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【彼女の秘密】25日まで無料キャンペーン中

二年前に出版した電子書籍【彼女の秘密】
25日まで無料で読んでいただけます。
amazon、kindleにて。
https://www.amazon.co.jp/dp/B07PHDQQNN/

エッセイやショート小説集です。
エッセイは800字程度、ショート小説は1600字程度のものばかりです。
よかったらどうぞ。

その中から、
エッセイ【彼岸花】

自宅近くの神社の参道を一人歩いていた。傘を少し傾けると濡れた木々の緑がのぞいた。木の葉は水を含んで重たそうに垂れ下っている。あんなに眩しかった夏の気配はもうなく、次に来る季節を内側に隠しているような静けさがあった。
ふと赤い色が目につき、立ち止まる。参道の脇に咲いた彼岸花だった。もうお彼岸なのか。
通り過ぎる季節の早さにたじろいだ。
彼岸花には花言葉がいくつかあり、転生、再会など、お彼岸に関係しているのだろうと思わせるものが多い。炎のような花弁は空に向いて開いていた。

小学校のころ、帰り道に友達と土手に咲いている彼岸花を摘んだ。
「なあ、知ってる?」
友達は私の顔を見て声をひそめた。
「なに?」
私の声も思わず小さくなる。
「彼岸花ってな、お墓にいっぱい咲いてるやん。彼岸花が赤いのは、血を吸い上げてるから赤いねんで」
「え、うそや」
思わず手に持った花を落としそうになる。
友達はにやりと笑い、わたしの前を歩く。
「なあ、知ってる?」
私も負けずに返す。
「彼岸花ってな、家に持って入ったら火事になるからあかんのやで」
友達はふりかえり、知ってる、と花を持ったまま走って行った。
私はたくさん摘んだ彼岸花を握りしめ、家の前に着いた。
友達には言ったものの、どうして家に持って入ったら火事になるんだろう。
いくら考えてもわからず、仕方なく隣を流れる川に全部投げ捨てた。赤いかたまりがゆっくりと川を下ってゆく。
彼岸花の茎から出る汁で手がべたついていた。ちょっと舐めてみるとびっくりするくらい苦かった。

雨に濡れても彼岸花は、凛と佇んでいる。
ひとつだけ摘んで帰ろうか。手を伸ばしかけて、すぐに引っ込めた。
彼岸花は咲いているのを見ているだけでいいのだ。
私はまた足元に視線を戻し、参道を急いだ。
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