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納豆と林檎

冷蔵庫を開けて納豆を出したら、半分残っていたカマボコが落ちた。拾い上げてヨーグルトの前に置いてたら、マヨネーズが倒れてきて閉まろうとしているドアの邪魔をする。
食パンに納豆をのせてトーストする。納豆にカラシは入れない。タレは半分だけ使う。
熱湯を注いだインスタントのスープをかき混ぜておく。
今日はパンの気分だった。あれだけかき混ぜたのに、スープは端っこで溶け残っていて、薄味になってしまっていた。
納豆がお皿に一粒落ちる。あ、と思いながらかじりつく。次は膝に一粒。
何でもない日常を愛することは難しいと思う。
こんなのが愛すべき日常、なんて言うつもりもない。
何にどれだけ価値があるかなんて、失ってみなくてはわからないのだ。
ぬるいスープをかき混ぜながら思う。
自分の価値を守るということは、こんな日常を心に留めておくことかもしれない。
書き留めておくに足りない日常こそ、自分そのものかもしれないと感じる。
誰も入ってこられない領域。けれどもそんなところこそが、誰かと奥で繋がっている感覚。
スープの後は、迷ったけれど林檎にした。リビングに染み込む包丁の音。この振動が地球の裏側まで届いて、誰かの夢の中に林檎が出てくることだってあるかもな、と想像したりする。
秋の昼下がりに。

#エッセイ #納豆 #林檎

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