道【エッセイ】
冬の北海道。美しくもあるが、厳しいことのほうが、はるかに多い。だから、東京人になりきってしまった自分は、戻ろうとは思わない(絶対に)。が、子どもにとっては、学校の行きかえりの道が、格好の遊技場だった。
かえり道。凍った道路の車輪の跡、わだちが、ランドセルを滑らして遊ぶ装置になる。もちろん、ボーリングやカーリングなんて、知らない、半世紀も前の時代。どこまで遠くまで滑らせられるかを競いながら、家まで帰る。当然、革の傷みが早まって、のちに、母親に叱られることになるのだが。
雪降る夕方。楽しみがある。道端の街灯の下に、ドーム状の明るい空間ができる。その街灯の下に仰向けになると、雪は、暗黒の宇宙から落ちてくる流れ星。まるで、プラネタリウム。あまりにも幻想的な状景にしばらく見とれてしまい、夕食に遅れ、叱られたこともある。
朝は凍( しば )れて、田畑の雪面が固くなる。田畑の雪原が、学校までのショートカットに。長靴で歩いても、足跡がつく程度。時には、スキー板をつけて。まさにノルディックである。だが、気をつけることがある。火野葦平の『糞尿譚』ではないが、肥( こえ )溜( だめ )といって、肥料となる糞尿を溜める穴に、年に一人は落ちるものがいる。秋のうちに肥溜マップを更新しておくことを、怠ってはならない。
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