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音楽レヴュー 2

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音楽作品のレヴューです
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#テクノ

熟練を見せつけるユーフォリックなダンス・ミュージック The Chemical Brothers『For That Beautiful Feeling』

 イギリスのダンス・ミュージック・デュオ、ケミカル・ブラザーズは良質なダンス・ミュージックを作りつづけてきた。テクノ、ハウス、ロック、ヒップホップなどさまざまな要素が混在したトラック群は多くのリスナーに愛され、いまもなお聴かれている。

 マンチェスターのアンダーグラウンドなクラブ・シーンから出発した彼らの旅を振りかえると、興味深い点がたくさんあることに気づく。ビッグビートというジャンルをメインス

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蠱惑的なテクノ・トラック集 Marcel Dettmann「Electric Drive」

 ドイツのDJ/プロデューサー、マルセル・デットマンが最新EP「Electric Drive」をリリースした。まとまった作品としては、2022年のフル・アルバム『Fear Of Programming』以来となる。

 結論から言うと、「Electric Drive」はデットマンの魅力が詰まった秀逸なテクノ・トラックを楽しめるEPだ。ドライなオープンハイハットの鳴りとレトロ・フューチャーなシンセ・

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Orbital『30 Something』

 “Chime”(1989)、“Belfast”(1991)、“Halcyon”(1992)。ダンス・ミュージックのクラシックとして今も語り継がれているこれらの曲を生みだしたのは、イギリスのテクノ・デュオであるオービタルだ。一言でテクノといっても、彼らの音楽にはさまざまな要素が込められている。アシッド・ハウス、ブレイクビーツ、トランス、1980年代初頭のエレクトロ、パンクなどだ。

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Beige『AMEN! Vol. 1』

 アメリカのデトロイトを拠点に活動するベージュは、さまざまなクラブやパーティーでスキルを磨きながら、着実に知名度を高めてきたDJだ。The Lot RadioのプログラムChaotic Neutralで定期的に披露されるミックスなどを聴いてもわかるように、DJスキルの質はかなり高い。

 アグレッシヴなビートでリスナーのハートを滾らせながら、多くの情動を発露するベージュのプレイは、私たちを深淵な音

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The AM「Black Majik」

 The AMことアン・マリー・ティースリーは、デトロイトを拠点としながら、長年DJ/プロデューサーとして活動を続けてきた。もともとヴァイオリニストであった彼女だが、現在はテクノ・シーンを軸にしている。ソロ活動の他にはHLX-1というユニットで作品をコンスタントにリリースするなど、活躍の場は多岐に渡る。

 そんな彼女がソロとしては初のEP「Black Majik」を発表した。端的に言えば、本作は

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Sherelle「160 Down The A406」



 ロンドンのDJ/アーティスト/プロデューサーであるシェレルは、ダンス・ミュージック・シーンの最前線で活躍している。DJ MagやNoiseyといったメディアにミックスを提供し、ボイラールームでのDJは多くのリスナーに絶賛された。2021年5月、黒人とセクシュアル・マイノリティーを支えるプラットフォームBeautifulを作ったのも、大きな話題を集めた。
 No IDというパーティーでのDJが

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Yu Su『Yellow River Blue』



 中国で生まれ、現在はカナダのヴァンクーヴァーを拠点とするアーティスト、ユー・スー。筆者が彼女のサウンドに触れたきっかけは、2016年にGeneroからリリースされたアルバム『AI YE 艾葉』だった。サウンドコラージュとローファイな音質が特徴の心地よいアンビエント作品で、多彩なアレンジや複層的シンセ・サウンドなど多くの魅力で溢れている。

 『AI YE 艾葉』のリリースから3ヶ月経った20

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Al Wootton『Witness』



 イギリスのデッドボーイは、2000年代後半から良質なダンス・ミュージックを作ってきた。ダブステップ、ハウス、UKガラージなど、レパートリーは実に豊富。
 彼の作品で特にお気に入りなのは「Blaquewerk」だ。2013年にリリースされたEPで、スペーシーな音像が光るエレクトロ・ディスコ“On Your Mind‎”、ダークな電子音が全身を包みこむUKガラージ“Black Reign”など、

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Inner City『We All Move Together』



 ケヴィン・サンダーソンはダンス・ミュージック・シーンのレジェンドだ。ホアン・アトキンス、デリック・メイと共にデトロイト・テクノのオリジネイター(いわゆるベルヴィル・スリー)として知られ、インナー・シティー名義では“Good Life”(1988)や“Big Fun”(1988)といったワールドワイドなヒット・ソングを生みだした。

 ホアン・アトキンスやデリック・メイを含め、デトロイト・テク

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Rebel Yell『Fall From Grace』



 幼少時からポスト・パンクを大量に聴かされてきた筆者にとって、オーストラリアの3人組バンド100%に惹かれない理由はなかった。Minimal WaveやDark Entriesあたりのレーベルに通じるサウンドは、さまざまな側面を見いだせる。
 そのサウンドを強いて形容するなら、ゴシック風味のあるダークなシンセと、グラス・キャンディーなどItalians Do It Better周辺のバンドとも

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Earth Boys『Earth Tones LP』



 ここ最近のエレクトロニック・ミュージックを聴いていると、1080pが蒔いた種は偉大だったなと感じることが多い。

 2013年5月にカナダで設立されたレーベル1080pは、現在も活躍するアーティストを多くピックアップしていた。D.ティファニーことソフィー・スウィートランドは自らの作品をコンスタントに出すのみならず、Planet Euphoriqueやxpq?といったレーベルを作り、刺激的なア

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Park Hye Jin(박혜진)「How Can I」



 DJ/プロデューサーのパク・ヘジンを知ったきっかけは、2018年に彼女がリリースしたミックステープだった。デトロイト・テクノの叙情的なサウンドを匂わせる“Are You Happy ? 행복하냐고묻지를마”、レーベル1080pの台頭によって急増したメロディアスなローファイ・ハウスが脳裏に浮かぶ“You Say Me 너는내게말해”など、良質なダンス・ミュージックが揃っている作品だ。
 一方で

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Andras『Joyful』



 オーストラリア出身のアンドリュー・ウィルソンは、さまざまな名義を使い分けてきた。幽玄なバレアリック・サウンドが特徴のハウス・オブ・ダッドに、ファンクの要素が漂うディープ・ハウスを鳴らすアンドラス・フォックス。その多面性に多くの人々が魅了され、アンドリューはオーストラリアのエレクトロニック・ミュージック・シーンに留まらない存在となった。日本も含めた世界中の都市でパフォーマンスを繰りひろげ、観客

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808 State『Transmission Suite』



 イギリスのマンチェスターで結成された808ステイトは、30年以上の活動歴を誇るテクノ・ユニット。UKダンス・ミュージック・シーンのパイオニアである彼らの遍歴を振りかえれば、輝かしい功績を知ることができる。1988年のデビュー・アルバム『Newbuild』では、当時イギリスを席巻していたアシッド・ハウスを鳴らし、多くの後続アーティストに影響をあたえた。なかでも、エイフェックス・ツインは自身が運

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