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ガラス玉のなかの宇宙

最近、小さい頃のことをよく思い出す。
たわいもない場面がぽつりぽつりと頭のなかに浮かんでは消えて、わたしはその度に紙にそれを書き留めていく。
たわいもない数々のシーンは、実はたわいもないものではないのかもしれないと気づいた。
ラムネの瓶の冷たさも、爪の間に入った土も、正面からぶつかってきた風の感覚も、わたしの心をそのとき確かに動かしたのだと思う。
そんなシーンはひとつひとつ物語になって、わたしのなかに積もっていて、ちっとも消えてはいないのだなぁと気づく。

昔、近所の小夜ちゃんとガラス玉にヒビをいれる遊びをした。
フライパンにガラス玉を入れ、ヒビが入るまで炙る。やり過ぎるとガラス玉は割れてしまう。
途中で母に怒られてやめたけれど、何回もの断捨離をくぐり抜けたそのガラス玉をわたしは引き出しから出してきた。
ヒビの入ったガラス玉はきっと落としたら割れてしまうだろう。そっとつまみあげ、午後の陽にかざすと、ひとつひとつ中に入った亀裂が反射して光を閉じ込めている。
ヒビの入っていないガラス玉は海の中みたいで、ヒビの入ったガラス玉はわたしの全然知らない世界を作り上げていた。
ひょっとしたら、宇宙ってこんなところかもしれない。
ガラス玉の中にはいつでもわたしが映っている。

#エッセイ #ビー玉 #炙る #思い出

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