Novelist「Inferno」&「Rain Fire」


画像1


 今年1月、サウス・ロンドン出身のラッパー、ノヴェリストが「Inferno」を発表した。このEPのジャケットを見たとき思わずにやけてしまった。これまでさまざまなヒップホップ・アルバムのジャケットを手がけてきたグラフィックデザイン会社、Pen & Pixelの作風を連想させるからだ。

 Pen & Pixelといえば、アメリカのヒップホップ・アーティストと仕事することが多かった。スリー・6・マフィア『Live By Yo Rep (B.O.N.E. Dis)』(1995)、DJスクリュー『3 'N The Mornin' (Part One)』(1995)、E-40『Tha Hall Of Game』(1996)などのジャケットも、すべてPen & Pixelによるものだ。

 「Inferno」は中身もUSヒップホップに近い。ゆったりとしたグルーヴが印象的でBPMが遅いサウンドは、DJスクリューが得意としていたスクリューという手法を連想させる。それに合わせて、ノヴェリストのラップも落ちついたフロウを強調している。これまでは速いフロウが多かったことをふまえると、大きな変化と言えるだろう。


画像2


 そんな「Inferno」の続編的EPが「Rain Fire」だ。前者と同じくジャケットはPen & Pixelのデザインを彷彿させる。
 しかしサウンドは少々変化している。USヒップホップの要素が強いのは同じでも、ファンクやAORの匂いも漂うウォーレン・GあたりのGファンクが脳裏に浮かぶのだ。
 たとえばオープニングの“Seen It All Before (feat. Aim, S Milli & Prem)”は、ネイト・ドッグを迎えたウォーレン・Gの“Regulate”(1994)に通じる甘美さがある。心地よいギターとキーボードの音色も飛びだすなど、これまでのノヴェリスト作品にはあまりなかったタイプの曲だ。

 “Pull Up (feat. Prem)”も興味深い。ダークなピアノ・サウンドに細かく刻むハイハットが絡むビートはもろにトラップな一方で、言葉を詰めこんだノヴェリストのラップはグライム的だ。このようにUSとUKの要素を掛けあわせているのも、「Rain Fire」の魅力である。

 「Rain Fire」はイギリスの流行に沿った作品ではない。J・ハスを筆頭としたアフロスウィングでもなければ、ここ数年でメインストリームに食いこんできたUKドリルでもない。
 とはいえ、時代性にとらわれず、自身の嗜好に忠実な奔放さこそ、ノヴェリストをオンリー・ワンな存在にしているのも事実なのだ。



サポートよろしくお願いいたします。