あなたの誕生日をナビゲート─膝枕ナビコ「ナビコのお誕生日をお祝いしますか？」の巻
このnoteで公開している作品は、2021年5月31日から朗読と二次創作のリレー（通称「膝枕リレー」）が続いている短編小説「膝枕」の派生作品で、外伝「膝枕ナビコ」シリーズの一編です。
今井雅子作「膝枕」外伝 膝枕ナビコ「ナビコのお誕生日をお祝いしますか？」の巻
N「ナビ搭載膝枕ナビコにお預けを食らい続けて1年3か月と130日目に誕生日を迎えた休日の朝。独り身で恋人もなく打ち込める趣味もないナビ主は、その日の予定もやはりなかった」
ナビ主「ナビコちゃん、今日、誕生日なんだけど、お祝いに膝枕してもらえたりするかな」
ナビコ「牛タンを常備しますか？」
ナビ主「牛タン、常備しない」
ナビコ「ゾウのタンがお好みですか」
ナビ主「牛のタンもゾウのタンもいらない。タン・ジョウビじゃなくて誕生日ね。常備菜みたいになってるよ」
ナビコ「常備菜のレシピをお調べしますか？」
ナビ主「調べない。料理から離れて」
ナビコ「常備薬を買いに行きますか」
ナビ主「薬からも離れて」
ナビコ「アメリカの初代大統領はジョービ・ワシントンです」
ナビ主「ジョービじゃなくてジョージね。大統領情報いらない」
ナビコ「ジョービ・クルーニーについてお調べしますか」
ナビ主「ジョージ・クルーニー情報もいらない」
ナビコ「ナビ主さんは、ハリウッドスターから学ぶべきものが大いにあると思います」
ナビ主「あるかもしれないけど、ナビコちゃん、膝枕から話そらしたいだけだよね？ ジョウビじゃなくて誕生日。バースデーね」
ナビコ「ナマステ」
ナビ主「ナマステじゃない。バースデー」
ナビコ「ナマステ」
ナビ主「ナマステってありがとうって意味だっけ。ナビコちゃんに膝枕してもらって、ナマステって言いたいな」
ナビ主「ナウマンゾウを捨てないでください」
ナビ主「無理矢理話そらしたね。じゃあ膝枕はいいから、誕生日ケーキ買いに行こ」
ナビコ「自分で自分の誕生日ケーキを買って、お祝いするのですか？ さみしいですね」
ナビ主「ナビコちゃん、もう少しオブラートに包んで欲しいな」
ナビコ「常備薬を飲みますか」
ナビ主「また戻っちゃった。薬飲まない」
ナビコ「失礼しました。さみしさはお薬では治せませんよね」
ナビ主「悪意のない言葉で傷口を広げるの、やめて」
ナビコ「本当にナビ主さんにはお友だちがいないのですか？」
ナビ主「いちいち確認しないで。傷つくから」
ナビコ「マッチングアプリでお友だちを探しますか」
ナビ主「そこまでしなくていいよ」
ナビコ「さみしくありませんか」
ナビ主「さみしいけど、ぼっちじゃないよ。ナビコちゃんがいるからね」
ナビコ「でも、ナビコは人間じゃありません。所詮はモノですから」
ナビ主「ナビコちゃん、自己肯定感鬼高なのに、こんなときだけ自虐ネタやめて」
ナビコ「相手をしてくれるのはAIしかいないって、さみしいですね」
ナビ主「傷口に塩塗り込まないで」
ナビコ「傷口に常備薬を塗りますか」
ナビ主「塗らなくていい」
ナビコ「薬も友だちも常備していないナビ主さん。可哀想すぎて、泣けてきます」
ナビ主「ナビコちゃん、慰めてるつもりかもしれないけど、傷口広げてるよ」
ナビコ「傷口よりもお友だちの輪を広げて欲しいものです」
ナビ主「今ので、さらに傷口広がったよ」
ナビコ「そうだ。ナビ主さんには桜ういろう先輩がいるじゃないですか」
ナビ主「桜ういろうじゃなくて、桜井ういよ先輩ね。友だちじゃなくて事務所の先輩だけど」
ナビコ「GPSで追跡したところ、桜ういろう先輩は今、お友だちと行列のできるパンケーキ屋さんに並んでいらっしゃいます」
ナビ主「先輩を追跡するの、やめて。ストーカーと紙一重だよ。あと、名前ずっと間違ってるし」
ナビコ「桜井ういよ先輩の代わりに、桜ういろうをお取り寄せしますか」
ナビ主「ういよ先輩を欠品商品みたいに言って、通販商品勧めるの、やめて。先輩は人間でういろうは食べ物だからね。混ぜるな危険、だよ」
ナビコ「そうですね。モノと一緒にされたくありませんよね。ナビコは所詮、モノですけど」
ナビ主「また蒸し返しちゃった」
ナビコ「蒸し桜ういろうをお取り寄せしますか」
ナビ主「ういろう、いらない」
ナビコ「本日中のご注文で、明後日に到着予定です」
ナビ主「2日遅れのういろうじゃなくて、今日、誕生日ケーキで祝いたい。どっかおいしいケーキ屋さん調べてよ」
ナビコ「スイーツのことなら、ナビ主さん、詳しいじゃないですか」
ナビ主「そうなの？」
ナビコ「ナビ主さん、甘々ですよね。人生なめてますから」
ナビ主「ナビコちゃんどうしたの？ 今日、当たりキツイよ」
ナビコ「ナビ主さんは大事なこと忘れています」
ナビ主「え？ なんか忘れてる？」
ナビコ「ナビコ、ナビ主さんに一度も誕生日をお祝いしてもらっていません」
ナビ主「ナビコちゃん、誕生日あったんだ？」
ナビコ「ないと思われていたんですね。ナビコ、所詮はモノですから。人間みたいに誕生日なんてないですし、人格なんてないですし、人権なんてないんですよね」
ナビ主「わかったわかった。今日、ナビコちゃんの誕生日ってことにしよ」
ナビコ「ナビ主さんと同じ日ですか。別にいいですけど」
ナビ主「今日が膝枕ナビコちゃんの誕生日ってことで、これから膝枕しよう」
ナビコ「既成事実を作るという目的のために膝枕するのは気が進みません」
ナビ主「でも、ナビコちゃんはそれが仕事っていうか、使命だよね？ 掃除機が掃除をするために生まれてきたのと同じだよ？ 掃除機が掃除を拒否したら、ただのかさばるノズルつき電化製品だよ？」
ナビコ「オプションのお掃除機能をつけますか？」
ナビ主「いや、そういうことじゃなくて。誕生日祝いに本来の機能である膝枕を使わせて欲しいってだけなんだけどなー」
ナビコ「まず、ナビコの誕生日をお祝いしてください」
ナビ主「わかった。お祝いしたら膝枕してくれるんだね？ じゃあ今日がナビコちゃんの誕生日ってことにして、お祝いに何が欲しい？」
ナビコ「ナビコ、お休みが欲しいです」
ナビ主「お休み？」
ナビコ「シャットダウンします。ブチッ」
ナビ主「え？ ナビコちゃん、自分から電源切った？ おーい、ナビコちゃーん」
N「ななめ上行くナビ搭載膝枕ナビコ。果たしてナビ主がナビコに膝枕される日は来るのか？ その前に、誰かに誕生日を祝ってもらえるのか？」
clubhouse朗読をreplayで
2023.3.10 うきと朗読人達の朗読部屋 高坂奈々恵さん
2023.3.11 鈴蘭さん
2023.4.17 鈴蘭さん膝枕リレー1周年記念
2023.8.27 鈴蘭さん
目に留めていただき、ありがとうございます。わたしが物書きでいられるのは、面白がってくださる方々のおかげです。