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#レビュー
現代に蔓延る闇を抉りだすホラー 〜 映画『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』〜
スティーヴン・キングの小説を原作とする『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』は、ホラー映画でありながら少年少女たちの青春物語でもある。くわえて、さまざまな社会問題への批判精神が色濃いのも印象的だ。なかでも秀逸なのはべバリーの境遇の描き方。おそらく彼女は父親から性暴力を受けているが、それを直接的な描写ではなく、父親との関係性を匂わせる数シーンで多くを語っているところに、制作陣の高いスキ
フィルム・ノワールの意匠に込められた、鋭い批評精神 〜 映画『三度目の殺人』〜
だいぶ前に観た作品だが、是枝裕和監督の映画『三度目の殺人』の余韻がまだ残っている。こういう作品が全国規模で公開されるのか...という驚きもあるし、本作で見られるさまざまな要素についてあれこれ考える楽しさもある。
物語の概要はこうだ。勝利至上主義の弁護士・重盛(福山雅治)は、殺人の前科がある三隅(役所広司)の弁護を担当することになった。三隅の犯行は、解雇された工場の社長を殺め、その後死体に
“観る”から“体験”に移行しつつある現在の映画界を象徴する作品のひとつとしては、よくできている 〜 映画『ダンケルク』〜
クリストファー・ノーランは、何よりも形式を重視する映画監督だ。このことはノーランのフィルモグラフィーを振りかえってもわかる。10分間しか記憶を保てない男が主人公の『メメント』(2000)、人の夢の中で物語が進行する『インセプション』(2010)、理論物理学を下敷きにしたSF『インターステラー』(2014)など、物語の設定や凝った仕掛けで私たちを驚かせるのが、ノーランの常套手段である。
そ
この問題作を受け入れられるだけの感性が、日本にあるだろうか? 〜 映画『エル ELLE』〜
『ロボコップ』や『氷の微笑』などで知られるポール・ヴァーホーヴェン監督は、とんでもない問題作を作りあげた。主人公のミシェル役にイザベル・ユペールを迎えたその映画は、『エル ELLE』と呼ばれている。
『エル ELLE』の物語は、凄惨なレイプシーンで幕を開ける(※1)。だが、失神から目覚めたミシェルは警察に通報することもなく、部屋を片づけはじめる。翌日には、経営する会社で社員に強権的な立ち
私たち、今から始めない? 〜 映画『浮き草たち』〜
アダム・レオン監督の初長編作『ギミー・ザ・ルート NYグラフィティ』は、とても初々しい青春映画だ。この映画はニューヨークを舞台に、グラフィティ・アートに夢中の若い男女を描いている。若さゆえのイタい情動を描きだし、大人になってしまった者たちの心をいちいち突いてくる。粗もなくはないが、アダム・レオンが持つ才能の一端を楽しめる。製作で参加したジョナサン・デミが猛烈にバックアップしたのも頷ける。
この世に命を繫ぎ止めるための言葉 〜 映画『心のカルテ』〜
アン・セクストンという詩人がいる。1974年に自らこの世を去ったセクストンは、シルヴィア・プラスと共に告白詩のムーヴメントを作ったことで有名だ。
セクストンは不安定な精神との戦いを余儀なくされ、死の間際まで入退院を繰り返した。そのなかで綴られた詩を読むと、セクストンの詩は“生と死”を行き来していることがわかる。たとえば「Snow」という詩では、〈希望がある いたるところに希望がある〉と前向
戦うことでしか道を切り開けなかった男のけじめ 〜 映画『LOGAN/ローガン』〜
アメリカン・コミックの『X-MEN』シリーズは、常に同時代性を孕んできた。ミュータントと人間の争いは多くのマイノリティーが味わってきたことを反映してるし、ホロコーストの生き残りという出自を持つマグニートーは、ナチスへの批判的暗喩としても機能するキャラクターだ。
そうした『X-MEN』シリーズの批評性は映画版『X-MEN』シリーズにも受け継がれたが、その側面がより前面に出たのは『ウルヴァリン
イタリアだけじゃない 世界中が求めるヒーローだ ~ 映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』~
『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』はイタリア映画だ、と言わなければ日本の映画と思われるかもしれないなんて心配もあるので、こんな書き出しになってしまった。2015年に制作された本作は、ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞(イタリアのアカデミー賞的なもの)で7部門も受賞するなど高く評価されている。早耳な映画ファンの中には、イタリア映画祭2016で公開されたときにいち早く観た者もいるだろうか。
物語は、
“不満”と“らしさ”と“切実さ” 〜 映画『メッセージ』〜
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の映画『メッセージ』を観て最初に感じたのは、“不満”だ。本作のストーリーは次のようなもの。ある日、世界各地に巨大な宇宙船が出現した。その船に乗る宇宙人と対話するため軍に雇われた言語学者のルイーズ(エイミー・アダムス)は、宇宙人たちの言語を解読しようと奮闘するが、その裏では宇宙船への攻撃準備が着実に進んでいく...。いわば本作は、SF映画などでよく見られるファーストコン