Earth Boys『Earth Tones LP』


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 ここ最近のエレクトロニック・ミュージックを聴いていると、1080pが蒔いた種は偉大だったなと感じることが多い。

 2013年5月にカナダで設立されたレーベル1080pは、現在も活躍するアーティストを多くピックアップしていた。D.ティファニーことソフィー・スウィートランドは自らの作品をコンスタントに出すのみならず、Planet Euphoriqueやxpq?といったレーベルを作り、刺激的なアーティストを紹介している。アムファングはDJコレクティヴDiscwomanの創立者として名を馳せ、クラブ・シーンの最前線を牽引する存在にまでなった。ミニマル・ヴァイオレンスは良質なダンス・ミュージックを量産しつづけ、2020年4月24日にはテクノの名門レーベルTresorから「Phase One」という素晴らしいEPをリリースした。

 ここまで挙げたアーティストは、すべて1080pがいち早く紹介した者たちだ。現在1080pはレーベル活動をおこなっていないが、2010年代における活動の影響力は、いまも至るところに見いだせる。

 といった前振りを書きながら聴いているのは、ニョーヨークの2人組ユニット、アース・ボーイズがリリースしたばかりのアルバム『Earth Tones』である。
 アース・ボーイズも、1080pによるピックアップをきっかけに才能が注目された。ハウスを基調にしつつ、ブレイクビーツやジャズの要素も巧みに織りまぜるなど、ハイブリッドなダンス・ミュージックで音楽ファンを楽しませてきた。

 その魅力は『Earth Tones』でさらに進化している。収録曲で真っ先に惹かれたのは“Earth Tones”だ。スピリチュアルの匂いがする艶やかなシンセ・サウンド、カウベルが前面に出た性急なビート、そしてリスナーを瞬く間に高揚させるサックスのフレーズ。これらの組みあわせが鳴らすのは、808ステイトのテクノ・クラシック“Pacific State”(1989)が脳裏に浮かぶハウス・ミュージックである。メロディアスなこともあり、クラブはもちろんドライヴやベッドルームで聴いても耳を惹きつけられる。心地よい恍惚と享楽に満ちた6分間をあなたにもたらすだろう。

 オープニングの“Sonoma”もお気に入りだ。キックはシンプルな4つ打ちを刻みつつ、ディレイやリヴァーブの使い方にダブ要素を感じる。他の曲と比べてトリッピーな雰囲気が濃く、そういう意味ではよりダンスフロア向けのトラックだ。他にも、人懐っこいヴォイス・サンプルが耳に残る“I Just Love it”、ベーバー“Chief Rocka”(1998)といった1990年代後半あたりのブレイクスとジャングルを合わせた“Amazon Prime (Jungle)”など、『Earth Tones』には良曲が多い。

 こうしていろいろ書いてみると、『Earth Tones』にはイギリスのダンス・ミュージックがちらつくことに気づく。このアルバムにおいて目立つ要素のジャングルはロンドン発祥の音楽であり、808ステイトはマンチェスターで結成されたバンドだ。もともとアース・ボーイズの音楽はイギリス色が鮮明だったが、これまでの作品群と比べて濃くなっている。
 そのような側面は筆者からすると、ニューヨークとイギリスの音楽シーンが交わる現状も関係しているように見える。これはおそらく、『Earth Tones』のリリース元がブリストルのShall Not Fadeであること以上に重要な要素だと思う。


※ 正式なMVではないようですが、秀逸な作品なので貼っておきます。


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