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さかいめ

風邪を引いてしまい、家にこもっている。全く動けないわけではないので、途中で放ったらかしにしていた衣替えの続きや、扇風機の掃除なんかをちびちびと始めたりしている。
季節の移ろいは待っていると遅く感じるし、ようやく秋だなと思ったら、もう冬の匂いがする。
心地いい季節はいつも駆け足で過ぎていく。
どんぐりは落ち葉に埋もれ、落ち葉はそのうち霜に濡れる。
洗濯物に潜むカメムシを一匹ずつ摘み出しながら、去年の今頃、私は何をしていただろうかとぼんやり考える。
どんな服を着て、どんな人と会って、何を考えていただろう。
セーターを畳む。サンダルを仕舞う。冬のパジャマを引っ張り出す。
布団の上に滑り込んだ午後の太陽は、ぺしゃんこの布団に少しだけ、暖かみをくれる。
私は布団に頬を近づけた。
太陽の匂いがする。
ずいぶん前から知っている匂いだ。
窓から見える雲ひとつない空に、飛行機雲が一筋、空を切るように走っていった。

#エッセイ #季節 #秋

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