Trillary Banks「The Dark Horse」


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 トリラリー・バンクスはイギリスのレスターで生まれ育ったラッパー。2007年から音楽活動を始め、ゆっくりと着実に地位を築いてきた。
 活動当初はレディー・スケングと名乗っていたが、しばらくするとピンキー・ゴー・ゲッタ名義で秀逸なフリースタイルを残すようになった。その後トリラリー・バンクスに改名し、現在に至る。

 彼女は3つの名義を使い、これまで多くの作品を作りあげてきた。なかでも、トリラリー・バンクスとしてはデビュー・アルバムになる『Vote 4 Trillary』(2019)は良作である。グライム、R&B、ダンスホールなど、幼少期からさまざまな音楽を聴いてきた彼女の背景が滲むサウンドは、長年過小評価に晒された状況を打破するアグレッシヴさが際立っていた。アンダーグラウンドというぬるま湯に満足せず、よりオープンなマインドで音楽を鳴らす。その姿勢は筆者の琴線を見事に揺らしてくれた。

 そんなトリラリー・バンクスのデビューEPが「The Dark Horse」だ。『Vote 4 Trillary』で生んだ勢いをそのままに、巧みな言葉遊びや高い描写力が光る歌詞を紡いでいる。
 本作の言葉を聴いて、やはりレスター出身のラッパーだなとあらためて感じた。ロンドン出身のラッパーだと、日常的風景をラップしたらきらびやかさが混じる。怒りや哀しみを描いていても、大勢の人々が行きかうロンドンという大都市に染みついた賑やかな呼気と匂いが顔を覗かせることも多い。
 彼女が紡ぐ日常的風景には、その呼気と匂いがない。人と人の距離が近い親密感を漂わせ、大都市に見られがちな忙しない雰囲気も皆無。こうした側面は、ロンドンから北へ電車で約1時間、バーミンガムの東にあるレスターが大きな街じゃないことも関係していると思う。

 収録曲では“Keisha”が気に入った。スティールパン風の音が印象的なダンスホールで、ジャマイカにルーツを持つ彼女の背景がちらつく。J・ハスを筆頭としたアフロスウィングが好きな人などは瞬く間に惹かれるだろう。
 “Drillary 2”も素晴らしい。ヘヴィーなベースが目立つトラックに、彼女のリズミカルなラップ。こうした構成はまんまグライムで、初期のカノを思わず連想した。UKドリルに接近したグライムが多い現在においては、クラシカルな響きに聞こえるかもしれない。



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