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「亀有」は驚異的な「ベンチ」のまち!?5日間滞在中の驚きのまとめ.葛飾区・足立区のお手本のような「ベンチ」でまちづくり.

マイクロツーリズム、ワーケーション、ステイケーション。なんだか急にいろんな言葉が出てきて、それに右往左往影響されるのも、ちょっと人間らしさに欠けたものだなと思いつつ。要は「生きること」と「働くこと」について、今までよりも考えて、自分なりに心地良く行動するというのが大切なことではないでしょうか。

さて、今年のお正月は皆さんはいかがおすごしでしたでしょうか。なかなか帰省というわけにもいかなかったのは、私たちも同じ。

で、昔から機会があれば、近くのホテルに泊まったりして、楽しむことが何度もありました。それがたとえ自宅から1キロ先の水天宮、3キロ先の浅草であっても、いつもとは違う体験ができるからです。

でも、ホテルというのは、手厚いサービスがあってそれもまた楽しさである一方で、それが「ひとときそのまちの住人になれる度」を下げるところがあったりもします。せっかくなら、「ひとときそのまちの住人になれる度」を究極感じさせてくれるものが好きなので、そこで活用するのがAirbnbです。日本だとまだまだ市民権を得ていなくて数が少ないですが、使いこなすと本当に楽しいものなんですね。

というわけで、今回ダーツの矢が刺さったのが、自宅から9キロ先の「亀有」(葛飾区・足立区)。宿泊先のスペックはもちろんですが、初詣できそうな神社や(なんと)温泉が近くになったことくらいを決め手に予約。

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12月30日。小さなスーツケースに荷物を詰めら30分ほど移動。着いてさっそく、駅前にあった両さんと記念写真を撮ったり。ここから亀有人としての生活開始。

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年末年始でも、少しはお店が開いていて、意外と美味しそうなお店が連なっていて感動したり。

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駅の北口ロータリーにあった「栄真堂書店」は、国宝級の書店。まさにマイパブリックの塊のようなお店で。

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店主セレクトの新刊から古本、レコードから雑貨まで、すばらしいワンダーランドです。小さくともこういうカルチャーなお店はしっかりと評価して、街のみんなで守ってあげなければいけません。

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所狭しと中古レコードもありました。こういうお店があるまちが「生きたまち」、ないまちが「死んだまち」ですよね。

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南口は少し整備されはじめているけれども、それでも急にこんな市場があったりして、もう最高なわけです。ここだけで年越しの食材がほとんど手に入ります。お惣菜系も充実。

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建ち方がアグレッシブでも、屋根の下で繰り広げられる日常は非常に淡々と。コロナであろうが何だろうが、ありがとう!という気持ちのやりとりがそこかしこで行われています。歩いているお年寄りも多い。みんな元気です。

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隣にはショッピングモール「アリオ」が。モールも大好きなのですが、亀有のアリオはシンプルだけどよくできていました。裏側には再開発されたマンションエリアが広がっていてそちらからも引き込んで、弓形のプランにほどよいお店のセレクト。

駅前のヨーカドーは、地下のみとして、上はニトリとダイソー。それでも1階には老舗の地元の和菓子屋さんが。そういうところが良いですよね。よくモールが商店外をコロス!なんてことが日本全国言われてきましたが、あれを100%信じるのは違うと思います。

こういう風に、昔からの商店が、モールと同居していることもあるのです。要は、売るということ以上に、どう愛されるかということを考えてきた結果、お客さんに選ばれているということ。

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そんなこんなで、60平米ほどの宿泊先のお家は、とても快適で、お雑煮をつくったり、グデーっとテレビをみたり、たまに宿題の仕事に手を付けたり、急遽そこからの田中の年越し生配信を見届けたり、と過ごしながら、亀有香取神社に初詣を。

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そうか!葛飾区だから、キャプテン翼のまちでもある!御札をかけるフレームがゴールの形をしていました。亀有香取神社は、足腰の神様もいるということで、健康にかけて御札には「ベンチプロジェクト」の願いを。「ベンチ」今年はいくつかの展開がある予定なんです。

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この時点で、亀有で生活をしはじめて、48時間くらいが経っているのですが、ふとまちの光景を見て、改めて思ったんです。いい歩道だなと。歩道と車道の段差もそれほどなく、街灯があって、桜の木があって、広い。

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いつもはディスりまくる丸太ベンチも、なぜだか許せてしまう気分に。

それで、いろいろ歩いていたらですね...

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こんなベンチに出会ったのですね。ん!?こ、これは。どういうことなんだ?

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引いて見る。すばらしい。バス停がそこにあったので、マンションを建てるときに、壁をセットバックさせてベンチを設置した、のかな?

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実に美しいなぁ。何て心ある設計者なのだ。マンションの外構にカスのような樹木(通称:カス木)を植えたりするくらなら、こうやってまちに貢献するくらいがいい。

これだけで、感動マックスだったのに、また数十メートル先で...

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ジャン!!わぉ!また出てきた。今度はマンションのエントランス脇。また、通常は死んだツツジが植えられてそうなところに。ベンチが鎮座しています。

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すべてのマンションがこうなっていればいいんですよ。本当にすばらしいですね。しかも、ベンチに木陰ができるように低木が植えられているんです。

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しかも信号のある交差点の角地にあるから。夏場はよりありがたいですよね。

ここら辺からうっすら、亀有のまちヤベーなと思いはじめるわけですが、うっすら、これは設計者の意図なのか、はたまた葛飾区の力が働いているのかと考えはじめたわけです。

そしてまた、それほど離れていない住宅地に差しかかると...

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 お、小川が流れてる....

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そして、ベンチ!!

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また、ベンチ!!小川の縁の緑はあきらかに住人管理のマイパブリック。

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なるほど。親水緑道とある。しかし、わずか200メートルほどを、こんな風につくりこんでるなって、なんというパブリックマインドだ。

そして、住宅街を南北に貫くメインの通りに戻ってみたら、こんな素敵な川が流れているのだけど...

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また、ベンチ!!

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ウォー!!しかも親水できるスペースまでつくられていて。

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そして、ベンチ2連チャン!! 最高です。もはやこのレベルになると、世界レベルの設えですよね。小川が流れていて、座れて、木漏れ日が揺れていて。散歩ができて、歩けて、誰もが佇めて。ベンチに座ると向こう側に街中華屋さんです。背後にはローソン。そして広がる住宅街。こういう場所を生活圏に持てるのが本当の豊かさです。これ東京駅から9キロの場所ですからね。駅ビルや再開発度マックスの「死んだまち」に住むより、断然こっちのほうがオススメです。こういうまちに出会う度に、東京はその良さをマックス体感して暮らすには、マスコミに踊らされず“まちを見極める力”が必要だと痛感させられます。

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小川沿いはゆったりと歩ける。東屋があって、花壇は明らかに市民グループが世話をしていました。春にはチューリップたちが咲き乱れるっぽい。こういう花壇ひとつでも、市民がやらされているのか、能動的に楽しんでいるのかで、まちの善し悪しがわかります。

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夜通ってみるもの良い感じ。ゲート状のオブジェには時計があったり、歴史と紐付いた水車のオブジェもいいですよね。こういったシンボルがしっかり設置されているのも、いいまちの条件のひとつです。「死んだまち」にはシンボル、パブリックアートがありません。

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宿泊したAirbnbの居心地と、何気ないまちそのものを過ごしたり、また買い物をして料理をして、食べてという生活そのものが楽しくて、結局延泊を重ねて4泊5日ステイしたのでした。この道は良く通りました。ぽかぽかの日中は、いろんな人がベンチに佇んでいました。

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いい光景というものは、市民がマイパブリックとしてコピーしてしまうもの。飲み屋さんの前に、まったく同じスケールでコピーされていました。ビールケースと板でつくられたベンチ。もう最高ですよね。こういうことが起きるのも、いいまちの条件。

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また、ベンチ!! このあたりまでくると、完全に確信犯だということがわかっています。だって、普通はツツジ植えて終わりになるはずなのに、意図的にベンチをつくっています。葛飾区には何らかのルールがあるはず。そのルールにのっとって、マンション設計者も良い意味での能動性を発露させて、まちのために、他者のためにと図面を描いているはず。それが伝わってきますよね。

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浮浪者が寝たらどうするんですか? 酔っ払いが怪我をしたら? 自転車がぶつかったら? そんな野暮なネガティブ想像しかできない人は、葛飾区の担当者を訪ねると良いでしょう。きっと、私たちと同じように「ベンチが何をもたらすか」を刻々と説明してくださると思います。そういう意志のあるベチがそこかしこにある。

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なんか、こういう一見無意味な外構デザインでさえ、市民に対する配慮を感じます。「1階づくりはまちづくり」を完全に理解した、補助線の上にベンチを含めたすべてのデザインがあるに違いない。

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ちょっと中心部へ戻ると、ヘアサロンの軒先のほとんどがベンチになっていたりして。これまた最高じゃないの!!! きっと通りがかった人がここに腰掛けても、ヘアサロンの人はもちろん微笑ましく見守るでしょう。

ちなみに治安の安全ランキングは、葛飾区は23区中13位です。そのまちがこんなベンチづくりをしているのです。浮浪者がどうこうはそれほど問題ではないのは明らかです。それよりもメリットが大きい。

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その隣にあった焼き鳥屋は、いつも夕方になると軒先で焼きはじめるのですが、お店がしまってるときもステージ上に台を置きっぱなし。こういう光景もいい。なんだかDJできるなとか、いろいろと妄想が膨らんでしまいます。

こんな感じで5日間、亀有のまちを歩きながら、感動しきりだったのですが、ついにはこんな広めのものも見つけました。

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ここは割と大きめのマンション周りなのですが、ベンチだけではなく完全に小さな公園もつくっているんですね。しかも、すぐ目の前に大きめの公園があるんですよ。それでも、こうしてつくってマンション住人とは関係のない他者に提供する。すべてのマンションデベがお手本にすべきものです。

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そこの立て看板にあった「葛飾区中高層集合住宅等建設指導要綱」の文字。なるほど、当たり前ですが、すべては制度があってのことというわけです。制度は私たちのいう「補助線のデザイン」の行政版です。行政が描いた補助線に、具体的にまちの建物、その建物の1階を設計する人たちが、他者を思いデザインをしていく。そのいい循環が、街全体に統一された秩序を生みだしている。

そこでの大きな共通項は、自分だけのことを考えず、「他者にやさしくあれ」ということです。

例えば、最後の公園ひとつ、日本人はすぐに、そこに若者たちが集まって悪いことをしたら、とか言います。その根本には、無意識に他者を信用しなくなってしまっていることがあります。

これは鶏の卵が先か鶏が先かという話にもなるのですが、究極はいかなる状況にあるにせよ、私たちは他者を信用しなくてはいけません。

自分とは異なる他者が、日常の光景の中で目に触れられて、そして互いが認識され、許容される。そこで多少の粗相があったとしても許してあげる。そして、自分も許される。そのことのみが、人間としてあるべき他者を信用しあう世界へとつながります。

有名な幸福度の研究で、すれ違う他者を信用できる人が多いまちほど、幸福度が高いというデータがあったりします。

つまり、もし私たちが幸せになりたいと、幸福な状態を目指すのであれば、知らない他者を信用できる、そういった秩序があるまちへ一歩でも近づかなくてはいけないというわけです。

そのときに最低限必要な最小で最強のインフラがベンチなのだと、私たちは唱え続けてきています。そんなことを、さらっと実践しているまちが、こんな近くになっただなんて、驚きでした。亀有のまちが、実際どんなプロセスで、このようにつくられてきたのでしょうか。

実は今回取り上げたエリアは、葛飾区と足立区を跨いでいたことを、この生地を書きながら気付きました。あまりにもシームレス過ぎて気付きませんでした。そういう意味でも素晴らしいですね。いつか二つの区の担当の方にお話を聞いてみたいなぁとも思いました。

読者の皆さんの中に、もし、何か詳しいことをご存知の方いらしたら、ぜひ教えてください。また、日本全国に亀有を越える、こんないけてるまちもあるよー!って場所があったら、そういうのもぜひ教えていただけたら嬉です。

というわけで、新年一つ目のnoteは亀有のベンチ話でした。

因みに今年は、ベンチプロジェクトはいくつかの新しい展開がある予定です。コロナ禍に関わらずベンチは熱いです。

では、今日はこの辺で。

1階づくりはまちづくり


★入門書は「マイパブリックとグランドレベル」で。最近、ついに次の書籍の執筆に入りました!


大西正紀(おおにしまさき)

ハード・ソフト・コミュニケーションを一体でデザインする「1階づくり」を軸に、さまざまな「建築」「施設」「まち」をスーパーアクティブに再生する株式会社グランドレベルのディレクター兼アーキテクト兼編集者。日々、グランドレベル、ベンチ、幸福について研究を行う。喫茶ランドリーオーナー。

*喫茶ランドリーの話、グランドレベルの話、まだまだ聞きたい方は、気軽にメッセージをください!

http://glevel.jp/
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