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他責の人を見捨てるのって他責じゃないの?

“自責じゃない人と関わる時間は無駄っていう人は自責なのか?”

他責、自責という言葉が世の中に浸透しています。特に他責は良くないという風潮、僕も賛成です。

他責という言葉が駄目だとされる理由でよく引用されるのが、会社や上司に対して責任転嫁するぐらいであれば自分を磨こうよ、自分に投資しなよ、自分を変えられれば、周りは変わるよ、だから、まずは自分を成長させようよ、そんな論調が目立ちます。そこまでは良いと思います。

でもそう言う人の中には、部下、または周囲に他責の人がいた時に、向き合うことを諦める人が多いことも事実です。他責の人に何を言っても、結局人のせいにして終わるから助言する気が失せる、というのがその人たちの特徴です。

しかし、自責が大事と唱える人達は、仕事で壁にぶつかったときは成長のチャンスと説きます。できる、できないではなく、やり続けることで成功を掴めるとも言います。

失敗は諦めることであって、成功するまでやり続けられる人が成功を掴んでいると主張します。

“人材育成も同じではないのか”

「他責の人に助言して、素直に聞き入れられなかったから、言う気が失せた」

これは自責の態度ではありません。つまり、自分の伝え方、例の出し方、普段の関係性などを改善しようとする姿勢がなく、相手の姿勢のせいにしていることにはならないでしょうか。

普段自責と自覚している人が、実はこのように他責の気持ちを持っていても許されるのには理由があります。

それは、世の中の”共感“が自責と他責の境目になっているためです。今使われている自責という言葉は、会社のせいにしていない、人のせいにしていないという点さえ守れば自責と称することができます。

結局愚痴を言っている人達は何も行動しないよねって共感し合っています。そうすると、自責の定義が、現状を打破するために、環境、人のせいにせず、行動し続けられるということになります。そして、何か失敗があった場合、会社に責任を置かなければ自責の仲間入りを果たすことができるのです。

でも、これから企業にとって、人材の獲得は困難な時代に突入します。そうなると、今いる人材が成長できる方が企業も社員も喜ばしいはずですよね。

“人材育成においても自責で徹底してみないか”

人材が成長するためにも、他責の人を見捨てずにとことん向き合っていく情熱が必要です。そのためにも「自責」という言葉が一人歩きしないよう改めてニュアンスを定義したいです。

自責という字から伝わる意味として、自分に責任を置くこと。転じて人生に主体的に挑むこと。他者や環境に振り回されないということが挙げられます。

ただ、類義語も豊富にあります。ほんの一部だけど、以下に挙げてみます。

自律型思考
自立型
影響の輪(インサイド・アウト 7つの習慣より)
『自分が源泉』(鈴木 博氏の著書より)

自責という言葉は使い方を誤ると二重苦になる恐れがあります。相手が他責で自分が自責だと相手も自分を責めて、自分も自分を責めてという具合です。

そのため、ここで扱う自責は次の考え方を定義としたいです。

「すべての状況は自分が作り出していると捉えること」

責任の所在の観点を外して考えることが重要です。

頭でっかちな理論が続いたので、以下に実際の事例を紹介します。

“自責を徹底できれば、必ず人は輝く”

僕がマネジャーとなって2年目。他の部署から異動してきた女性社員Cがいました。社会人4年目である彼女は以前の部署で、その人格、素行が問題視されて周囲の信頼を得られなかったという引継ぎを受けました。

着任当初の彼女の特徴は以下の通り。

・会議中は口パクで何か聞こえない程度にぶつぶつ唱えている
・イライラした様子を隠さず、案件者を時々睨みつけるような表情を浮かべる
・極度に失敗を恐れる

僕の部署でもベテラン社員から、このような態度について僕に疑問の声が挙がるようになりました。でも、僕はその女性社員がなぜそのような態度を取るのか、興味が湧きました。

僕自身がかつて、対人関係が苦手だったこともあり、不器用な対応をしてしまう人を見るとどんなルーツがあるのか知りたくなるのです。

しかも前述の態度には、要因についてある程度の予測がありました。そこで、2週に1回程度の頻度で該当の社員と面談することにしました。今でいうところの1on1です。

「会議の時にさ、口パクしているのって、案件者が議案書に記載した時間を過ぎることに対してイライラしてるんでしょ」

「はい、百歩譲って過ぎるのは仕方ないにしても、過ぎたことを取り戻そうと焦った様子が無いのにイライラしてしまっているかもしれません」

「自分も最初にいた部門が案件時間に厳しかったから気持ちは分かるな。確かにCさんは説明するとき、ちゃんと準備しているからこっちも聞きやすいもんね。予測しない質問とか来ると、時間は過ぎてしまう時もあるかもしれないけど、質問を予想して準備する。それでも過ぎたら、なんとか最小限におさえられるよう努力する。その価値観は共感できるから、来週の会議で自分から意識するように発信するよ。だから、口パクで唱えるのは減らしていこう。そんな良い価値観を持っているCさんの見られ方が損して勿体ないから」

どうでしょう。長いですね。話が長いと自分でも感じます。でも、前の部署のべき論に染まってしまっている人に、何か態度を変容してもらおうと考えるなら、その人の価値観に理解を示すことが肝要だと感じました。というよりも共感や承認はテクニックではなく、本当にそう思えるような感情を伝える、育成側の器が試される瞬間です。

今回の面談で、自分で言うのはおかしな気持ちだけど、彼女は初めて自分の態度を否定するのではなく、裏側にある価値観を承認してくれる上司と出会いました。

仕事の締切をしっかり守っている人が、ちょっとした態度の受け取られ方で、コミュニケーション能力が高いだけの人間より評価が下がってしまうことは避けたかったのです。

1on1を重ねる中で会議でぶつぶつと唱えたり、案件時間についてイライラした様子を見せなくなってきた彼女は、次の課題がありました。

自分の価値観と合わない他者に心を閉ざしてしまいます。彼女の中で、仕事の進め方とはこうあるべきというのが、会議以外でも多く存在したため、その価値観と違う仕事をする人にまたもやイライラした様子を見せていました。

「Cさんのさ、仕事の仕方は、自分は好きだよ。計画性も報連相もしっかりしているから信頼できる。でもさ、今のうちのメンバーを見ると確かに計画性が弱い人もいる。そこは変えていかなきゃね。ただ、そこに何でそんなことするんだろうっていう感情を持っちゃうとCさんが苦しくなると思うんだ。どうしたら、その人に計画性を持たせられるんだろうって思えたら良いね」

「そんな風には考えられません」

「確かに初めは難しいよね。ただ、計画性という点ではCさんに軍配が上がるけど、行事の仕切りとなったら、相手の方が優れている。そんなことはよくあるから、お互いで良い面を発揮し合うのがチームだよね。まっそれは次のテーマかな」

質問を主体とするコーチングからすると、ティーチングの時間が長いと感じることでしょう。それもそう。この時は僕も焦っていたかもしれません。そして、マネージャー2年目の自分の面談の力はまだまだ未熟でした。

でも女性社員に響かないのは、自分の伝え方の問題だと捉えることができました。そして、その社員が周囲のメンバーに信頼を得られるゴールについては、絶対にあきらめませんでした。

“人の多様性を認めるには、自分のルーツを知る”

人って面白いのは、前回の面談で満足のいく回答が得られなかったとしても真に相手を思う心で伝えていると、面談後に自問自答してくれているという点です。

これまで何度も面談する中で、Cさんの存在を承認している気持ちは伝わっていました。上司が信頼を寄せる、初めての経験で受容するのに時間を要したようですが、今回の面談は突っ込んだ質問ができるようになっていました。

「そこまで『べき論』が強かったり、時折見せる挙動不審な態度が面白いね。細やかな仕事で信頼できるけど、そのルーツは何なんだろう。兄妹とかいる?」

人格や能力は家庭環境が全てではないけど、要因の一つが隠されていることも多いので突っ込んだ質問をしてみました。

「3つ離れた妹がいます。仲は良くありません。親は離婚しているので、父は中学の時に家を出たきり、その後は分かりません。母は妹を可愛がっているので、自分は母親にはよくブスと言われていました。会社の人にこんな話をしたのは初めてです」

これまでの面談で信頼関係を築けていたからか、ここまで踏み込んだ話をしてくれました。
ここで注意したいのは、せっかくここまで深いルーツを吐露してくれたのに、「そうだったんだね」という返事だけで、軽く流してしまうと、何の成果も得られず、成長も促すことができない、ということです。

「そうだったんだ。話してくれてありがとう。だから、あれだけ受け手の気持ちに配慮した細やかな仕事ができるんだね。自分も家庭に問題があったから分かるよ。早く家を出たかったし、末っ子だけど、親や兄弟の喧嘩を一番弱い立場で見ていたしね。でも今はその環境に感謝してる。その環境があったから、今の仕事に活きることが多いから」

相手が抱えるコンプレックスのルーツを吐露してくれた時には、こちらのコンプレックスも共有する。例え、既に乗り越えていたとしてもです。

“自分の闇を克服できた者は、人の闇と対峙できる”

このように彼女の場合は、仕事の仕方というよりも主に考え方、他者との関わり方の改善をゴールに面談を重ねていきました。

今の自分を承認してくれる人がいれば、過去の自分を認めることができます。過去の自分を認めることができれば、過去の自分を作った原体験や事象を許すことができるようになります。

簡単なことではないけど、過去を乗り越えられるよう支援してくれる上司がいれば、どんどん他者を許す発言が出てきます。

また、「今回は私の伝え方でもっと工夫ができたと思うんですけど」と「自責」を意識した言葉が出てくるようになります。そうなると人の成長は早いです。

自分の原体験に蓋をせず、辛くても向き合う。
過去の自分を許し、今の自分が承認されていることを素直に受容する。

「この状況を作っているのは自分だとしたら」という態度で他者と関わる、
そうすると、他者との違いを受容できるようになり、他者に分かってもらうには自分をどう変えれば良いのかという視点を持てるようになります。

これはコーチやカウンセラーと名乗る人達がすべき仕事じゃないのかと思う人もいます。でも、私は仕事上で関わる身近な上司からこのような支援を得られることが一番大事だと身を持って知っています。

異動前には素行や人間性で否定されていた彼女は今、複数の社員の育成を担当し、多くの社員の前で方針を発信する主任という役割を得ています。
家庭の克服は完全ではないけど、それでも過去に囚われないように原体験を完了しようと挑戦する姿勢は続いています。

“人はいくつになっても変われる”

続きはまた違う記事で。最後までお読みくださり感謝。

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リーダ―育成コンサルタント

本間 正道
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https://note.com/sanctuary_event/n/nc67ae420937f


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