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幸福か祝福か。

今回書いた小説は、小さい頃の話を元にしたものだった。
私小説というのだろうか、ちゃんと小説になっていればの話だけれど。
どうしてわたしは小さい頃のことばかり書くんだろうと考える。
どうしてこんなに鮮やかに覚えていられるのだろうかと、前に友人に言ったら、
「自分らしくいられたからじゃない?」
と返ってきて、本当にそうなのだろうかと今でも考えている。
自分らしさとは何かというややこしい問いに行きつくので、それは一旦置いておくことにして、
堀辰雄の〈風立ちぬ〉にこんな言葉がある。
「幸福の思い出ほど幸福を妨げるものはない」
思い出から抜け出せないのはそういうわけなのだろうか。
抜け出せないから覚えているのだろうか、だから書くのだろうか、抜け出すだめに?
今回書きたかったのは、たぶん祖母のことだ。
たぶん、と書いたのは、自分でもよくわからなかったから。
決してわたしは祖母との関係がよかったわけじゃない。それでも小さい頃、一緒にいた時間は誰よりも長かったはずだった。
「おばあちゃんにそっくりやね」
言われて嫌だった。祖母の料理も、丈を合わせてくれた着物も、好きじゃなかった。
でも書きたかったのはそんなことではなくて。
うまく言えないから、わからないから小説にしたのだと思う。
〈幸福の思い出が幸福を妨げるのだとしたら、それを書くことは祝福に値する。人生そのものに対しての祝福である〉
少なくともわたしはそう信じておこうと思う。

#エッセイ #堀辰雄 #思い出 #祖母 #小さい頃





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