たちに笑顔と高揚をもたらすダンス・クイーンである。



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