Nijuu(니쥬)「Nijuu In The Sea」


画像1


 ニジュは韓国生まれのシンガーソングライター。彼女のことは3年ほど前に知った。サウンドクラウドで公開された“말해줘요 (tell me)”を聴き、その後も曲がアップされるたびに聴いている。
 おだやかな歌声の奥底に佇む芯の強さ、一瞬で耳の好奇心を引き寄せるメロディーなど、多くの魅力で心を躍らせてくれるアーティストだ。

 そうした気持ちは、彼女のデビューEP「Nijuu In The Sea」を聴いて以降、さらに増している。これまでの曲群よりも洗練された音作り、多彩なアレンジ、表現力の高い歌詞。多くの聴きどころがある。
 心地よいドリーミーなサウンドスケープにも惹かれた。深海で鳴り響くようなリヴァーブや物悲しいマイナーコードを多用し、ほのかにサイケデリックな匂いを醸している。それは筆者からすると、マジー・スター、コクトー・ツインズ、ビーチ・ハウスといったアーティストを想起させる。
 あるいは、ジョー・ミーク&ザ・ブルー・メン『I Hear A New World』(1991)も引きあいに出せるかもしれない。宇宙への果てしない憧憬が見られる『I Hear A New World』に対し、「Nijuu In The Sea」は海をモチーフにしているのは異なるものの、トリッピーな音像に実験精神が滲むところは共通点と言えるからだ。

 多くの他者と交わる世界に飛びだすまでを描いた歌詞のストーリー性も見逃せない。英語と韓国語が用いたそれは、自らの感情や想いを巧みに表現している。難解でない言葉を選びながらも、描かれる気持ちは多層的かつ深い。自慰的なジャーゴン遊びやレトリックにうんざりしがちな筆者にとって、ストレスを感じない歌詞が並んでいる。
 なかでも秀逸なのは“I Wanna Be Strong”だ。自分を愛せるようになりたいという想いが率直に綴られたこの歌は、さまざまな理由で生きづらさや心許なさを抱える人たちの干からびた心を潤してくれる。



サポートよろしくお願いいたします。