情報化社会2

テレワークでぶつかる壁と、その先に見えてくる希望:新しい視座を獲得すれば、呼吸をするようにイノベーションが起こる

『Zoomオンライン革命』の著者の田原です。

前回のNoteの記事が、Facebookで237シェア(2/21現在)されて、あちこちから問い合わせが来ています。

新型コロナウィルスによって明らかになったイベント主催者のリスクマネジメントの新常識:実施か中止かオンライン実施かの3択へ

反響の大きさに驚くと同時に、新型コロナウィルスの感染拡大に伴って、私たちがやってきたことが、多くの人から必要とされる状況になっていることを認識し、私たちが気づいていることを伝えていこうという使命感が生まれてきています。

次回からは、私たちが実践している具体的な工夫も書いていこうと思いますが、今回は、テレワークを始めた人がぶつかるメンタルの壁について書きたいと思います。

GMOインターネット、ドワンゴ、NEC、NTTなど、多くの企業がテレワークによる在宅勤務へと移行しています。

感染拡大がどこまで広がるのか、いつ頃になったら収束するのかは予想困難な状況で、テレワークによる在宅勤務が長期化する可能性も高いです。

私は、完全オンラインで仕事をするようになって8年、全員がテレワークで働く自律分散型オンライン組織「与贈工房」の経営をはじめて3年です。その過程で体験を通して気づいてきたことがたくさんあります。それをシェアすることが、在宅勤務に戸惑っている方たちに希望を与えることになれば幸いです。

テレワーク初期に直面すること

リアルの住民からオンラインの住民になった最初の頃は、リアルを基準にしてオンラインを捉えがちです。

「リアルではできることの多くがオンラインではできない。」

「オンラインはリアルの劣化版だ!」

というように見えていると思います。図にすると、こんな感じです。

リアルでできること

技術の進歩によって、オンラインでできることは増えてきているけれど、まだまだリアルには及ばないというように感じていると思います。

この感覚でテレワークによる在宅勤務をやると、できることの範囲が、黄色の円から緑の円にへと狭まるように感じます。活動が制限されて、とても不便だと感じ、ストレスがたまると思います。

短期間だと思えば、

「緊急時だから仕方がない」「一時的なことだから我慢する」

ということで、狭くなった緑の範囲で我慢し、緊急時が終われば、黄色の範囲へと戻っていけばよいと考えることもできます。

実際、短期間のテレワーク体験では、不便さを我慢するだけで終わり、「やはり、テレワークは不便だ」という教訓を得るというケースが多いように思います。

でも、体質改善に時間がかかるように、意識変革にも時間がかかります。不便さを我慢して留まり続けると、意識に変化が生まれてきます。

テレワークが長期化すると、捉え方に変化が生じる

今回のように、テレワークが長期化する可能性が高い状況では、「テレワーク環境で工夫して何とかする」ということが要求されます。

ちまたでよく言われているのは、「オンラインでは情報のやり取りはできても、非言語を含む感情のやり取りはできない」ということです。

たとえば、次のような考え方です。

人間の五感は「オンライン」だけで相手を信頼しないようにできている──霊長類の第一人者・山極京大総長にチームの起源について聞いてみた

これを、テレワークの文脈に当てはめると、「日常の業務に関するやりとりや、情報のインプットならオンラインでも可能だが、信頼をベースにした深い学びや価値創造などはオンラインでは無理」ということだと思います。

氷山モデルを用いて説明すると、山極さんの主張は、次のように表せると思います。

氷山モデル3

氷山モデルの水面下の部分が、深い学びやイノベーション、価値創造と関係しています。氷山モデルの水面下の部分は、山極さんのように、「オンラインでは無理」だと考えている人が多いです。

人材育成や、組織開発など、対人支援をしている人ほど、リアルの空気感、非言語的な熱量などが重要だと考えているので、「オンラインだと重要な要素が欠けてしまう」と捉えていることが多いです。

「やっぱり、直接、会って話さないと!」という声を、この8年間で、何百回も聞きました。

でも、今回のように、直接会うことが困難で、「無理でも挑戦しないとやっていけない」という状況に投げ込まれると、「テレワーク環境で工夫して、なんとか、深い学びや、価値創造に取り組む」という挑戦が始まります。

実は、そこに、イノベーションが起こる可能性の扉があるのです。

私も、かつては、「リアルじゃないと!」と思っていた1人ですが、2011年に海外移住して、オンラインの住人になったことで、自分の人生を切り開くためには、オンラインの可能性を切り開くしかない状況になりました。

そして、オンラインしか選択肢がない状況の中で、粘り強く取り組んでいるうちに、徐々に、捉え方が次の図のように変化してきました。

リアルでできること2

実際にやってみると、「思ったよりは、オンラインでできる」と感じて、緑の領域が大きくなっていきます。しかし、そうはいっても、緑が黄色に重なることは不可能です。そこで、「リアルではできないが、オンラインだとできること」という青い領域に意識が向くようになってきます。

「緑を黄色と重ねることは無理だけど、青い部分を大きくしていくことはできる」

という気づきが生まれると、すごく前向きな気持ちになって、工夫が加速していきます。テクノロジーの進歩が後押ししてくれて、青い部分(オンラインだからこそできること)が、どんどん大きくなっていきます。

意識の重心がリアルからオンラインへ移動する

オンラインだからこそできることは、テクノロジーの発展とともにどんどん増えていきます。その結果、あるところで、意識の重心がリアルからオンラインに、ぐぐぐっと移動します。

オンラインでできること2

これは、まさに、意識革命と言える大きな転換です。リアル側からオンラインを見ていたのが、オンライン側からリアルを見るようになるのです。

この転換が起こると、感覚が逆転して「リアルって不便だな」と感じ始めます。なぜなら、オンラインなら簡単にできることが、リアルだとできないからです。

オンラインなら、Zoomのミーティングを1クリックで録画しておいて、欠席した人や、情報共有した方がいい人に動画を共有すれば済むのに、リアルの会議だと議事録を取らねばならないし、議事録だけでは雰囲気が伝わらなかったりもします。

都合が悪くて出られなかったミーティングの動画を倍速視聴して、Slackにフィードバックを送って、テキストベースでやり取りしながら合意形成するということも、リアルだとできません。

オンラインでの仕事が当たり前になってくると、「リアルが不便すぎてやってられない」という感覚が生まれてくるのです。

私は、この意識の重心の移動が、リアル中心の産業化社会から、オンライン中心の情報化社会への意識の転換なのだと気づきました。

意識が転換すると、次の図のように産業化社会のあらゆる常識が、情報化社会の常識へとひっくり返っていきます。

情報化社会

新しい視座を獲得すると、あらゆるものを新しい角度から捉えることが可能になるので、イノベーションを、呼吸をするくらいのたやすさで起こすことができるようになります。

産業化社会の常識では、東京に代表される都会に権力や情報が集まっていて、中枢にいるほど、有益な情報を持った人に頻繁に会うことができ、価値創造しやすいと考えられていたと思います。

しかし、インターネットの登場で世界がグローバル化し、多様化した結果、価値創造の場が「中央の特権を持ったリアルの場で生まれる知」から「多様なオンラインの場に生じる集合知」へと移行してきているのです。

アジャイル型経営

左から右へ、前提や状況が変化することで、最適なコミュニケーションデザインや組織デザインが、根底から変わっていきます。

パラダイムが転換することで、オンラインファシリテーター、オンラインコミュニティマネージャーなどの新しい仕事が生まれることを、まさに体験して、社会実装を進めています。

8年前に、オンラインをリアルに近づけることを止めて、オンラインならではの価値を追求し始めたら、あっという間に世界の捉え方が反転して、学び方、働き方の常識が、次々にひっくり返っていきました。

テクノロジーの発展によってオンラインコミュニケーションの質が高まっていき、氷山の下をオンラインで扱えるようになった瞬間、閾値を超えて社会の構造転換が起こり始めたのです。それを可能にしたツールがZoomだったので、「これは、革命だ!」と思って、私は『Zoomオンライン革命』を出版したのです。

氷山モデル4

今後、オンラインコミュニケーションのテクノロジーは、さらに発展していき、氷山の下をオンラインで扱えるのは当たり前のことになっていくでしょう。後から振り返ったとき、2016年にZoomにブレークアウト機能(小部屋に分ける機能)が実装され、対話型のワークショップをオンラインで自由自在にできるようになった瞬間が、転換点だったと思い出されることになると思います。

ノイズレベルが下がると意識がクリアになる

情報化社会というと自然と切離されたデジタル中心の社会と思うかもしれません。しかし、それは、「産業化社会の常識から見た情報化社会」のイメージです。視座が変わると、まったく異なる印象になります。

たとえて言うなら、産業化社会から情報化社会への意識の移動は、水中でえら呼吸で生活しているところから、陸に上陸して肺呼吸で生きるようになるような転換です。

肺呼吸で生きるようになって、はじめて気づくことができることが、たくさんあります。

情報化社会になると、価値創造の中心が都市ではなくクラウドになるので、身体は、どこに住んでいてもよいことになります。なので、むしろ、自然に囲まれた環境に身体を置くことが可能になります。

たとえば、私は、東南アジアのビーチ沿いのコンドミニアムで暮しています。すべての仕事がオンラインで完結しているので、日本に住む必要がありません。

私の仕事上の役割は、「まだ言葉になっていないことを言語化し、新しい価値を定義すること」です。それには、日本人の常識から離れられる海外に住むことは大きなメリットです。

また、感じる力が重要なので、自然に囲まれた環境に住み、できるだけノイズを減らして意識をクリアに保つようにしています。

毎朝5時に起きて朝食を食べ、1時間ほど、まだ薄暗いビーチを散歩します。

ビーチ

波の音や、鳥の声を聞きながら、歩いているうちに、前日、Zoomで行ったオンラインワークショップやオンライン対話の気づきが、だんだんと言語化されてきて、他の文脈と繋がってきて物語化してきます。

それが消えないうちに、朝のうちに文章化したり、図に表したりするというという積み重ねから、コンテンツが生まれています。視座が転換すると、新しい意味が、毎日、呼吸をするように自然と生まれてくるのです。

自然に囲まれた場所で生活することで、ノイズレベルが下がり、意識がクリアになって創造性が高まるというのは、リアル中心の生活をしているときには気がつきませんでした。そもそも、自分がノイズに埋もれて生きているということに気づくことができなかったのです。ノイズレベルが下がって意識がクリアになってみて、以前はノイズが多かっんだなーと気づいたのです。

ノイズレベルを下げることの重要性に気づいてから、ヨガや瞑想もするようになりました。

考えてみれば、産業化社会になって貨幣経済が中心になったことで、自給的で豊かな生活をしていた農村は、産業化社会の価値観に照らして「貧困」と見なされるようになりました。豊かさの象徴である工業製品を購入するためのお金を稼ぐために若者は都会に集まりました。リアルが産業社会の価値創造の中心だったため、都市に人口が密集し、地方は過疎化して活力を失っていきました。

都会で暮すようになった人達は、現在、ノイズレベルが高い人口が過密の都会の生活の中で、ストレスから身を守るために「感じないようにする」ことを学習しています。

満員電車

同時に、行き詰まりつつある状況の中で「新しいアイディアを出せ!」「イノベーションを起こせ!」というプレッシャーにさらされるというダブルバインドの中にいます。

イノベーションを起こすためには、「感じる力」を手がかりに不確実な世界を冒険し、新しい視座を獲得する必要があります。しかし、ストレスの多い都会で「感じる力」を開放することは、メンタルに大きな負荷がかかるのです。これは、身体におもりをつけたまま、「高く跳べ」と言われているようなものです。

新型コロナウィルスやオリンピックの影響で、2020年は、これまでになかったレベルでテレワークに取り組む人が増える年になります。その中から、意識を転換し、視座を移動させる人達が多数現れるはずです。

新しい視座にたち、新しい繋がりを作った人たちから生まれた、新しい考えが、過去の延長線上ではない未来を創造していくことで、現在、解決が難しいと思われている課題が解消していく可能性が生まれます。

持続可能な世界への構造転換への道筋

現在、地球の生産量の1.6倍を消費し続けている状況が続いています。これは、産業化社会というシステムが作りだしている問題であり、地球全体で取り組むべき課題です。

アインシュタインは、次のように述べています。

今日我々の直面する重要な問題は、その問題をつくったときと同じ考えのレベルで解決することはできない。

産業化社会が作りだした問題は、産業化社会の考えのレベルでは解決できないものです。私たちを育んできた社会のパラダイムの前提を問い直して、その外側に出て、新しい視座を獲得できるかどうかが、私たちが直面している問題なのだと思います。

新型コロナウィルスの影響や、オリンピックの影響で、2020年は、かつてないほどテレワークに光が当たっています。

この機会をチャンスと捉え、持続可能な世界への転換をはかっていきませんか?

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情報化社会の視座からのイベント、人材育成、組織開発のオンライン化のサポート、自律分散型オンライン組織の経営アドバイスを行っています。

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