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ネオ・ジオン抗争 概論 1

 ネオ・ジオンは「国家」か。

 本論では、シャア・アズナブルことキャスバル・レム・ダイクンを主導とする一連の武装反乱が終結し、地球圏の情勢が沈静化に向かう現在の情勢を鑑みながら、0080年代後半から発生していたいわゆる「ネオ・ジオン」抗争を概観し、彼らの政治目標の意義と結果の分析を試みるものである。

 「グリプス戦役」終了から7日後の宇宙世紀0088年2月29日、小惑星アクシズを根拠とする武装集団は、「ネオ・ジオン」の呼称を公文書上で使用するようになる。

 しかし、果たしてこのネオ・ジオンは「国家」であったのだろうか。

 国家同士の武力による衝突こそが戦争であり、連邦政府の認識上ハマーン・カーン、のちシャア・アズナブルの率いたこの「ネオ・ジオン」を自称する集団は「国家」だったのだろうか。それとも単なるテロ・グループにすぎなかったのだろうか。

 そもそも国家は、主権を有し、行政権・立法権を行使する機関と、それを承認し決定に従う国民が必要だ。そして、それらを定義付ける法と、他国の承認を受け国家として外交交渉に当たる権利(外交権)を持つ。

 で、あれば地球圏において絶対無二の政府である地球連邦政府の承認がない限り、ネオ・ジオンは国家ではなかった、と言わざるを得ない。連邦政府が公式文書では、常に「戦争」の語句を用いず「抗争」を用いていることは、その政府の認識を窺わせるものではないだろうか。

 しかしその勢力の及ぶ範囲では、ネオ・ジオンは間違いなく「国家」であり、国軍としての軍事力を有している。旧世紀史を紐解いてみれば、初期の段階においては一勢力に過ぎなくとも、その後諸外国の承認を受けて「国家」となった例は多く(中華人民共和国やソヴィエト連邦、キューバ共和国などが代表例だろう)、結果のみで非国家と論断することはできない。

 ネオ・ジオンは政体として軍事政権military dictatorshipであり、軍・政不可分の組織であった。旧ジオン公国の憲法がどの程度施行されていたかは、ネオ・ジオン崩壊と共に、公文書のほとんどは消失しているため、個々の元ネオ・ジオン参加者からの発言に頼るより他ない。しかし、旧ジオン公国憲法においても国家元首たる公王デギンは実権を持たず、軍・政権は総帥ギレンに集中していた。これは、ネオ・ジオンでのミネバ・ハマーン体制に類似している。

 小惑星帯に潜んでいた0083年にアクシズの実質的指導者となったハマーンは、第一次ネオ・ジオンの崩壊までその地位にあった。現在公表されている映像などでは、主に軍事指導者としての側面を多く見ることができる。では、軍事政権の指導者として、内政面ではどうだったのか、という疑問は残る。このネオ・ジオンの内政面を支えていた人々の存在については後述する。

 また軍事政権として、その国力に比して過大な軍事力の維持のための資金はどこから捻出されていたのか、という疑問もある。連邦政府の見解では、その資金源としてスペースノイドたちのカンパが大半を占める、とされているが、その説明にはスペースノイドへの偏見も含まれており、全面的には受け入れがたい(ブッホ・コンツェルンやビスト財団などが大手出資者として存在しているという未確認情報もある)。

 表面上ネオ・ジオンを国家として承認してはいない地球連邦政府は、その体裁を裏切るかのように、二度の「外交交渉」を行っている。0088年8月31日のハマーンのダカール入城から始まったサイド3譲渡に関する交渉と、0093年3月6日サイド1ロンデニオンにて行われたシャアとのアクシズ譲渡に関する交渉である。この二点については、後論で重点的に取り上げる。

 本論では前半部で前提として、ハマーン、シャアの両ネオ・ジオン勢力の分析を行い、後半では戦況の変動とその中での各アクターの言説を記録上から拾いながら、その宇宙世紀で為した意義を概観するものである。

 また、本論内の用語としては、特に註を加えない限り、人口に膾炙する意味で用いた。


第一部 ネオ・ジオンの構成

 人材と資源

  第一次ネオ・ジオン抗争期に主力として戦線に立っていたラカン・ダカラン、マシュマー・セロ、キャラ・スーン、アリアス・モマ、オウギュスト・ギタン等の人材は旧ジオン軍からの引き継がれた人材であり、多くは一年戦争時期の少年兵である。また、第二次期に関してはギュネイ・ガスは一年戦争時期にはまだ幼児であり、旧軍とは無関係であると考えられる。

 これらから見えるように、旧ジオン公国以来の旧弊である物資の不足・人材の枯渇は目に見えて明らかだ。国力、特に人口が、連邦に比して圧倒的少数であるという事実は消し難い。

 それを打ち消すために、ジオンは伝統的にモビルスーツの高性能化を進めているが、それは第一次期に非常に先鋭化している。この分野には多数の先駆的研究があり、そちらを参考にされたい。

 またモビルスーツと同様に、パイロットとしてのニュータイプ研究も進められていたが、旧ジオン軍フラナガン機関の研究データや人工ニュータイプ、いわゆる強化人間のデータは、第一次期においてグレミー・トトが組織していたニュータイプ部隊や、第二次期でナナイ・ミゲルの指導していたニュータイプ研究所に受け継がれていたと考えられ、旧ジオン軍からの人的継承が窺える。

 資源に関してはアクシズと、アクシズの採掘終了後には主としてはキケロなどの資源採掘用小惑星から得られる鉱物資源が第一次期の主要資源となっていたが、それでもなお不足は否めず、ハマーンによるネオ・ジオン地球降下の一因ともなった。だが、この地球降下により、宇宙軍と地球降下軍の距離が広がり、結果、後述する第一次期終盤の内部分裂の一因に繋がっていることも否めない。

 第二次期の資源調達に関しては、アクシズは連邦軍の管理下にあり、また、0089年ごろから地球圏内のアステロイドの管理体制も強化されていたので、主に支援者による闇ルートからの入手しかなかったと考えられ、、モビルスーツや艦艇の資材・弾薬・燃料の使用などは厳しく制限されていたと推察される。

 連邦軍、特にロンド・ベル隊に発見される恐れもあり、調達には細心の注意を要したが、それを成し遂げ、結果ラサ攻撃直前まで発見されなかったという事実は、スペースノイド支援者たちによる組織的な隠蔽が行われていたのでは、ということも想起させる。

(第二次ネオ・ジオンは艦艇総数12隻、モビルスーツは100機に満たなかったという情報もある)

 また、資源調達の難は、地球寒冷化作戦を掲げ、地球への降下・資源取得をその政策に含めなかったシャアにとって、戦略として極短期決戦、条約違反を犯しての核兵器使用という路線を進めざるを得なかった要因ともなっている。

 国歌問題

 第二次期に巷間に流布した「ネオ・ジオン国歌」と称されるものは、公的資料にも散見されるが、それが事実、国歌であったかどうかは確定できない。

 しかし、前述したように、一組織がその後国家として成立する歴史的事例は多く存在しており、難民収容コロニー、スウィート・ウォーター以下の少数のスペース・コロニーや小惑星を掌握していたに過ぎなかったとしても、結果のみを見て論ずるのは可能性の否定だろう。

 そもそも国歌National anthemは旧世紀の各国家では、憲法他の法によって定められ国歌の祭典などで奏でられた。多くの場合は政治演出のため、国の偉人などに作詞・作曲をさせるものだったが、国家成立の歴史的淵源において産まれたものを採用している場合も多い。

 例えばフランス共和国「ラ・マルセイエーズ」は、フランス革命時に軍人ド・リールによって作詞・作曲された軍歌であり、中華人民共和国「義勇軍行進曲」はプロパガンダ映画の主題歌であった。またアメリカ合衆国「星条旗」は米英戦争中のフランシス・スコット・キーによる詩を当時の流行歌に乗せたものだが、正式に国歌と定められたのはそれから百年以上後である。

 以上のように、長く愛唱された歌が、国家の正式成立を経て国歌とされる場合は多く、「ネオ・ジオン国歌」も現段階では非公式だった、とするのが妥当だ。だが、先述したようにネオ・ジオンにおいて旧ジオン公国憲法がどの程度施行されていたのか、もしくは新憲法の制定があったのかは未確認であり、それらの法定の元、国歌の規定がされていたのであれば、議論は大きく覆される。

 今後の調査を待ち、別論したいと考えている。

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