masatake

秋田の独居老人です。

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最近の記事

とんとん、と肩を叩かれた  ショートショート

 肩をとんとんと叩かれた。「大丈夫ですか、起きてください」という声がする。煩いなあと思い、「何だよ、この-」と言いながら目を覚ました。 警官が二人いた。「駄目ですよ、人の家の前で寝てたら、住民の方が心配して電話をくれたんですよ」と警官の一人が言った。 人の家の前に、そう、玄関から道路に出るところの家と道路の境に寝ていたのだ。道のまんなかでなくて良かった。いや、そんなことじゃない。飲み屋から家に帰る途中に、人の家の前で酔っぱらって寝込んでしまったのだ。 警官が言う「歩けますか?

    • 【ショート】好きな道があった

       子供のとき、夜の空には無数の星があった。僕は北斗七星を眺めるのが好きだった。  学校は嫌いだった。友達はいなかった。担任には嫌われていた。担任はいつも他に誰もいないと「何でお前が委員長なんだ」と、僕に向かって舌打ちをするのだ。それでも毎日学校に行った。行くものだと思っていたからだ。学校へ行くこと自体は、それほど苦痛ではなかった。  通学路があった。そう、僕は通学路が好きだった。小さい石ころがごろごろしているが、平らに均された歩きやすい土の道だった。何故かは今でも分からないが

      • 【短い話】知らない女・知らない男

        突然助手席のドアを開け女が乗り込んできた。道路は信号待ちの車で混んでいた。助手席に座ると、女は前を見たまま喋りだした。 「わたしねぇ、今度緑ヶ丘病院に勤めるの、就職するの怖かったんだけど、思い切って申し込んだら受かったのよ」と。 俺はこの情況に対応できずにいた。 女は続けた。「ところであんた、緑ヶ丘病院に行く?」 俺は答えた。「行かないよ」と。 「そう」と言って女は黙った。  どうやら車のドアに描かれている小さい擂り鉢と太い擂り粉木の絵を見て、薬屋と目星をつけて車に乗り込んで

        • 彼は光の中の埃を見ていた

           後ろの上の窓から丸い光が前のスクリーンに当たっている。光の中の埃はじっとそこにいた。  彼の生まれた町には映画館がなかった。高校受験に失敗した彼は、中学を卒業したあと地方都市の鉄工所に就職した。人付き合いのできない彼は何の楽しみもなく、たまに暇潰しに映画を観る以外は、会社の社長が保証人になってくれたアパートの部屋にただぼうっと座っていた。  埃からスクリーンに目を移すと、内藤洋子が洗濯機に付いているローラーを回して、洗った服の水を絞っていた。  彼の前に光が差してきた。工

        とんとん、と肩を叩かれた  ショートショート