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シナトレ2「頭のテープレコーダーを回せ‼︎」

部屋のどこかにあるmaxellのカセットテープをタイトル画像にしようとしたら見当たらず、ビデオテープで。30分の動画を撮るのに、お弁当箱サイズ。スマホで録画してメールで送れるようになった今と隔世の感があるが、そんなに昔のことではない。

2006年(16年前)に放送されたテレビ朝日の深夜ドラマ「快感職人」の関係者確認用の完パケはビデオテープだった。時はめぐり、配信で見られる時代に。全10話が手のひらサイズの端末(スマホ)におさまる。全10話どころか、膨大なコンテンツにアクセスできてしまう。

ちなみに2022年現在、関係者確認用の素材や完パケは「CDやDVDに焼く」と「ファイル共有」と「動画URL共有」が混在している。

ファイル転送で送られる場合、Wi-Fiが不安定だったり、パソコンの容量が足りなかったりすると、ダウンロードに苦労する。以前テザリングでギガを買い足しながら映画一本ダウンロードしたら5000円かかり、泣いた。

シナ筋を鍛える

シナトレ第1回「採点競技に、ぶっつけ本番⁉︎」に続いて、シナトレ第2回。今回も過去の日記の引用にコメントを添える形で。

シナトレ1ではシナリオコンクールを採点競技に例えたが、シナリオの練習はスポーツのトレーニングに似ていると思う。いろんなアプローチがあり、人によって相性があるが、試行錯誤している間にも筋力や体力や気力は養われる。筋トレの場合、「今ここの筋肉を鍛えている」と意識しながら負荷をかけると効果的だというが、シナトレの場合も、日常の何気ないことを「これは台詞の勉強だ」「これは設定の研究だ」と意識すると、シナリオを書くのに必要な筋肉が身についていく

誰にでもできる手軽なシナリオ筋トレとしておすすめなのが、「頭の中にテープレコーダー」法。頭の中に記憶装置があると想像して、そのスイッチをオンにし、耳に飛び込んでくる台詞を記録する。これは、コピーライターとして「時代の空気を読むアンテナを張る」練習だったが、シナリオを書く上でもとても役に立つ。

2005年7月27日(水)の日記

「テープレコーダー」というところに時代を感じる。元の原稿を書いた2005年時点でもすでに古かったが、わたしが広告代理店に入社した1993年、テープレコーダーはまだまだ現役だった。

「頭のテープレコーダーを回せ」。今の時代なら「頭のボイスレコーダーを回せ」。ボイスメモならさらにお手軽。

作り置きおかず作戦

大事なのは、「自分でスイッチをオンにする」こと。その瞬間、音の洪水の中から「記録すべき言葉を拾い出す」作業がはじまる。通勤電車、待ち合わせのカフェ、上映前の映画館……特別ではない場所で交わされる会話の中にドラマはある。「この台詞面白い」と思ったら、なぜ面白いのかと考え、その感想も一緒に記録する。

聴き流すだけじゃなくて、書き留める、書き出すことで記憶に引っかかりを作り、ストックにできる。語学のリスニングで単語や文法を身につける過程に似ていると思う。

「頭の中にビデオカメラ」にバージョンアップして、その場の映像ごと記録し、同時にそれをシナリオの形に置き換えると、作り置きのおかずのように、すぐに使えるネタをストックできる。

音声だけじゃなくて動画で映像ごとインプットして書き出しておくと、映画やドラマの脚本を書くネタにできる。作り置きのおかずを冷凍して、必要なときに解凍して使う感じ。

脚本は「柱」「セリフ」「ト書き」

脚本は「設計図」なので、現場にいる皆が完成イメージを共有できることが大事。

ドラマや映画の脚本は「柱(カメラの位置と照明を指定)」「セリフ」「ト書き(カメラに映るもの、動きを指定)」で構成される。柱、セリフ、それ以外がト書き。

柱の場所の後に(朝)(夕)(夜)と入れると、照明を指定できる。何も指定がなければ昼。(夜明け)(早朝)も指定できる。

ラジオドラマなどの音声脚本のト書きは「カメラに映る(見える)もの」ではなく「レコーディングされる(聴こえる)もの」を書く。詳しくはclubhouseで脚本を作った「漁師のリカコさん脚本塾」の記録noteをどうぞ。

つくおきレシピ例「ファミレストンネル事件」

シナトレ2を日記に書いた2005年当時わたしが講演や脚本教室でネタにしていたのが「ファミレストンネル事件」。近所のファミレスで遭遇した「事実は小説より奇なり」なできごとだが、その一部始終を頭のビデオカメラで記録し、脚本に起こした。

noteで見やすい書式にして紹介する。

✔️通常ト書きは頭何文字か(3文字だったり5文字だったり)空けるが、改行が入ると見辛いので、あえて頭揃えに。
✔️ト書きとセリフの区別をしやすいよう話者を太字に。

○ ファミリーレストラン・店内
遅めのランチを取る客で、混みあっている。
食事を終え、本を読んでいる今井。
右隣のテーブルで向き合う中年カップルが、
中年男「問題は電話だ」
中年女「ガスは?」
中年男「しまった。ガスもだ。電気は何とかなるが、ビックカメラも間に合わねえ」
今井「(何の相談なのだろうと見る)」
カップル、かき氷をせわしなくつつきながら、
中年女「早く手を打たないとダメよ」
中年男「とにかく電話しよう」 
と携帯電話をプッシュし、耳に当てる。
本に目を落とし、会話に耳を集中させる今井。
中年男「(電話に)もしもしー? 今日、引越してきた者で、そちらに来てもらうことになってるんですが、今、事故で電車が止まってまして」
中年カップルの向かいのテーブルに、
ウェイトレス「お待たせしました。アイスティーです」
とドリンクを運んで来る。
今井「(電車にドリンク来ちゃったよ)」
と中年男の反応を見る。
中年男「(かまわず続けて)まだ着いてないんです。住所はですね、くっそー、住所がわかんねえや。あ、今、トンネルに入りますので切れます」
あわてて電話を切る男。
今井,あっけに取られて見ている。
と、今井の左隣のテーブルから、
男の声「(ボソボソ)事故で止まってるのに、トンネル入らないよな」
今井、声のほうを見る。
一人で食事しているスーツ姿のサラリーマン。
今井「(この人も聞いていたのか)」 

「   」の中に(   )を入れて、仕草や描写や心の声を入れる「(   )」はと便利で、今もよく使っている。監督や演出によっては嫌う人もいるし、逆に好む人もいる。

今井、何の相談なのだろうと見る。

ト書きで書いても、

今井「(何の相談なのだろうと見る)」

話者「(    )」で書いても同じことなのだが、ト書きの場合は「登場人物の動き」、話者「    」の場合は「登場人物の表情」にピントが当たる感じで、ト書きのほうがカメラが引いているイメージ。

また、脚本=劇中で流れる時間なので、話しながら動作する場合は「(    )」に入れ、セリフの後に動作する場合は「     」の外に出してト書きに、とわたしは使い分けている。

ファミレスの現実は想像を超える

ちなみに、中年男が見つけ出した新居の住所は、ファミレスから目と鼻の先。かき氷を食べてる間に駆けつければいいのにと思うのだが、大嘘電話をかけてまで遅れる必要があったのだろうか。

客の年齢層が広く、強烈なキャラクターの出没率が高いファミレスは、レコーダーを回すのにうってつけの場所。

「この石けんすごいのよ。頭から車まで洗えるの!」

なんて掘り出し物の台詞が飛び交っている。このネタはプロットに参加していた朝ドラ「つばさ」に登場させた。

「この石けんすごいのよ。頭から車まで洗えるの!」なんてセリフは、頭では思いつかない。そんな石鹸が現実にあり、それを売るネットワークビジネスがあり、その勧誘がファミレスを舞台に行われる。

ファミレスに限らず、カフェでも怪しい勧誘はそこかしこで行われていて、わたしは頭のボイスメモをオンにして、おいしいセリフを書き留めている。その一部を「脚本家が見た膝枕」という作品に登場させた。


シナトレ1 採点競技にぶっつけ本番?

目に留めていただき、ありがとうございます。わたしが物書きでいられるのは、面白がってくださる方々のおかげです。