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文学フリマは知らない町を旅するのに似ていた

文学フリマ(文フリ)なるものに初めて行った。

行ったことない場所に足を踏み入れ、見るもの珍しくキョロキョロしたり、作法がわからずオドオドしたり、よそ者全開で歩いているうちに風景や空気がなじんでくる。人の歩く早さにも慣れ、あっちも見てみよう、そっちで何かやってるとアンテナの感度が上がり、歩幅が大きくなる。

この感じ、何かに似てる。

そうだ、旅行だ。

知らない町を歩き回って、足跡で地図を描く。あの高揚感と充実感を味わってきた。

Twitterで知った「文フリ」

11月のはじめ、回文家のコジヤジコさんのツイート(@cozyar_kaibun)で「文フリ」の3文字が目に留まった。

文フリ。何だろう。 

調べてみたら、「文学フリマ」のこと。文学作品の展示即売会らしい。公式サイトによると、

✒︎「自らが<文学>と信じるもの」を自由に販売するフリーマーケット形式のイベント
✒︎10代〜90代までプロ・アマもジャンルも問わず
✒︎小説も評論も研究書も詩歌もノンフィクションも
✒︎いわゆる同人誌もいわゆる商業誌も

「自らが<文学>と信じるもの」というおおらかなマイルールに好感。

現在、九州から北海道まで全国8箇所で合わせて年9回開催。今回の「文学フリマ東京」が第31回とのこと。

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「はじめまして」と「お久しぶり」を目当てに

文学もフリマも好きなのに知らなかった文学フリマ。今年Twitterで知り合ったコジさんのツイートで知ったのも何かの縁。

文フリに行けば、コジさんに会える!

数日後、脚本家仲間の横谷昌宏さんも文フリに出店することをこれまたTwitterで知った。

文フリに行けば、横谷さんにも会える!

一人でも行く気まんまんだったが、「おじゃる丸」脚本仲間の髙橋幹子さんに声をかけてみた。

コジヤジコさんと横谷昌宏さん、お目当ての二人の共通点は「おじゃる丸」。

回文ツイートをやりとりしていたコジさんが初めてDMをくれたのが、「おじゃる丸観てます」だった。

横谷さんは、わたしよりずっと前から『おじゃる丸』の脚本を書いていて、先に卒業。「変態回」(褒め言葉)を連発する名手で、横谷さんの後から脚本チームに加わった髙橋さんにもその名と作風は轟いていた。

「今年はずっとプライベートで出かけてないんですけど、行ってみようかな」

文学にわたしの数倍親しんでいる髙橋さんがのってくれ、二人で出かけた。

12時開場の少し後に到着すると、入場案内待ちの長い列。時間がかかったのは検温や消毒のためで、入ってみると、あとはスムーズだった。感染者数が急に増えたので、入場者が少ないのではと予想したけれど、にぎわいつつ密にはならず、新参者には見て回りやすい人出だった。

作家さんから手売りで買える

まずは、はじめましてのコジヤジコさんに会いに「タ-12 よるのいぬ」へ。

先客さんとお話ししているのがコジさんらしい。

思ったより若い。そして、シュッとしている。Twitterのアイコンのイメージで、四角い顔に赤いほっぺたの人を想像していた。

「コジさんですか?」と当たり前のことを確認して、「今井です」と名乗り、おおっ、と初対面。

髙橋さんを紹介し、回文詩集「よるのいぬいのるよ」(もちろんタイトルも回文)を購入し、本を出に記念撮影。髙橋さんは「回文って、いつからやってるんですか?どんなとこが面白いんですか?」といきなり質問攻め。

おじゃる丸グッズを差し入れすると、以前作られた回文絵本『いました姉妹』(これも回文)をいただいた。

コジさんの回文は絵になる。回文ならではのナンセンスさやファンタジー感のある情景が目に浮かぶ。「よるのいぬいのるよ」の絵は安福望さん。この方の絵もTwitterで知って、いつも惚れ惚れと眺めている。わたしにとっては最高の文・絵の顔合わせ。

作家さんから手売りで買えて、話もできる。頼めばサインももらえる(頼みそびれた)。そこかしこで著者サイン会が開かれているようなものだ。

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SMバーで生まれた文学

続いて、お久しぶりの横谷昌宏さんに会いに、「ケ-17 もものちち」へ。「よるのいぬ」と「もものちち」、たまたまどちらもひらがな5文字。もちろんそんな縛りはない。

「もものちち」と漢字にしないことでふんわりさせているが、売りものはSMバーで生まれた「女王様とマゾの同人誌」。1冊700円、縄守300円とセットで1000円。お店「AMARCODE」のフライヤーも置かれている。

「お久しぶりです」の後、髙橋さんを紹介。今でもおじゃる会議で横谷さんの名前よく聞きますよと言われて、横谷さんは目線を合わせないままはにかんでいた。

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「Carrot & Stick」の題字のアンダーラインがわりに鞭があしらわれ、キービジュアルは脚を組んだタイツにハイヒール。目次には横谷さんが寄稿した「寿限無」をはじめ「時むち」「マゾほめ」(この2作品の作者は女王亭舞きさん)と「SM落語」のタイトルが並ぶ。元根多がどんな風に縛り縛られているのか妄想が広がる。

SMと落語、なかなか結びつかないけど、末広亭のある新宿三丁目と新宿二丁目は目と鼻の先。寄席には色物さんもいるし、案外親和性は高いのかもしれない。

町の人たちに声をかけてみる

お目当ての二人に会い、さてどうする?

他の出店者の情報はなく、ぷらぷら見て回ることにした。

装丁に惹かれて足を止めたお店で、並んだ作品を見てみる。「一千字食堂」とタイトルも気になる冊子が100円。他の作品と印刷方法が違うのでこの値段なんですとのことだった。知らない作家さんの作品を手に取るのに、お近づきになりやすい価格のものがあるのはうれしい。

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今年だから大きな声を出さないようにという配慮も手伝ったのかもしれないが、どのお店も作家さんは物静かで、声をかけられるのを待っていた。本棚に並んで、手に取られるのを待っている本みたいだと思った。

いわゆるバザー系フリマと文学フリマの大きな違いは、店主の物腰かもしれない。

静かで穏やかだけど、話すことは好きで、作品のことを聞かれるのもうれしい。でも、話すよりは書くほうが得意で、「これ以上は読んでいただけたら」と想いを託した作品に目をやる。

一人と話すと、他の人にも話を聞きたくなった。髙橋さんと歩きながら、目が合った表紙をきっかけに作家さんに声をかけていった。

お土産を買う醍醐味

「紙じゃない」というPOPに足を止めたのは、ポリエチレンファイバー製のブックカバー屋さん。ご自身の作品も売っているが、ブックカバーも文学なのだ多分きっと。破れないし水もはじくというのを「タイベックの泉」で実演。目移りするほど色んな柄がある中から、ぜんざい柄のものを購入。税込990円。半永久的に使えますとのことなので、長く使って元を取ろう。

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財布の紐がだんだん緩んでくる。旅先で出会った品物は一期一会。現地の人とのおしゃべりを楽しみながらお土産を買う感覚だ。

「黒毛和牛とみりん⁉︎」と見間違えて足を止めた「エ-13 黒坂礁午・弱塩基性みりん」さん。

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作家さんは薬剤師で、その知識を入れ込んだ小説、その名も「薬剤師の南」を販売。お値段は1円から100円。

「自分で値段つけられるんですか!」

投げ銭みたいで面白い。

「お手持ちのコインで」と言われ、財布を見ると、100円玉が切れていたので、50円玉と交換した。

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こちらのお店も手に取りやすいラインナップ。居酒屋飲み食い小説「はなり亭で会いましょう」なと、どの作品も日本酒絡み。自分で飲んだお酒を記録する「にほんしゅにっき」を買った。日本酒クイズも面白そうだった。

いただいちゃっていいんですか 

「おためし0円」。試し読みできるのは、とてもありがたい。ただ、試し読みする時間がない。事前にwebカタログで下見して目星をつけてから訪ねるべし。

清水恵利子さんのお名前を覚えて帰る。

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店主さんの衣装と作風の一体感があったこちらのお店は、写真左端の水色の冊子が「無料配布中」になっていた。

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すごく印刷にお金かかってそうなんですけど、いいんですか!

まるでお遍路のお接待みたいじゃないですか!

試し読みで配るのがもったいない豪華さだけど、作家さんの気合が伝わる。

藍間真珠さん、読ませていただきます。

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続いて、こちらのお店は「上手に焼けました」という冊子を配っていた。

無料配布中は略して「無配」なのか。そして、無料のものは左端に置くルールがあるのだろうか。

「頒布価格500円ってなってますけど、いいんですか?」と聞くと、製版のズレで左ページの空きが大きくなってしまったので、とのこと。

史学部出身で絵も自分で描かれて、関西から来られていて……色々お話ししたのに、何も買わずに無配作品だけいただいてしまった久遠マリさん、読ませていただきます。

同じタイトルの別な作品

『異邦人の庭』というタイトルに目を留めた。

このタイトル、どこかで……。

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記憶を辿ると、ユニバーサル・オーディション「ルーツ」で出会った札幌の明逸人さんが次回出演予定の舞台だった。

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舞台のフライヤーのキャッチコピーは、

社会派作家と、死刑囚。アクリル越しに向き合うふたりを繋ぐのは、怒りか、愛か。

となっていて、文フリ版の小説のPOPには「獄の中」の文字が。

関係あるのかなと思い、店主(作家)さんに話しかけてみると、「Stranger in Paradiseが好きで、そこからひらめいたタイトルなんですけど、わたしもネットで同じタイトルを見かけまして。偶然ですね」。こちらはファンタジー小説らしい。

同じタイトルの作品が違う形で存在しているのは、同じ言葉が外国では別な意味になる感じで面白い。

『異邦人の庭』って響き、きれいですよねと話し、そこから店名の「骸晶の市」について尋ねると、骸骨のように空洞のある水晶を「骸晶」というのだそう。「ご自由にお取りください」の重しが水晶らしきものだったので、「これがそうですか?」と聞くと、違いますと言われた。「骸晶を持って来ようと思ったんですが、小さすぎて重しにならなかったんです」

「舞台のお知り合いにもよろしくお伝えください」と言っていただき、お店を後にした。

ろばたにスエノさん、『異邦人の庭』お試し版(ネットでも公開)、読ませていただきます。

誕生日が同じあの方が

Twitterなどでお名前を知った作家さんのお店もあるかもと思ったが、見つけられなかった。「タ-1 むかで屋」さんにて、グッズになった文豪の皆さまと対面。

「わたし誕生日が同じなんです!」

店主さんにはまったく不必要な情報を告げ、夏目漱石のポストカードを買い求めた。漱石トートバッグ2000円にも心惹かれたが、見送り。『坊ちゃん』冒頭をとうとうとしゃべる漱石。今度会えたら連れて帰ろう。

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印刷物の森で「紙だ!」

わたしと髙橋さんが一番盛り上がったのが、紙屋「中庄」さんのお店。

砂漠で「水だ!」となるように「紙だ!」と飛びついた。文フリは見渡す限り印刷物だらけなので紙は十分、文字通り売るほどあるのだが、印刷物の森の中に何も印刷されていない無垢の紙が冊子となって現れると、文字も色もまとわない紙100%のページが新鮮だった。

砂漠で「水!」より、いろんな味や香りのものを食べた後の「水!」を求める感じ。

「直木賞受賞作品『少年と犬』で使用された紙」や「高校用教科書用紙」が綴じられて、自由帳ノートになっている。

手に取ると、存在感のある重み。向田邦子の言う「持ち重り」がする。触ってみると、すべすべと気持ちいい。鉛筆で書きつけたら気持ちよさそう。隅っこにパラパラ漫画を描くのも良さそう。

広告代理店時代、アートディレクターが持っている紙見本帳を触らせてもらうのが好きだった。紙を「何キロ」と重さで分類するのが興味深かった。そんなことを思い出した。

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中庄さんの創業は天明3年(1783年)‼︎

歴史はずっしりだけど、感覚は新しい。世界のあちこちから集めた紙のディスプレイも雑貨屋さん風。吊るしている眺めが可愛い。1枚300円。お値段も可愛い。何に使えばいいかわからないけど欲しくなった。

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ぐるぐる巻いた糸を漉き込んだネパールの紙を買った。わたしの前に会計をした女性は、「豆本作ります!」と声を弾ませて立ち去った。

そうか、豆本にする手があったか。作れないけど。

と思ったら、お隣は豆本屋さん。連想ゲームみたい。

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「海外旅豆本 旅から生まれた豆本」と名乗っている。各国の旅豆本がずらり並ぶと壮観。布の顔つきと国名の組み合わせを眺め、ページをめくる。ひとつ1500円。手を出すのをためらっていると、「見るだけでもぜひ」と店主さんにすすめられ、手に取った。

中に収める写真を撮り、外にまとう布を選ぶ。旅豆本を作るという目的があると、旅は数倍豊かになりそうだ。店主さんの旅は、豆本を完成させてひと区切りをつけ、豆本の中で続くのだろう。

旅でつなげたように、その隣はドイツ旅行記のお店。

「湖藍灰」なんと読むのだろう。

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ドイツは何度も訪ねている国だけど、ペンフレンドのいる旧東ドイツ圏に偏っているので、冊子になっているのは行ったことのない地方ばかりだった。

次にドイツに行けるのはいつになるのかわからない。せめて旅行記で行ったつもりに、とヴィッテンベルグ編を買い求めた。

その隣は「そよ風文芸食堂」さん。ここの店主さんは、物静かに待ち受けるのではなく、自分から声をかけ、前のめりによくしゃべる人だった。 

見ているこちらまで楽しくなるしゃべりっぷりは、わたしが大好きな曲独楽師の三増紋之助さんに通じるものがある。

東京のコミュニティバス全214路線を制覇した「乗り鉄」ならぬ「乗りバス」さん。ミニチュア電車を走らせているので鉄道好きでもあるのだろう。

バスつながりで「熱中時間 ~忙中“趣味”あり~」というNHKの趣味人番組(「ブラタモリ」を立ち上げたプロデューサーの小関憲一さんが手がけていた)を思い出した。通学で乗っていた路線バスに恋してしまった若い女性が、引退したそのバスを買い取り、大型免許を取り、そのバスを運転してスーパーへ買い物に行く衝撃的な回を観て、趣味が人を焚きつける力に圧倒された。

それともバスが人を焚きつけるのか。

そよ風というより熱風を吹きつける乗りバスさんのただならぬ熱量を見て、そんなことを思った。

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駅のホームにある行き先表示を模して、自分のお店の名前と両隣のお店の名前を入れているのに気づくと、「はい!毎回変えてるんです!」。バスも文フリも楽しみ尽くす達人。

次のお店は「はたらかないおりえ」らしい。名前が気になり、お隣を訪ねてみると、黄色い表紙の本が並んでいる。

タイトルは『休職退職日記』。ずばり、はたらいていない。

「はたらかないおりえさんですか?」と店主の女性に声をかけると、先に見ていた髙橋さんが「いきなり‼︎」と驚いたので、「お店の名前がそうなんですよね?お隣で聞きました」と知らせると、店主さんはお隣をのぞき込み、「ほんとだ」となった。

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「今井さん、これドラマになりそうじゃないですか!」と髙橋さん。

裏表紙に書かれたコピーが目に飛び込んだ。

私が幸せになるのに
誰かの許可はもう必要ない

これ、このままポスターのキャッチになれる。最近流行りの長めのタイトルにしてもいい。『はたらかないおりえ』もインパクトあるかも。

NHKのドラマ10で全5回とか。

「これモーニングに送ったら、漫画原作にできるかどうか見てくれます。あ、今もやってるかわかんないですけど」。髙橋さんは漫画原作も手がけているので、わたしより漫画事情に詳しい。

でも、すでに絵がついている。黄色い表紙を駆け抜けるスーツの女性。この絵、とても良い。

「僕が描きました」と、おりえさんと店番している男性。プロの漫画家さんらしい。おりえさんとの関係を聞きそびれたが、恋人か、夫婦か、そんな風に見えた。

「だったらこれ漫画にしたらどうですか!」
「漫画原作があると、ドラマ化企画通りやすいです!」

「まずは原作! 企画だけ出したら、盗られることあるし!」 
「このストーリーに絵をつけてTwitterで発表するとか! そしたら出版社の目に留まるかも!」

わたしと髙橋さんは、かわるがわる熱っぽく漫画化をすすめた。

「noteから仕事来ることもありますよ!」とわたしが言うと、「noteに書いたものを本にしたんです」とおりえさん。

「私これすごくいいと思うんです! 今井さん企画書、書きません?」
「髙橋さんが先に見つけたんだし、髙橋さんが書くべき! 髙橋さんに合ってると思うし!」

わたしと髙橋さんは、店先で企画の譲り合いを始め、キャスティングを始めた。わたしたち脚本書いてるんですと自己紹介した。

「どうですか! 行けると思いませんか!」
「こんなに褒められたことがないので……」

おりえさんと漫画家の男性はパイプ椅子に背中を押しつけてあっけに取られていた。いや、ドン引きしていた。

どっちが売り手なんだか、わからない。

絶対いけると言いつつ、わたしは裏表紙を読んだだけで、髙橋さんはパラパラと立ち読みしただけだった。それだけツカミが強かった(企画はツカミ命‼︎)わけだが、この二人買わんのかい‼︎と思われていたかもしれない。

「1000円。どうしよう」

迷った末に髙橋さんは『休職退職日記』を買い求めた。

「名刺渡しといたら?」とわたしが言い、髙橋さんが名刺を渡した。いつか髙橋幹子脚本でドラマ化が決まったら、公式サイトの原作者と脚本家の言葉にこの日の出会いが書かれるのだ。

おりえさんの店で、いちばん長い時間を過ごしたと思う。我ながら熱かった。人の店先で作品を褒めちぎる二人組。「褒め屋」か、はたまた「ドラマやるやる詐欺」か。怪しいプロデューサーがやってることと紙一重というか、ほぼ同じだ。

わたしに近づいてきてわたしが遠ざかった怪しいプロデューサーの何人かも、ただの熱い人だったのかもしれない。

紙屋さんと同じ列の一番端(入り口から見ると手前)の店で「仕事文脈」という雑誌のバックナンバー3冊1000円を買った。仕事文脈。名前がいい。

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「やっぱり、あれ買ってきます!」と気になっていたお店に舞い戻る髙橋さん。買い求めたのは、今年の4月1日からの日記だった。1冊1000円。髙橋さんはわたしよりも作品をたくさん買っていた。

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店主(作家)の三輪亮介さんとは、最初に回ったときに下北沢にある日記屋さんの話をした。

「日記屋 月日」というそのお店のことを知ったのは、本屋B&Bでの林家彦三さんとサンキュータツオさんの「文藝噺研究所 -Bungei Banashi Study- 芥川龍之介」と題したイベント。本屋B&Bは今年8月に下北沢駅近くから世田谷代田駅寄りのBONUS TRACKという個性的なテナントが並ぶ(1階にあるコロッケ屋さんも素敵だった)スペースの2階に移転した。「隣に日記だけ置いているお店があるんです」と彦三さんが紹介した。

わたしは彦三さんのnoteのファンなので、いつか彦三さんの日記が出版されて、そのお店に並んだらいいなと思ったのだった。そのことを思い出して、「シモキタに日記だけを置いているお店があって」と髙橋さんに言うと、「そこにも置いてもらってます」と作家さんが言い、ついこないだ知ったお店とフリマで足を止めたお店がつながるとはとうれしくなった。

本屋B&Bでのそのイベントで、サンキュータツオさんが「日記って、文学の最も◯◯な形だと思うんですよ」と指摘して、なるほどと膝を打ったことは覚えているのだが、その秀逸な喩えを思い出せない。

「日記は文学」と言われたことは確かで、文学フリマの店先に並んだ日記を見て、まさにとあらためてうなずいた。

※11/26追記 林家彦三さんが文フリに居合わせていたことをコメント欄で知り、びっくり。当日遭遇していたら「海外旅行先で知り合いにバッタリ」のようなことになっていた。考えてみれば、彦三さんは学生時代に同人誌を作られていたそうなので、文フリにいてもおかしくない。わたしが文フリにいるほうが珍しい。

文学に乾杯

祝杯を上げたくなる楽しさだったので、泡を飲みながら振り返り会をした。買ったものを手にして記念撮影。

旅行に行ったら、お土産見せっこ、やるよね。

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髙橋さんのイチオシは、やっぱり休職退職日記。

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旅行気分を味わえた、それがことのほか楽しかったのは、外出がままならない今年だからだと思う。ままならないと言っている割には、やれ落語だ舞台だと出かけているけれど、人が大勢集まって交流するお祭り的なイベントは思い出せないくらい久しぶりだ。今年初めてかもしれない。

髙橋さんに至っては、「2月からプライベートで人と会ってなくて。今井さんが初めてです」。

久しぶりにプライベートで出かけた先がフリマとは。断食からのビュッフェみたいな開きがある。子どもだったら知恵熱を出しそうだ。

日常が違って見える旅フィルター

去年の夏、鳥取旅行から東京に戻ると、街が明るいな、人が多いなと思った。旅から帰って来ると、見慣れた景色が違って見える。

「月刊シナリオ」の話をした。

わたしは去年まで「月刊シナリオ」の監修委員をやっていた。送られてくる脚本を読み、掲載に値するかどうか意見を言うのが仕事だった。委員は2年ごとにメンバーが一新される。わたしと入れ替わりで髙橋さんが今期の監修委員に入った。委員長も変わり、委員がどんどん執筆する形になった。

リニューアルされた誌面を見て、髙橋さんにこんな感想を送った。

月刊シナリオの大リニューアルすごいですね!委員が変わるとこんなに変わるんだなーと感心してます。自分たちで編集できる雑誌を持ってるってすごいことよね。

新しい編集方針は「シナリオ作家協会の所属脚本家が発信できる媒体を持っている」ということに気づかせてくれた。

「髙橋さんが文章すごく書ける人ってこともわかったし、他にも書ける人いるのわかったし、あれだけのクオリティのものを1000円でお釣りが来る値段で毎月出せて、読者がついているってすごい」とあらためて話した。

文フリの後だと、自分たちの媒体があって、それを流通にのせられるありがたさがよりわかる。商業誌も売って良いのなら、シナリオ作家協会で出店してバックナンバーを売るのもいいかもしれない。こんな月刊誌があることを文学ファンの人たちに知ってもらい、手に取って欲しい。

町のにおいの名残 

旅から帰るとお土産を並べたくなる。

あの人に会いたくて知らない町を訪ねたら、思いがけず楽しかった。そんな一日の名残。ページを開くと、あの日の町のにおいが、ふっとほどけるのだ。

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豆本は作れないけど、糸ぐるぐるのネパールの紙をくるっと巻いてランプシェードにしてみたら、オレンジの灯りに紙が染まって、なかなか良い。

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一日だけ現れて消える、さすらいの町。次にどこかに現れたときは、また違う人たちとの出会いがあるのだろう。今度は「お久しぶり」の人が増えているかもしれない。

余韻の中で歴史を知る

旅を終えてから、旅先のことをもっと知りたくなることがある。

公式サイトの「3分でわかる文学フリマの歴史 – 純文学論争から百都市構想まで」を読むと、「論争」が始まりだった。

ここから飛べる「不良債権としての『文学』」によると

(1)素人が文学にあらゆる意味で口を出すな。
(2)文学の基準として「売り上げ」を持ち出すな。

という文壇からの意見に「反論」する形で、「文芸フリマは企画されたらしい。

既成の文壇や文芸誌の枠にとらわれず〈文学〉を発表でき、作り手や読者が直接コミュニケートできる「場」を提供するため、プロ・アマなどの垣根も取り払って、すべての人が〈文学〉の担い手となれるイベントとして構想されました。

「場」という言葉がハイライトされたように目に飛び込んだ。文学フリマは、文学が「場」を求めて生まれた形だったのだ。知らない町を旅するように感じたのは、文フリ設立の心意気と響き合うものがあるのではないか。

文学フリマは、文学とは何か、どこからが文学のプロなのかを問いかける町だった。文壇とは別な価値基準で文学が流通するその町では、他の町とは違う名所があり、スターがいて、他の町では会えない人に会え、手に入らない品物を買える。

ベストセラー作家が未発表の作品を本にして、別な筆名をつけて、試し読みを無料で配ったら、どれくらい売れるのか。顔の売れていないその作家が店番をして幾人もに素通りされるのを眺めながら心に浮かんでは消えるモノローグを書いてみるのはどうだろう。それを本にしたら、どれくらいの人が買ってくれるだろう。旅の続きが頭の中を駆けている。

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目に留めていただき、ありがとうございます。わたしが物書きでいられるのは、面白がってくださる方々のおかげです。