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名和晃平「京都美術文化賞受賞記念展」

京都文化博物館の5階にあるレンタルギャラリースペースで開催中の京都美術文化賞受賞記念展(2020年1月26日まで)に行ってきた。お目当ては、名和晃平。「美術の創作活動を通じて京都府市民の精神文化向上に多大の功績があった人」(京都美術文化賞ホームページ)として、京都中央信用金庫の財団による京都美術文化賞の今年度の受賞者の一人となったらしい。

日本で開催される美術展「あるある」で、写真撮影禁止。その上、ウェブ上に画像が一つたりとも存在しない。なので、展示の様子を、言葉と関連写真でしか表現できないのだが、それでも伝えたいのが、名和晃平の、悪条件下での自分の作品の見せ方。照明デザインを駆使して、お世辞にも魅力的とは言えない古びた展示スペースを、見事に素敵な居心地の良い空間に転換させていた。

名和晃平って誰?

名和晃平は、ヴェニスを訪れた時に初めてその作品を目にして以来、ずっと気になっているアーチストである。その時見た作品はこちら。

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(ちなみに、これは2011年の展示の様子。さすがイタリアで、しっかりウェブ上にアーカイブしてあった。展示が終了したらすぐにウェブサイトが閉鎖される日本の美術展で見た作品だったら、こうはいかない。)

鋭いコンセプトに根ざした作品自体もそうだが、名和晃平が気になる理由は他にも二つあって、一つは、インテリアデザイナーでもあるということ。去年、京都BALというファッションビルに新しく入居したスターバックスのインテリアが度肝を抜いた。画像は、名和晃平のデザインスタジオ Sandwich から拝借

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気になる理由のもう一つは、彼が、東京ではなく京都に住んでいるということ。だから、「京都府市民の精神文化向上に多大の功績があった」と評価されたのだろう。

東京出身であるにもかかわらず京都に住んでいて、昔、インテリアデザイナーを目指していたこともある自分には、どうしても気になってしまう存在である。

「ダークモード」

さて、この「京都美術文化賞」展の会場。考えられる上でおそらく最も気分が滅入るタイプのギャラリーだった。床はありがちな灰色のカーペット、壁は当たり障りのないベージュ色の古びたクロスで覆われている。他の受賞者の展示スペースは、蛍光灯を模した白いLEDの光で天井から照らされていて、そんな空間の中で展示される作品たちが可哀想だった。

この悪条件に対して、名和晃平が示した解決策は、「ダークモード」。作品を照らす照明だけを使って、暗がりの中で、作品が浮かび上がるようにしていた。(写真を載せたいところだが、撮影禁止かつウェブ上に展示風景写真が皆無なので、不可能。。。)

彫刻作品 Ether は、温かみのある色の大きめのスポットライトで4方向から照らされ、床には、Xの形をした長い影。名和晃平のウェブサイトに載っているこの彫刻の大型バージョンが外で展示されている様子(以下の写真参照:画像元)から得られる印象とは異なる解釈で、この作品を見ることができた。

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もう一つ展示されていたのは、絵画作品である Direction 。壁にかけられた4つの絵は、非常に小さな照明器具からの白い光で照らされていた。それらの照明器具は、天井から吊り下げられているか、床に置かれているのだが、全く目立たない。その結果、平面的な絵が、ある一定の角度から見るときだけ立体的になるというイルージョンを、何かに邪魔されることなく楽しめた。(なお、Direction の別バージョンの作品は、名和晃平がデザインした京都のホテル Hotel Anteroom の部屋に以下の写真のように飾られている。画像元

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そして、驚いたのは、怠い灰色のカーペットと古びたベージュ色のクロスで覆われた壁が、照明デザインによって、魅力的な表情を見せていたということである。作品と相まって、展示空間はとても心地よいもので、時間が許すならいつまでも居たいと思わせた。

その理由を考えるに、もしかしたら、照明に照らされた作品が、あたかも太陽からの光を反射して夜の大地に届ける月のように、辺りを照らしていたからなのかもしれない。月明かりに照らされた夜の風景は、21世紀の都会に住む我々には想像しにくいのだが、近代以前の日本の絵画がその美しさを教えてくれる。例えば、伊藤若冲『柳に鶏図』(18世紀後半、福田美術館蔵)。墨の濃淡で、月明かりが表現されている(画像元)。

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芸術はどう照らされるかも含めて一つの作品

本来なら名和晃平の作品そのものをメインに語るべきなのだろうが、最も印象に残ったのは照明デザインだった。でも、芸術作品は、その見せ方を含めて、一つの作品だと思う。そのことを、名和晃平は完全に理解している。おそらく、インテリアデザインの仕事をしていることと無関係ではないだろう。

あるいは、京都に住んでいるということも大きく影響しているのかもしれない。薄暗い空間の美しさに気づくことのできる伝統家屋が多く残っているという点で、京都は東京の比じゃない。(下の写真は、リノベされた京町家の一例。画像元

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(以上は、私が同内容で英語で書いた記事の日本語訳です。)

2021年1月25日追記

展示の様子を写した写真が、朝日新聞デジタル(2020年1月25日付)に載っていることに気づいたので、転載する。

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実際の照明の明るさよりも明るく画像編集されている。これでは、この記事に書いた、私が感じた心地良さが伝わらない。。。

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