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音楽レヴュー 2

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音楽作品のレヴューです
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#KPOP

畏怖と共に愛聴しながら、抱えているモヤモヤ (G)I-DLE『2』

 K-POPにおいて、自ら作詞/作曲に関わるグループは珍しいものではなくなりつつある。それでも、5人組グループ(G)I-DLEのセルフ・プロデュース度は群を抜いていると言えるだろう。リーダーのソヨンを中心に、メンバーたちが創作に深く関わるだけでなく、そうして創りあげられた表現の質も高いのだから。

 この魅力は、今年1月29日にリリースされたセカンド・フル・アルバム『2』でさらに増している。本作に

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カン・ダニエルの告白、女性差別…K-POPの光と闇の歴史を辿る『K-POP Evolution』 初出:wezzy(株式会社サイゾー) 2021年7月17日

 筆者がたびたび寄稿していたウェブメディア『wezzy』が、2024年3月31日にサイトの完全閉鎖を予定しているそうです。そのお知らせの中で、「ご寄稿いただいた記事の著作権は執筆者の皆様にございます。ご自身のブログやテキストサイトなどのほか、他社のメディアでも再利用可能です」とあるため、こうしてブログに記事を転載しました。元記事のURLを下記に記載しておきますので、気になる方は閉鎖前に覗いてみてく

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素顔を隠さない強さ 『aespa LIVE TOUR 2023 ‘SYNK : HYPER LINE’ in JAPAN -Special Edition-』 2023.8.5~6

 2023年8月5~6日、aespaの東京ドーム公演に行ってきた。彼女たちのライヴを観るのは、今年4月におこなわれたさいたまスーパーアリーナ公演以来だ。そのときとツアータイトルは同じだが、東京ドーム公演は-Special Edition-と銘打たれている。どこがスペシャルなのか知りたいと思い、チケット販売開始と同時に応募し、運良くゲットできた。
 正直、ここ最近ライヴに対するハードルが上がってい

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言葉で楽しむK-POP ライオット・ガールの表情を帯びはじめた(G)I-DLE

言葉で楽しむK-POP ライオット・ガールの表情を帯びはじめた(G)I-DLE

 この一節は、韓国の5人組アイドルグループ、(G)I-DLEのデビュー曲“LATATA”(2018)に登場する。本稿を書くためにあらためて再生したら、リリース当時に聴いたときと印象は変わらなかった。多くの新人アイドルグループの歌がそうであるように、質の高いパフォーマンスでファンを魅了するという意志が詩的な言葉に置きかわっている。あるいは、誰かを夢中にさせたいと願う者を描いたラヴ・ソングとしても聴け

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実存は本質に先立つ 『aespa LIVE TOUR 2023 ’SYNK : HYPER LINE’ in JAPAN』@さいたまスーパーアリーナ 4/16

 4月16日、韓国の4人組グループaespaがさいたまスーパーアリーナでおこなった『aespa LIVE TOUR 2023 ’SYNK : HYPER LINE’ in JAPAN』を観てきました。結論から言うと、とても素晴らしかったです。テクノロジーを駆使した演出からタイポグラフィーまでさまざまな仕掛けが飛びだすライヴは、視覚的楽しさでいっぱいだった。重低音を前面に出した曲群はレイヴィーと言え

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SEULGI(슬기)「28 Reasons」

 レッド・ヴェルヴェットのスルギ(슬기)がソロ・ミニ・アルバム「28 Reasons」をリリースした。これまで彼女は、アイリーンとユニットを組んでの課外活動はあったものの、自分だけを前面に出したソロ作品は本作が初めてだ。ゆえに発表前から注目度は高く、期待も集めていた。

 結論から言うと、本作は素晴らしい作品だ。スルギはヴォーカルもダンスもハイレヴェルなアーティストであるのは周知の事実だが、そうし

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NewJeans(뉴진스)の新しさと危うさ

 NewJeans(뉴진스)は、2022年にデビューした韓国の女性グループだ。メンバーはミンジ、ハニ、ダニエル、ヘリン、ヘインの5人。全員10代で、最年少のヘインは現在14歳である。所属事務所はBTS(비티에스)を抱えるHYBE傘下のADORだ。かつてSMエンターテインメントでf(x)(에프엑스)やRed Velvet(레드벨벳)などのアルバム・コンセプトを手がけたミン・ヒジンがプロデュースしたグ

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Moon Sujin(문수진)「Lucky Charms!」

 韓国のポップ・ミュージックを追っている者は、ムン・スジンの名を耳にすることが多いだろう。EXO-SCやテイル(NCT)などさまざまなアーティストとコラボレーションを果たしてきたことからもわかるように、彼女の歌声は各方面から高く評価されている。自ら作詞作曲をこなす力もあり、愛聴してきたというアメリカのR&Bやヒップホップの要素が色濃い曲群は上質なトラックばかりだ。

 そんなムン・スジンにとってフ

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2NE1のコーチェラ再結成ライヴから考える“若さ”という呪縛

 2022年4月16日(現地時間)、アメリカのカリフォルニア州で開催されたコーチェラ・フェスティバルに、2NE1が降臨した。CL、ダラ、ミンジ、ボムの4人による2NE1は、2009年結成のK-POPグループだ。2016年11月に解散するまで数多くのヒットを飛ばし、女性にも愛されるガールクラッシュ系の象徴的存在である。

 公式の場で4人が2NE1としてパフォーマンスしたのは、2015年12月に香港

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最高のアイドル・グループによる私はわたし宣言〜(G)I-DLE((여자)아이들)『I NEVER DIE』



 韓国のアイドル・グループ、(G)I-DLE((여자)아이들)が『I NEVER DIE』を今年3月にリリースした。彼女たちにとって初のフル・アルバムとなる本作は、スジン脱退という苦境を物ともしない力強さが際立つ作品だ。過去作でも顕著だった社会的規範に従わない姿勢はますます強くなり、そうした姿勢を表現するパフォーマンス能力もレヴェルアップしている。
 (G)I-DLEといえば、リーダーのソヨン

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BIBI(비비)「Life is a Bi…(인생은 나쁜X)」は優しい悪魔のつま先



 筆者からすると、韓国のアーティストBIBI(ビビ)はアウトサイダー的な視点が強い女性に見える。2019年に公式デビューを果たした彼女は、愛や恋人関係を歌うことが多い。それ自体は珍しいことではなく、むしろポップ・ソングにおいて普遍的と言っていい。

 BIBIがおもしろいのは、そういった題材を歌う際、自己破壊的姿勢が目立つところだ。たとえば“쉬가릿 (cigarette and condom)

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ITZY (있지)「GUESS WHO」



 筆者からすると、韓国の5人組グループITZY(イッジ)のサウンドは、ハウス成分が多いように聞こえる。具体的に曲を挙げると、『Settle』(2013)期のディスクロージャーを想起させるデビュー曲“Dalla Dalla”(2019)、スティールパンに似た音色のシンセ・フレーズと4つ打ちを刻むヘヴィーなキックが際立つ“TING TING TING”(2020)などだ。これらの曲はポップ・ソング

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IU(아이유)『LILAC』は生きぬいた者だけが辿りつける孤高の境地を見せる



 韓国のアーティストIU(아이유)は、韓国式年齢(数え年)で29歳になった。彼女の20代を振りかえると、少なくない苦難に見舞われてきたのがわかる。初めて自らプロデュースを手掛けた4thミニ・アルバム「CHAT-SHIRE」(2015)では、“Zezé”の歌詞が5歳の子供を性的対象化していると批判された。他にもサンプリング問題を指摘されるなど、このミニ・アルバムは苦い想い出が多い作品になってしま

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Susan(수잔)「EROS」



 少しハスキーかつ甘美な歌声で、さまざまな情感を流麗に紡いでいく。喜び、愛欲、快感といった陽なエモーションだけでなく、憎しみや悲しみなど陰なエモーションもストレートに表現する。その表現は艶やかな生々しさとも言える空気を醸し、リスナーの耳と心を拡張してくれる。

 そうした言葉を書かせたSusan(수잔)の最新EP「EROS」に出逢ったのは、今年1月のこと。彼女の存在はファースト・シングル「열매

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