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振動の先に

家の外から漏れてくる音を聞くのが好きになった。
静かな場所に住んでいるので、もともといろんな音が聞こえやすい。
赤ちゃんの泣き声、子供の遊ぶ声、食卓を囲む声。
あたたかくなって窓が開いている家が多いのだろう、最近、特に賑やかだ。
誰かが自転車で通り過ぎる音、トラックの荷台の金属音。
私は風を通すのが好きで、年中窓は開けていることが多い。
家の中でもドアストッパーをして扉は開けておく。
空気が巡る感じがたぶん気に入っている。
同じように生活している誰かの音を聞いて、ほっとしているのかもしれない。
今までこんな風に思ったことはなかったけれど、きっと自分の心臓も体を流れる血液も、音を立てているはずだ。
細胞が壊されて再生する。
記憶の引き出しがコトリと音を立てる。
涙がせりあがってくる。
心が動く。
きっと私たちの体には無数の音があふれている。
そのわずかな振動が生きていくための何かに繋がっていてもおかしくはないのかもしれない。
そんな風に思いながら雨の音に耳を澄ませる。
もう夏の匂いがする。

#音 #エッセイ #振動 #コラム

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