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男性たちはなぜ家事育児について機能不全になってしまうのか<後編>

昨日のこちらの記事にいいねをたくさんありがとうございます。ちょっとびっくりしています。と同時に、どのご家庭でもある悩みなのだろうなあということを痛感しています。

詳細は読んでいただければと思いますが、簡単に前回のまとめをしますと、
・2020年現在、30代以降の男性たちは現在のようなジェンダー教育を受けていない
・そのような男性たちも現在のジェンダー観に触れ、妻側の要請もあって家事育児に参画する契機が増加
・しかし、やったことがないから家事育児をはじめとする家庭内タスクを認識できない/認識できても能力が低く参画できない

という話を書きました。

では、今回も引き続き、今回も男性の家事育児能力が機能不全に陥る原因について考察を続けたいと思います。

3)「イエ」に示される家事観・育児観のズレ

ここに、興味深い2015年の国立社会保障・人口問題研究所の調査があります。
これによれば、戦前には約7割を占めていた見合い結婚は現在に至るまで減少傾向にあり、1960年代末に恋愛結婚と比率が逆転しています。調査の直近年度単位である2010~2014年には5.3%にとどまっていますので、今は「親世代は7割がお見合いで結婚し、子世代は自由恋愛で結婚する」と言い換えることができそうです。

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また、こちらの記事によれば、2018年に結婚した人の中で、合コンを利用したことがある人の割合は19.0%だったのに対し、婚活サービスを利用した人の割合は32.3%とのこと。つまり、婚活サービスによる出会い > 合コンによる出会い > 見合いによる出会い という順でカップルが結婚しているという事実が分かります。

これが示す事実は、異なる社会階層の男女が婚姻に至る確率が戦前の比ではない、ということです。

お見合いというものは、基本的にイエとイエとの結びつきをつくるものです。仲人を専門にする方は、頼まれている家の子女のなかからイエの価値観、イエの社会環境を鑑み、釣り合いの取れた相手を紹介します。ですから、「釣り書き」が必須アイテムになるのです。釣り書きとは単なる履歴書ではありません。親の職業は何か、母親は専業主婦なのか働いているのか。進学先としてどのような基準でその学校が選ばれているのか。兄弟姉妹はどのような就職・進学をしているのか。このような情報から浮かび上がる「イエの雰囲気」が釣り合いそうな相手をこそ、仲人はセッティングしていたわけです。
ということは、そこで婚姻が成立する程度には、男女の家庭における価値観に(少なくとも結婚当初は)齟齬がない、ということになります。当たり前です。似たような環境下にあって、「うまくいくだろう」と見合いのプロが設定しているわけですから。

しかしながら、合コンやマッチングアプリでの自由恋愛はどうでしょうか。そこにあるのは個人と個人の結びつきです。
もう死語だと思いますが、かつては「3高」という女性が結婚相手に望む条件がありました。高収入、高身長、高学歴。お見合いの思考で考えれば、このような男性と結婚して破綻のない生活を営めるのは同じようなスペックの女性のはずです。
しかしそういう女性を揶揄した男性も、トロフィーワイフのような存在を求めたりしたのではなかったか。美人で、従順で、トロフィーのように飾っておくだけの存在である妻を望んだことはなかったか。

自由恋愛では「本人同士が互いを好きかどうか」が主眼になります。もちろん男女ともに、その性格や価値観に「イエ」の影響はあるにしても、基本的には本人同士の人柄やスペックによる好悪で恋愛関係を構築します。

「彼はいい人だけど、お義母さんはうちのお母さんと全然違う。」
こういうご経験がある方は多いのではないでしょうか?
たとえば冠婚葬祭、家庭の運営に、イエの価値観は知らず知らずに反映されてきます。
たとえば、マッチングアプリで出会った男女が意気投合して結婚しました。その男性の育った家は法事を重んじ、本家に分家が全員集合するお盆が常識かもしれませんが、その恋人の女性の育った家はお盆と言えば家族で海外旅行をするのが常識です。この場合、結婚して初めてのお盆は、どのように過ごすべきなのでしょう?
正解はありませんが、少なくとも「うちに嫁に来たのだから」と妻の意向も聞かずに自分の実家の本家に連行するような夫であれば、遠からず婚姻関係が危機的状況を迎えることは明らかです。
このように、自由恋愛は、個人と個人の結びつきでありながら、やはりその背景に「イエ」を背負わざるを得ないといえます。まして、少子化が進むこの日本では猶更、子どもが「イエ」を負う場面は増えてくることでしょう。

そのイエのバックオフィスで、どのように女性たちが立ち働いてきたのか。
自分のイエで、自分の母はどのように家族のバックオフィスリソースとして機能してきたのか。

これをきちんと認識し、言語化できるほどに「見ている」男性が、いったいどれほど存在するのでしょう。
また、逆に、自分のイエのバックオフィスの特徴を他の家庭と比較して明確に言語化し、さらに自分の好みのセッティング方法をきちんと配偶者に伝達できる女性も。

恋愛中はうまくいっても、いざ結婚式の話になるとなんだかピントがずれる。
仕事をする女性に理解があるような感じだったのに、結婚してみたらモラハラがすごい。
そもそも、夫が私に求める家事のクオリティと、私が夫に求める家事のクオリティがかみ合わない。

こういうことの原因の一つに、夫婦の間に「イエ」から引きずる価値観のずれ、家事育児に対する感覚のずれがあるのだと思います。

「見てたら分かるでしょう?」と私をはじめとする妻たちは思いますが、前回考察した通り、私の配偶者をはじめとする男性の多くは見ていても分かりません。見る、は文字通り見ているだけです。人は見ようとしたもの以外は認識できませんから、例えば妻が食器を洗っているとき、「食器を洗う」という妻の姿をボーっと見ている、ことは大いにあり得るわけです。これをきちんと作業として認識させるためには、彼の「イエ」の価値観の家事をまず聞いてみることです。
「お義母さんって、食事のあといつ食器洗ってた?食べてすぐだった?それとも、ちょっと休憩してからだった?」
この質問に、夫がどれだけ具体的に、早く回答できるか。回答出来たら、それがこの家庭で成立するかどうかを、まず夫に考えてもらうこともよい策だと思います。

たいていのご夫婦は、婚姻期間より、それぞれの「イエ」で過ごした時間のほうが長いはず。
だからこそ、この質問をすることがそれぞれの価値観・家事観・育児観のずれを解消してくれると思います。

4)女性だってケアラーが欲しいという現実

ところで、私がこういう主張をすると、多くの女性の友人は「そんなことはわかっているの。でも、育てるだけの気力がないの。」と言います。
あるいは、「真子はそういうけど、男の人だってもっと努力してほしいよ」と。

分かります。私もそうです。疲れているときに花束を差し出されて殺意が湧くも、熱があってだるくて力なく「ありがとう」とか言わされてしまったときとか、確実に詰んだ感じがします。自分が必死に片付かない仕事を一段落させツールドフランスに出場できそうな勢いで子どもを保育園に迎えに行って帰宅して着替え手洗いをさせ保育園バックの中身を空けて入れ替えして食事を作っているとき、配偶者はのうのうと好きなだけ残業をしていやがると思うとそれだけで脳内で血しぶきが舞っています。今年は私が雇用調整助成金の関係で春先から夏ごろまではいつもの3倍ほど忙しかったので、配偶者は1日に5回は死んでいました。たぶん手もちょっと出しました。

翻って男性側からは、こんな意見を聴くことがあります。
「ちゃんと教えてくれないからできない」「手伝ったのにやり直された」
「叱ってばかりで感謝してくれない」。
一理あります。でも、男性方にも心にとめてほしい事実があります。
あなた方が疲れているように、妻だって疲れているのです。

フルタイム勤務の妻も、パートで働く妻も、専業主婦だったとしても、毎日毎日バックオフィスは家庭に誰かが存在するだけで発生します。子どもがいいれば、物理的に対応しなければならない事態は次から次へと発生しますし、その間は「自分の時間♡」などというものは皆無。子がいなくて、料理はすべてインスタントだという家庭であっても、ゴミ出しはありますし洗濯を全くしないという家はないでしょう。生きているだけで、やることはあるのです。

今の女性たちは、みなどこか何かしらの点でプレイヤーであることが多いでしょう。なのに、同じようにプレイヤーである男性のバックオフィスまで担当するのは、それは過重労働というものです。
男性だって、そろそろ能動的に女性のバックオフィスを担当してほしいものです。

わが家には、今3歳と、もうすぐ2歳になる二人の子どもがいます。長女はトイトレの真っ最中、次女は二週間ほど前にやっと卒乳したばかり。ママ―ママーと甘えてくれるのは可愛いしうれしいけれど、私だって一人で本を読んだり映画を見たり、なんだったら仕事をする物理的な時間を増やしたい。
でも、その時間を捻出するには、私一人の力では限界があるのです。
使えなくてもクオリティが壊滅的に低いとしても、いてくれないと困るのです。
ですから私は私の時間を確保するために、配偶者にはなるべく丁寧にひとつずつ教え、できなくても(なるべく)怒らず、本当に出来なければ困ることはマジでガチでキレつつ叱責する、という行動をとるようにしています。なるべく、としてしまったのは不徳の致すところです。
しかし、子どもが生まれてからの3年で、配偶者は少しずつ成長してくれています。その分、こうやってnoteを書いたりすることができますし、月に1回はレイトショーで映画を見たり飲みに行くような時間を持つことができるようになりました。うれしい、本当にうれしい変化です。

夫婦には、もちろんいろんな形の協力の仕方があると思います。
でも、男性が家事育児に機能不全になってしまう原因を女性も知って、男性は女性がどれほど切実に配偶者からの助けを求めているかを知れば、そしてそれを互いにきちんと伝え合えれば、もっとよい形でかかわれるのではないか。
私は、そんな風に思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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