2022年ベスト・トラック20
ここ数年のベスト記事とほぼ同じことを言うようで恐縮ですが、今年もアジアのポップ・ミュージックをたくさん聴きました。欧米圏の有力メディアやオルタナティヴな媒体が積極的にアジアの音楽を取りあげてくれるおかげで、これまで以上にディグりやすくなりました。
アジアの中でも韓国はおもしろい作品が多かったと思う一方で、フィリピンやタイなどもどんどん盛りあがってるなと感じる1年でしたね、また、そうした波にようやく日本のアーティストたちも乗りはじめたか?と思う瞬間も多かったです。
20
Phoebe Green“Crying In The Club”
デビュー・アルバム『Lucky Me』も良作だったマンチェスターのシンガーソングライターによる曲。ナイーヴな詩情にダンサブルなメロディーとビートが交わるポップ・ソング。
19
ENNY“Champagne Problems”
ロンドンのラッパーがリリースしたこの曲は、UKドリルのスタイルでも甘美な音を鳴らせると示した。ポップ・ソングとして楽しめる側面があり、さまざまな層に届く可能性を持っている。
18
Lime Garden“Marbles”
ブライトンのバンドによる曲。ほんのりサイケデリックで幽玄なサウンドスケープが光るディスコテック・ポップ。メロディーも良い。
17
HA : TFELT“FiNE!”
彼女のソロ活動はずっと追いかけているのは、年齢を重ねるからこそ表現できる滋味が好きだから。そうあらためて感じさせてくれた曲。繊細な歌いまわしが醸す苦みまじりの艶やかさにハマった。
16
Captain Mustache & Chicks On Speed“Good Weather Girl”
キャプテン・マシュタスとチックス・オン・スピードのコラボ・ソング。イタロ・ディスコを彷彿させるベース・ラインとメロディーが気に入った。ビートの反復から生まれる心地よい中毒性が光るダンス・ミュージック。
15
Seulgi“Los Angeles”
レッド・ヴェルヴェットのスルギが発表したソロEP「28 Reasons」の中でも、とりわけ耳に残っている曲。アート・デパートメント“Without You”など、2010年代初頭に多かったダークなハウス・サウンドに通じる音がおもしろかった。ある意味衒いがない歌詞もグッド。
14
ena mori“KING OF THE NIGHT!”
フィリピンと日本をルーツとするアーティストのシンセ・ポップ。孤独と名付けられた靴を履きこなせば、自由というかけがえのないものを手に入れられると思わせてくれる歌詞が良い。
13
MILLI“Welcome ft. MINUS”
1人組ガールズ・グループを作るなど、タイのラッパーの中でも彼女の活動は特におもしろい。いくつものフロウを繰りだすラップスキルは上質だ。
12
IVE“After LIKE”
レイヴ・ミュージックを彷彿させるピアノ・サウンド、イタロ・ハウスのいなたさに通じるストリングスが鳴り響くサビ。さまざまなノスタルジアをモダンなポップ・ソングに仕上げたプロダクションに思わずにんまり。
11
BIBI“나쁜년”
やはりBIBIはおもしろい。怨讐も感じさせる世界観と言葉選びは唯一無二。流行にへつらわず、自らのヴィジョンに忠実な姿は清々しい。
10
FEMES“Voices”
コーティナーズやサンダラ・カルマとの仕事で知られるマルチ・インストゥルメンタリストのデビュー・シングル。内省的歌詞が深みを醸す壮大なエレ・ポップだ。
9
Beyoncé“Break My Soul”
ビヨンセが世に放ったハウス・アンセム。ポップ・ソングとしてはもちろん、ミラーボール煌めくダンスフロアでも輝かしい存在感を隠さない。
8
Sky Ferreira“Don't Forget”
ファースト・アルバムの次をなかなか見せてくれないアーティストの新曲。シンセウェイヴに通じるメタリックなサウンドとキャッチーなメロディーのが耳に残る。
7
aespa(에스파)“Girls”
ハード・ロックのエッセンスを上手く活かしたK-POP。音色ではなくグルーヴでロックの因子を表現したトラックはクセになる。
6
tRicMast Aka R. Villalobos & Tripmastaz“Rise”
リカルド・ヴィラロボスとトリップマスターズのコラボ曲。トリッピーな反復と中毒性が高いヴォイスのリフレインにやられた。匠の技を楽しめるダンス・トラック。
5
なかむらみなみ“Maneater”
辻堂が地元のラッパーによる曲。彼女の言葉にはギャル的に主体性と凛々しさがあって好きだ。
4
Itoa“Oh No ft. なかむらみなみ”
ロンドンのベース・ミュージック系プロデューサーがなかむらみなみとコラボ。ゲットー・ハウスに通じる猥雑なグルーヴに踊らされた。
3
Zild“Dekada '70”
フィリピンのファンク・バンド、IV OF SPADESのヴォーカルによるソロ曲。フェルディナンド・マルコスの独裁政権下にあった時代のフィリピンがモチーフのひとつであるなど、専制政治への批判的眼差しが顕著だ。この反骨心を支えるサウンドはゴスの雰囲気が強く、妖艶なギターの音色はコクトー・ツインズを想起させる。
2
NewJeans“Attention”
以前書いたように、筆者は彼女たちの現在に危うさも感じている立場だ。それでも曲の良さには拍手したい。ジャージークラブをポップスに変換した“Ditto”も悪くなかったが、タイムレスなメロディーと甘美さをまとった“Attention”には敵わない。
日本ではラディカルなメッセージを主体的に表現するアーティストは好まれない(とりわけ男性に)のだなとあらためて実感した語られ方も含め、彼女たちの登場はインパクトが大きかった。
1
(G)I-DLE“Nxde”
MV込みでのダントツ1位。暗喩を滲ませるK-POPグループは少なくないが、(G)I-DLEは明確な反骨心や主張が伴う形でそれをやっているから大好きだ。匂わせや思わせぶりな立ち居振る舞いには逃げない。
このことは本曲(とMV)からも十分伝わってくる。誰にも支配されず、望む自分でいる姿こそヌードだと言いきる凛々しさは、K-POPを含めたさまざまなアーティストたちの中でも一際輝いていた。
酒井華による素晴らしい彫刻作品『ルームウェア』とも共鳴できる、女性が示すリアルな女性像という視座が滲むのも重要なポイントだ。この視座に、窮屈な性役割から解放される気持ちよさを見いだす人も少なくなくだろう。
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