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野犬~群がる捨て犬の物語~

7月5日梅雨空、僕は空腹を感じながら目的の廃病院に向かっている。

コロナ影響で勤めていた職場を急遽解雇されたのは、先月。

それから、ハロワークに行っても39の年で、大した能力も無ければ、次の仕事は派遣でもない。

生活するにも家賃も払えず、10年住んでいたボロアパートもすぐに追い出された。絶望のなか、頼るのはSNS上の他人しかないと僕は思った。

僕はTwitterで日々つぶやいているが、フォロワーも300人程度。

ほとんどの人が僕をしらないし、助けを求めても誰も手を差し伸べてくれないと思いながら、微かな希望をもってツイートをした。

「東京を派遣社員してましたが、コロナの影響で突如派遣切りにあいました。貯金もなく住んでいた家も追い出されました。今日からホームレスです。一生懸命働くので、住み込みの仕事を紹介いただけないでしょうか。今日泊まる家がないので、焦ってます。

#緊急 #お助け #ホームレス状態 #派遣切り

案の定、ツイートは誰かの「いいね」もつかずに埋まっていく

誰も俺を助けてくれないと思った安住は一人涙した。

どこも行く宛もない、公共施設もコロナの影響で閉まっている所も多く休める場所もない。途方に暮れていた。

路地裏に神社が有ったので、お祈りをした。お賽銭は出せなかった。

お祈りを終え、スマホを見るとDMが届ている。

期待し安住は画面を覗き込んだ。

町田という人物からDMが来ていた。今までSNSで絡んだ事もなく、警戒してしまう。

「はじめまして、町田です。都内近辺で仕事を手伝って頂ける方を探しています。少々ハードな仕事ですが、報酬は弾みます。前金として10万円お支払いしますが、以下の住所まで本日来て頂けますか。

神奈川県横浜市戸塚区 戸塚中央病院1階ロビー集合

他にも参加メンバーがいる場合は、先着になりますので急ぎ参加のご連絡をお願いします。」

というメッセージが届いていた。

こちらとしては、現金が今すぐに必要なので、短くお願いしますと返答した。指定の場所にもこれから向かい、1時間程度で到着可能な旨を添えた。

町田からはすぐに返信があり、速やかに現地に向かうよう指示があった。

怪しいのは分かっているが、僕は疑念を捨て集合場所に向かった。

集合場所に着いた時は、既に夕暮れを迎えていた。戸塚中央病院は駅から20分以上歩いた辺鄙な場所に有った。遠くからみても、各階の窓ガラスも無い箇所もあり、照明もなく廃病院だとわかった。こんな所に集合かよと思ったが、引き返す交通費も行く場所もない。

入口は、柵が有ったが裏口のドアが開いていたので勝手に入った。中は真っ暗だが、人気を感じる。ロビー付近にくると防災用ライトがあり、二人の男がいた。

一人は、腕にタトゥーが入った金髪の若い男。暴走族かギャングが分からないが関わない方が良さそうだ。

もう一人は中年のぽっちゃりした男で、オタクっぽい印象。こちらは犯罪とも程遠いし、明らかにお金に困っているような印象も受けた。

この二人に、俺はどう見えているのか気になった。

僕は簡単な挨拶をした。タトゥーの若い男は、鉄雄と名乗った。

オタクっぽい方は、川中と名乗った。

二人とも今日ここに来たばかりで詳しい事は分からず、町田からのDM待ちとの事だ。

僕が集合場所に到着した事を町田に伝えると、すぐに反応が有った。

今回の依頼内容についてのDMだった。内容は、以下のとおり

簡潔に言うと町田の上司を拉致して、戸塚中央病院に連れてくること

上司が会社から帰る際のルート、移動に使う為の車両などは全て用意

犯行を実施する場所は、防犯カメラは付いていなく、犯行に足が付かない様に配慮している旨の説明が添えられていた

上司が帰宅途中に後方よりスタンガンで襲い気絶させて、車で戸塚中央病院の霊安室まで担ぎ込むとい内容。

謝礼は一人辺り300万円。別途100万円は先払いするという内容だった。

3人の協力の元に成り立つ完全犯罪の為、この話しにのるかのらないかは、3人で話して返事をするように指示があった。

僕は少し迷うところもあったが、やるしかないと思っていた。

鉄雄は、簡単な仕事じゃんと息巻いた。川中はひくにひけない感じで首を縦にふった。みんな「やる」とDMで返答した瞬間。

暗闇の中から、人が現れた。その人物は奇怪な仮面を被っていた。

拍手しながら近づいてくる。男は無言だったが、強い圧力を感じた。

男は無言のまま、赤い×が記された地図と車のキー、一人一人に袋を渡しそのまま外に出ていった。

地図が示していたのは、日時と場所だった。現在地から車で20分程度の住宅街だろう。恐らくターゲットの自宅付近だと思われる。

袋には、現金が各自100万円、スタンガン、拘束バンド、拘束テープ、そして町田の上司たるターゲットの顔写真が複数枚入っていた。

鉄雄は言った。「スタンガンでなく、俺には金属バットをよこせ」

奇妙な男は無言で部屋の隅を指さした。そこには金属バット、バール、斧など武器が置かれていた。「本当に用意がいいね。仕事はしっかりするとクライアントに言っておいてくれよ」

犯行場所の指定時間も迫っている。僕らは袋と各々武器を持って車に乗り込んだ。車のトヨタのワンバックスカーで、後部座席には人がすっぽり入るような袋が有った。

ナビを指定の住所にセットし、車を動かした。

訳も分からず、100万円を渡され人を拉致する事になった。拉致されたターゲットは恐らく、あの奇妙な仮面の男に消されるのだろうか。

金に困っているとはいえ、人を殺す事に加担する事になるとは思わなかった。鉄雄、川中の表情をみても非常に固い表情だった。

車内は、車が風をきる男以外しなかった。

川中がぽつりと「あみ子ちゃんに会いたい。彼女に会えれば、僕は幸せだ」と言った。

「おいおい、あみ子ってなんだよ。彼女か??いや、お前に彼女なんかいるわけないな」

「僕の大事な人だ。お前があみ子の事を語るな」と強い口調で川中は、鉄雄に強く言い返した。

「俺たち、金が無いとはいえ、人殺しの手伝いする事になるなんてな。この先どうなるんだろう。警察に捕まる事に怯えながら生きていくのかな」

と僕は語った。

「俺だって人なんか殺したくないわ、それもこんな知らないじじい。

若く見せてるけど、多分この髪ズラだぜ。世の中、金なのかな。

金渡せれば、そいつのいう事を聞かないといけないなら、俺たちはずっとこれからも同じ事を繰り返す事になるんじゃないか。

世の中金なのかな。金があれば人を殺してもばれないし、それさえも他の奴にやらす事も出来る。命じる奴は安全な場所からな。

俺たちそんな奴に支配されれていいのか」

「確かに金のために何でもするのかって話だな。だが、今回の依頼を実行しない場合、口封じの為に俺たちが消させるんじゃないか」

川中が恐る恐る言った。「このまま三人で逃げない」

「警察に追われてあみ子ちゃんに会えなくなるのは嫌だし」

その言葉の暫く沈黙が続いた。車は目的地にどんどん進んでいる。

「100万円持ってばっくれるのは流石に不味いし、仕事は半分実行しよう。町田が指定しているターゲットが人相からして善良な人間ではないだろうし、制裁は加える。でも拉致はしない。これでどうだ??」

鉄雄が僕たちに同意を求めた。「殺しはしたくないので、俺は賛成だ」

「俺もだよ。でもその後逃げれるかな??もしからしたら見張りもいるかもしれないし」

「その時は、あみ子ちゃんに守って貰おうじゃないか」

「取りあえずは、この100万円で逃亡できるし、暫くほとぼり冷めるまでは一緒に行動しよう」「わかった。それでターゲットはどうする??」

「俺が痛めつけるから、一人は見張り、一人は車でスタンバイしてくれ」

「わかった」

三人で話しあっているなか、車は犯行指定場所まで着いていた。

横浜市内の公園に位置し、駐車場は無い小さな公園だった。恐らくターゲットは、この付近に住んでいて、いつもこの公園を通るのだろう。

川中は見張り、俺が車で待機、鉄雄は、金属バット片手に車を出て、公園の茂みに身を隠していた。

公園に着いてから30分程して日が暮れてきた時に、一人の中年の男が公園に入ってきた。川中が鉄雄に向けて合図をした。

ターゲットである事を示していた。鉄雄は正面からターゲットに近づき「貴方を恨んでいる人間がいる。その人から俺は、貴方を殺すように言われている。だがそんな事は俺はしたくない。

お願いだからこれからは、人に優しく接してくれ。それでなければ次は殺す」と言い放った後、金属バットでターゲットの頭をフルスイングでかっ飛ばした。白球が飛ぶような爽快な音ではなく、人の顔にバットが食い込む暗い重い音が聞こえた。

倒れた男の髪の毛に、川中はライターで火を付けた。髪は燃えたがその髪がカツラの為、頭から外れていた。

川中は倒れたターゲットの写真を撮った。

その後走り車に戻ってきた。川中は既に車内に戻っていた。

取りあえず、関東を出てくれ。僕はすぐに車を出し、その場から離れた。

川中は、ターゲットの写真を町田に送り、この話しから降りさせてもらった。仕事はしっかりこなしたので、許してくれとメッセージを送信した。

殺してはないのかもしれないが十分な犯罪だ。

これから俺たちの運命はどうなってしまうんだろう。

不安を胸に、漆黒の闇の中、行く先も定まらないまま僕たちは自由を求めて

疾走した。

俺たちは今後どうなるのだろう。





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