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[質問箱]文章術|アイデアが思いついても書くうちに迷路に迷い込みます。

ご質問ありがとうございます。質問者さまは、書きたいことはパッパと浮かぶけれど、書いていくうちによくわからなくなって、最終的には「あれ? 何がしたかったんだっけ」と筆が止まってしまうようですね。わたしもかつて同じ悩みを持っていました。

なぜそうなるかというと、書いているあいだに「あ、あれも書きこみたい」「この言葉も使いたい」「あ、こんな話題もあるの? 内容に反映できないかな」「あの人の考えも盛り込みたいなあ」等々と、色気をだそうとするからです。発端のアイデアが何かしらあっても、そこに接ぎ木をするようにして文脈からズレたフレーズや単語をプラスしたくなる。しかしそれらフレーズや単語は、残念ながら元のアイデアからは大抵ズレた意味をもちます。なぜなら、元のアイデアとズレた趣向だからこそ、その要素が、「この考えを文に盛り込んだら彩りが良くなってさらにいい文章になるかも」という思いをあなたに抱かせるからです。これは、書き手の性(さが)に関係しています。ですが、それなりに技術がない場合、基本的には「書いている途中での盛り込み」は収拾がつかなくなります。

パッパと思い浮かぶアイデア自体も、じつは案外、言葉にしてみるとあやふやだったりします。こういう「感じ」のアイデアを言語化しようと書いてみて、「何か違う」と書き直すことがよくあると思います。そもそも最初のアイデアというものが、大体はニュアンス程度の曖昧で強度のないものなのです。例えば、「キリンって知ってる?」と言われれば多くの人は「知ってるよ」と応じるでしょう。しかし「じゃあ、キリンの絵、ここに描いてみて」と言われると、謎の絵ができあがる。キリンの脳内イメージはひどく曖昧で、ディテールなどほとんど存在しません。文章のアイデアも、それに似ている。でも、脳内にあるうちは、それに気づかない。言語化した途端にその曖昧さがあらわになり、アイデアそのものすら「あれ? なんだっけ?」となってしまうのです。

最初は堅苦しいかもしれませんが、文章を書く練習をしていくなら、まずはプロット=文の設計図を作ることをオススメします。これから書こうという文章のテーマを決める。確固たる、断固たる決意で、テーマを決めて固定してください。テーマに紐づくアイデアはなるべく具体的に。そして、起承転結でもいい、序・本・結でもいい、書きたいタイプの文章によりますが、筋書き、見出しの羅列、最低限使いたいワードなどを、あらかじめ整理しましょう。

そして、いざ書き始めたら、そのプロットからズレないよう耐えてください。人は、どうしても、あれもこれも盛り込みたいという誘惑に囚われ、色気をだしたがります。ほぼ全ての書き手がそんな思いと葛藤します。でも、耐えてください。新しい要素は加えないでください。まずまず、カオスになるだけですから。ただただ、筋を通してください。この鍛錬がなければ、書いているうちに迷路に迷い込むという事態はなかなか解消されないでしょう。

でも、一点、気をつけて欲しいことがあります。こういうことを言われると、書き手によっては、一行目の書き出しで苦戦するようになります。一行目にやたらと高い敷居を感じて、タイピングが始められなくなる。なぜそうなるかというと、今度は「完璧な文章にしなければ」と気負うようになるからです。ほんとうであれば、スケッチ程度のラフな感じ、必ずしも一行目になるとは限らない(起承転結の「転」のどこか一文でもいい)センテンスをまず書いてみるとか、いろいろな柔軟な対応の仕方があるのですが、「起承転結しっかり!」というマインドがセットされると、PCの前でうんうん唸ることになるかもしれません。

これは、「書くうちに迷路に迷い込む人」のみならず、書き手の多くが悩まされている「一行目の壁」です。

大事なことは、LINEを打つように、メールを書くように、チャットをするように、テキトーでいいや、と思ってまずスケッチを書き出すことです(もちろんプロットには添いつつ)。ずっと以前、英会話学校でよーいドン! で学ばせると、大学生よりオバチャンの方が上達が速いという内容のテレビがやっていました。なぜそうなるかというと、大学生は、完璧な構文を頭の中で構成してから喋ろうとするからです。一方のオバチャンは、とりあえず手元にある単語とフレーズで、つぎはぎでもいいからマシンガントークを始めます。結果、オバチャンの方が英会話学習の初速が速くなる。

人は、文章を書こうと考えると、あたかも特別なことをこれからするかのように「構え」てしまいます。日常的にスマホで文章を送受信しているにもかかわらず。そのLINEやチャットと、これから書こうという文章は、「文章という意味では同じなんだ」と思っていただいて差し支えありません。チャットするように書いていいのです。ですが、書くことが特別だとあなたが思っていると、あまたと触れてきた書き手の文章のように「ちゃんとしたもの」を最初から書こうとしてしまう。その考えは、時に足かせになります。ていうか、そんなこと、最初からできません。

構成だけしっかり。そして気張らず。リラックスして、さて、どんな言葉をつむぐか、自分でも楽しみだなあと思いながら、執筆の旅を始めてみてください。

なお、質問者さまの質問に、「書いている時に正木さんは何を考えているのでしょうか」という一文がありました。ぶっちゃけていうと、書いているまさにその瞬間は、何も考えていません。書き始めから書き終わりまで一気呵成です。3000字のメディア記事なら1.5〜2時間くらいで書き終えます。本稿のようなつらつら書くnoteなら15〜20分くらいです。その途中で推敲することもほとんどありません。というのも、書く前に頭の中で文章ができあがっているからです。タイピングは、その脳内の文章を再現しているに過ぎない。インタビュー記事なんかも、対談相手とのやりとりを一応は録音しますが、それを聞き直したり文字起こしをしたりすることはまずありません。インタビュー中に記事は脳内で出来上がっていて、あとは少々のメモを手がかりに、PC上に再現するだけ。だから人より圧倒的に速く書けるのだと思います。ただ、ここまでくるには、ほんとうに地道な、何年もの努力を要しました。

ともあれ、上記、参考にしていただけたら幸いです。

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