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読書記録 今月読んだ本:8月1日~8月26日(合計21冊)

こんにちは、キャリコン社労士の村井真子です。
私は月だいたい15冊前後の本を読むのですが、そういう話をすると「どんな本を読んでいるの?」「どういう基準で選んでいるの?」と聞かれるので、自分の備忘録をかねて今月から読んだ本を簡単にまとめておこうと思います。
なお、ジャンルわけの方法は私の主観によるものです。また、今月はお盆休みと、出産による入院がありましたので、いつもより多めに本を読んでおります。
また、量が長くなるので漫画は割愛しますが、今月は女性の体で生まれたXジェンダー(性自認が男女どちらでもない人)のぺス山ポピー「女の体をゆるすまで」が凄くよかったです。

1)ビジネス書、実用書、雑誌ほか

◆ハンス・ロスリング 他「FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣」

すごい面白かった。ベストセラーになったときにちゃんと読んでおけばよかった。
基本的にはデータの見方だったり、思い込みや認知の歪みによる把握を指摘する内容だけども、それがとてもユーモアのある語り口で読みやすい(そしてこれが死の宣告を受けてのちも書かれているということに敬意を表せざるを得ない。こんなにも明るくすばらしい文章が)。
たとえば福島の原発事故で、放射能そのものが直接の死因になっている人はいないとか(ストレス死はある)、悪名高い農薬DDTは実はメリットがデメリットを上回るケースもあるとか、そういうことも学べる。
謙虚であることの必要性をこんなにも知れる本もそうそうない。一生手元に置いておきたい。

◆エレーヌ・フォックス「脳科学は人格を変えられるか?」

楽天主義者のほうが人生をうまく送れるし長生きできる、という話はよく聞くがその嚆矢となった本のひとつ。心理学、遺伝子学、神経科学を複合的に扱い、「遺伝子によって楽天的な性格を得られるのか。性格は先天的なものなのか」という問いに答えてくれる。ただ、メインではないけれどもこの本の素晴らしいところは「脳は何歳になっても成長するし、能力は後天的に身に着けることができる」というくだりだと思う。


◆森伸恵「LGBT はじめての労務管理対応マニュアル」

 今年出たばかりのLGBTQについての労務本。正直LGBTQ関連の本は玉石混交なところがあるが、この本は裁判事例も踏まえて実務的なトピックを扱っており良書。特にトランスジェンダーの通称名、更衣室・トイレなどの使用についてなどについても言及があり、人事系の仕事をしている方は目を通されて損のない一冊。

◆平木典子「アサーション・トレーニング:さわやかな<自己表現>のために」

日本におけるアサーション・トレーニングの開拓者が書いた基本テキスト的な著作。アサーションを基本的人権と位置づけ、自他ともに気持ちの良いコミュニケーションとはどのようなものかをつづっている。その特色の一つに、「相手から影響された感情であっても、それは自分の感情である」というものがある。例えば、子どもにイライラさせられたとき、原因としては子どもの言動があったとしても、「イライラするという感情」それ自体は自分自身の受け止め方で発生しているものであるということ。このように考える癖をつけることで、自分自身をアサーティブに保つことができるのではないか、という観点からも非常に参考になった。
※アサーション・トレーニングをとても雑に要約すると、「自分も相手も大切にするコミュニケーションのためのトレーニング」のことで、そのメソッドはDESC法というプロセスで説明できる。

◆野末武義「夫婦・カップルのためのアサーション: 自分もパートナーも大切にする自己表現」

アサーティブコミュニケーションを夫婦・カップルの関係性向上のためにどのように応用するかという視点で書かれた本。
この本だとDESC法そのものについてというよりは、その前段で「なぜ夫婦/カップルに危機が訪れやすいのか」「どのようなときに夫婦/カップルは危機を感じるのか」といった状況の説明に多くが割かれている。それを踏まえて、自分なりにアサーティブなコミュニケーションとは何か、相手を尊重するとはどういうことかという点を考えていくための本。

◆雑誌 日本労働研究雑誌 2021年 07 月号「特集  ライフキャリアとサードプレイス」

特集に惹かれて購入。これ一冊で現在の日本のサードプレイスに関する論点はほぼ網羅されているのではないかと思われる充実ぶり。私は女性活躍を仕事でしている関係で特に片岡亜紀子氏の「目的交流型サードプレイスとライフキャリア」が収穫でした。基本的に論文集なので、参考文献をたどれるところも素晴らしい。落ち着いたら図書館のレファランスで論文取り寄せしてもらおうと決意。

◆高坂晶子「オーバーツーリズム:観光に消費されないまちの作り方」

オーバーツーリズムとは観光により齎されるその土地自体あるいはその土地の生活者、観光者へのダメージのこと。要するに観光地としてキャパオーバーになってしまうという事例をいくつもの具体的なスポットを当てて展開。コロナ禍以前に書かれた本だが、このコロナ禍によって観光地整備されていない身近な場所への旅の需要は高まっているため、この本のような視点はどの自治体も必要であるし、一旅行者として自分もこのような事実があることを知っておきたい。

◆風来堂「ダークツーリズム入門 日本と世界の『負の遺産』を巡礼する旅」

近年話題になっていたダークツーリズム(=戦争、貧困、災害など負の遺産を旅すること)に対して全く知見がなかったので、入門書として読んだ。入門、と謳っているだけあって基本的には定義の解説とスポットの紹介になっている。しかし、なぜいまダークツーリズムが人気があるのかという点や、負の遺産呼ばわりされた当事者の感情への配慮などは特に記載がないので、読み物としては物足りなかった。個人的には福島をフクシマと呼ばれるのも抵抗があり、そこに暮らす人がいる以上最低限の配慮はほしいところ。自戒も込めて。

◆末冨芳・桜井啓太「子育て罰 『親子に冷たい日本』を変えるには」]


表題にある「子育て罰」とはChildPenaltyの訳語で、この本においては「子どもと子どもを持つ世帯に冷たく厳しい、子育てが罰のように感じられる」という概念のこと。日本においては児童手当や高校教育無償化などにおいて親の所得により支給が制限される子供向け給付が多いが、筆者たちはそれを子育て当事者どうしを分断する施策であり、子どもを一人の人間・人格として尊重していない証拠として考えている。勿論片親家庭への配慮も謳いつつ、一般に高所得者とみなされる層であっても子どもが複数あれば奨学金の利用をしている家庭があるなど、子どもの教育にお金がかかっている現状の例も豊富。財源確保についてはもう少し踏み込んだ議論が読んでみたいと思った。

2)ノンフィクション・ルポタージュ・エッセイ

◆雨宮処凛「コロナ禍、貧困の記録 2020年、この国の底が抜けた」

15年以上貧困当事者支援をしている作者からみた日本のコロナ禍の実態。
リーマンショックと比べて女性の貧困者が激増しているという指摘あり。理由として販売小売、サービス業、接客業、キャバクラ・性風俗に従事する女性人口がもともと多い&非正規就労者が多い業界に女性が多いということを挙げておられる。行政の支援体制への疑問が多いのはさておき、実際の支援者目線で見た時に「何がどう問題か」という点がクリアに問いかけられている点は一考の価値があると思う。

◆ミキータ・ブロットマン「刑務所の読書クラブ:教授が囚人たちと10の古典文学を読んだら」

ボランティアで刑務所内で読書クラブを主催する女性大学教授と、そのクラブに参加する男性服役者たちのドラマ。服役者たちは殆ど入れ替わらず、時々交代があるくらいで、ほぼ固定のメンバーが毎回ポーの「黒猫」やシェイクスピア「マクベス」などを読んでいく。その解釈に、服役者たちの人生や収監されるに至った経緯が必然的に現れてくる。
文学は収監者たちに影響を与えることができるのか? この問いについて作者は誠実に、事実を答えている。基本的に、出獄すると影響は消えてしまうこと。獄中では娯楽が少ないから本を読むという(退屈で手間がかかる行為すら)能動的に楽しんでくれるということ。
本好きこそ、この事実には向きあわねばならないと思う。本来娯楽であるはずの読書が押し付けになってはいけないのだから。

◆上野千鶴子・鈴木涼美「往復書簡 限界から始まる」


日本のフェミニズムの第一人者・上野千鶴子×エッセイスト鈴木涼美の二人の12のテーマからなる往復書簡。AVや水商売を通して「男とはこんなもの」と男性に対して期待しなくなったという鈴木氏が、上野氏に対して「なぜ男性に絶望せずにいられるのですか」という切実な問いを投げかけている。鈴木氏の危ういほど素直な態度と言葉に、上野氏が返す血の吹き出そうな回答が読んでいるだけで痛い。「自分が傷ついていることをきちんと認めよ」という上野氏の言葉は私にも刃として降りかかってくるので、読みながら何度も本を閉じた。なぜ日本では痴漢を非難するのは女性の声ばかりなのか、男性は同性の卑劣な行為をなぜもっと非難しないのか?など、当たり前のことに盲になっていることを思い知らされる。

◆能町みね子「結婚の奴」

能町さんの本は一時期すごく好きで読んでいた(し、イベントも行っていた)のだけど、最近はどうにもコンプレックスが重すぎて、読んでいると来客対応した気分になって大変疲れてしまうので敬遠していた。この本もルサンチマンが猛烈にいろいろと感じられて正直気楽に読みにくくはあったのだけど、能町さんがこの本の中で雨宮まみさんのことをとても丁寧に回顧しておられるところが何度読んでもぐっと来てしまう。一人の大切な友人を失うつらさ、理不尽な怒りなどが本当に正直に出ているし、私は雨宮さんもすごく好きで、先に挙げた上野×鈴木両氏の「往復書簡」もそうだけど、まだまだ生傷があるのを能町さんもまた見ないふりしていたのではないかと勝手に思った。あとサムソン高橋さんのことがなんかすごい好きになる本。能町さんが本当にサムソンさんのことがお好きだからなんだろうなあ、と思う。素敵。

◆嶽本野ばら「お姫様と名建築」

野ばらちゃんの文章は小説にしろエッセイにしろ、ロリータ精神なのか大変かっこいい。日本でパンキッシュな文章を書かせたら野ばらちゃんと町田康が双璧だと思う。この本では野ばらちゃんの教養(大変偏っていてすばらしい)がオタク的にたまらないほどちりばめてあって、読んでいてとても楽しかった。お姫様たるもの教養も必要だがロック精神もいるのであることよ。あとやたら宮津市のミップル(行政出張所・図書館など公的施設が入居しているテナントビル)を押しまくってくるのでミップルに瞬間風速的に行きたくなる。たぶん行きませんけども。

◆岡村靖幸「結婚への道 迷宮編」

独身のミュージシャン岡村靖幸氏が聞き手となってミュージシャン、アーティスト、作家など既婚未婚バツ有事実婚など著名人の結婚観を聞いていく雑誌連載の単行本。
私は常々結婚という制度がどうにも気になっていて、よそのご夫婦の馴れ初めだの家庭での接し方を聞くのがすごく好きなのですが、この本は心ゆくまでそれが読めるので本当に面白かった。カップルの数だけ家族の形があるのがこの本を読むとよくわかる。そして恥ずかしながら岡村氏のことは実はこの本を読むまでまったく存じ上げませんでしたが、すごくいいインタビュアーで、言葉も綺麗でセンスが凄い。音楽も聞いてみたいと思った。

3)フィクション(児童文学を含む)

◆中山可穂「銀橋」

私の最愛小説家の一人、中山可穂さんの「男役」「娘役」に続く宝塚シリーズ3作め。
ファンタジー色の強かった前作に比べて今作はとてもリアリティのあるストーリー展開で、ヅカファンではない私でもジェンヌさんたちの日常を「ああかもしれない、こうかもしれない」とのめり込んで読んだ。今回は専科さん(宝塚歌劇団の中で特定の組に所属しない団員さんのこと)の話。専科さんは轟悠様しか存じ上げないが、その圧倒的な演技力と滴るような魅力を作中のアモーレさんに勝手に重ね合わせて読んで、まんまと舞台が見たくなる罠。今劇場になかなかいけないので、とりあえずDVDでトキメキを補充しようと思います。

◆帚木蓬生「沙林 偽りの王国」

オウム真理教の引き起こした一連の毒物事件、そして教団指示のもと行われた拉致・監禁、凄惨な殺害、修業死などを医師の視点から書き起こした一冊。フィクションといいつつほぼノンフィクションと読んで差し支えないのでは。時系列で描かれており、非常に分かりやすく事件の全体像をまとめており、作者の尋常ではない力量と資料の読み込みの力を感じさせる。オウム事件について一通り知りたいというニーズにはこれ一冊でこたえられるのでは?と思わせる充実ぶり。
この小説を読んで、「組織においてくすぶっている/正当に評価されていない/予算など自分の研究が十分にできない」という不満感情が倫理感・モラルを簡単に飛び越えてしまうということの恐ろしさを知るとともに、それは組織開発において十分留意すべきポイントとして留意したいと思った。

◆ジム・シェパード「わかっていただけますかねえ」


古代ローマの属州の書記、ヒマラヤを調査するナチの探検隊、世界初のソ連女性宇宙飛行士テレシコワ、チェルノブイリ原発事故に遭った技師などを主役に据えた11の傑作短篇集。
フィクションだけれども、妙にリアルな語りが多く、だからこそ読後感は付き放されたようなものが多い。また、多くが兄弟の話であり、テレシコワを主人公にたてた一編は疑似姉妹の物語としても読める。兄弟というのはどちらかが死ぬまで切り離されない存在であり、その意味でこの小説は兄弟の結末を描かず終わるところが誠実なのだと思う。

◆カレル・チャペック「長い長いお医者さんの話」


紅茶のメーカー名として有名なチェコの文豪の児童書。短い童話を9編収録している。どれもユーモラスで、でも結構皮肉が利いている。私は宛名の書いていないラブレターを一生懸命配達する郵便屋さんの話が好きでした。あと、いくつかの話に河童が出てくるんだけど、チェコにも河童がいるのかとびっくりした(挿絵も著者の兄が手がけたものだけど、どう見ても日本の河童と酷似)。

◆川上未映子「あこがれ」

おとなしくて絵が得意な麦くんと、映画好きのヘガティー。麦くんが淡い感情を抱くミス・アイスサンドイッチへの思慕、偶然存在を知ってしまった異母姉妹について思い悩むヘガティーの揺れ動く感情を丁寧に描く。思春期直前の二人がそれぞれの「あこがれ」を支えあう美しい物語。子どものうちからこういう親友がいたらいいなあ、と本当におもう。

◆篠原美季「欧州妖異譚2 使い魔の箱」

懐かしいホワイトハート時代に発売されたシリーズ。今は講談社X文庫で出ています。三人の美青年たちが怪異に巻き込まれて…というのが主筋だけれど、ありていにいえばセックス描写のない清潔な精神的BLなので読んでいてとても癒されます。今回は魔女の家に伝わる使い魔と、それを使いこなせなかった女の子の話。篠原さんはじめ、ホワイトハートの作家さんたちはみんなお上手なので読んでいて安心・安定感があってよい。

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