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XR技術は現代都市をどのように変え、何を解決するのか?

XR技術を都市に積極的に取り入れた時、肥大化しきった現代都市はどのように変わるポテンシャルを持っているのでしょうか?そしてその実装には、果たしてどのような社会的な意味があるのでしょうか?

本論考では、4つの考察観点からXR技術の都市反映によってこれから可能になること、そして社会的に解決するであろうことをMESONディレクターの筆者が考察として記載します。

1.100万通りのイメージを包括する都市へ

まず初めに、XRと都市の連携によって、都市が本来保有していた「100万通りの都市のイメージ」を生成し直し、都市の多様性を担保することができるでしょう。

都市の開発とは、常に一方通行な開発と受け手の利用者という構図が前提にあります。「いつの間にかここにあった建物がなくなっている」「ここにあったお店が違う店になっている」「この場所、私にとっては居心地がよかったのに違う場所になっている」などという感覚は、特に現在数十年に一度の再開発が行われいている東京のいたるところでよく感じることがあるのではないでしょうか?

これらの事象が都市が生まれる理由は、どのようなコンセプトのビルを建設するのか、どのようなテナントを誘致するのか、どのような人々が住み着くまたは利用する場所としてプランニングするのか?といった限られた平面的な土地での競争原理によって起こるものであり、それらは次第に「同じような店舗や同じようなビル、同じような人」が集める、均質化と画一化を引き起こし、多様性の実現を阻んでいます。

絶賛再開発中の渋谷地区

かつて、カオスのようなカルチャーがあった街や都市も次第におしゃれなタウンやビジネスに溢れたタウンにいつの間にか変わっているのは、そのような都市の競争原理の中で開発が行われ続けていることが原因であり、それが現代都市における価値創出の方法論であるからでしょう。そして、その方法論は明らかに多様性を包括する都市を生み出す原理にはなりえていないとも言えるかもしれません。

このような現状の問題に対して都市の多様性を再び増幅させるために、PLATEAUデータを用いた都市型XRやデジタルツインを活用することが考えられます。

「都市のイメージ」で有名なケヴィン・リンチが述べているように、都市に対しての人々の解釈は人の数だけあります。例えば、20代にとっての「渋谷」という街と40代にとっての渋谷という街の主観的な良さは異なりますし、4月の渋谷と10月の渋谷、朝8:00と夜20:00の渋谷の状況は異なります。

これらの都市に対するイメージの差異を、都市メタバース的に具現化することで「渋谷のイメージを個別レイヤー化」することができます。
例えば、メタバースで昭和時代の渋谷のレイヤーを構築し、その当時売られていたものを昭和時代の渋谷の都市型メタバースで購入できたり、建築物を再現したりすることもできるでしょうし、4月の渋谷の雰囲気やその時の活気なども異なるメタバースで構築することも可能でしょう。まさにタイムマシンのように空間をレイヤー化することができます。

さらに細分化したときに、個人や企業のイメージに合わせて渋谷という街を生成することも可能でしょう。個人の街へのイメージやお気に入りのスポットを自前の地図として生成し、多くの人に共有できる地図サービスStorolyの都市メタバース版と言えるかもしれません。

そしてそれらの異なる渋谷のイメージをメタバースからARに変換し、リアルな渋谷に被せたとしたら、コンテンツ、販促物、プロモーションなどは「固定された室内」から「都市全体」に飛び出し、商業施設やブランドの世界観がデジタル都市レイヤーに漏れ出すことができます。

これにより、同じような渋谷の街の体験を受動的に受け取るのではなく、フィジカルの空間は体験してみたい都市全体での体験を選択可能にすることができるでしょう。

このように都市とは本来多様なイメージにあふれた場所であり、現在の開発で均質化され空虚になっていく開発ベクトルに対峙して、デジタルツインと都市の掛け合わせによって多様性に振り切った都市を構築できるでしょう。


2.なめらかなサイバーとフィジカルの空間融合都市

現状、サイバー空間とフィジカルの融合は積極的には開発されておらず、サイバーに閉じた環世界としてのメタバースが乱立・開発が先進していますが、Plateauのような都市データを用いることでサイバーとフィジカルがよりシームレスに行き来できたり、新たなコミュニケーションが可能になったりすることも考えられます。

2020年の国交相の開発するPLATEAUの実証実験にて、MESON、博報堂DYホールディングスは、現実世界(フィジカル空間)とサイバー空間を融合させた次世代のコミュニケーション体験構築プロジェクト「GIBSON」は、現実世界の3Dコピーであるデジタルツインを用いてサイバー空間を構築し、そこに現実世界を重ね合わせることで、遠隔地のVRユーザーと現実世界のARユーザーとがあたかも同じ空間で場を共有しているような体験が可能にし、まさにサイバーとフィジカルの空間融合と言えるでしょう。

GIBSONの目指す空間融合が構築する都市像は「都市活動における身体性の改変、新たな身体性や生命の受容」とも捉えることができます。

身体を伴って都市に行かずとも、身体的な都市体験やコミュニケーションをなめらかに実行できたり、欠損のない情報を受け取ることができます。そしてエモーションも身体的に共有することができる。Airpotsを装備することで、場所によって同じような聴覚体験を受信することも可能でしょう。
具体的には、海外から渋谷の街に自身のホログラムやキャラクターを投影し、ARグラスをかけた友人とシームレスにコミュニケーションや都市体験をしたり、その場所に移動をしなくても身体を転送することが可能なったとき、本当の「国際都市」として機能するかもしれません。

現状のリモートサービスでの接続では、そのような都市の繊細な情報や都市体験のプロセスの中にある豊かさを抜け落としてしまいますし、現在はいわゆる健全と呼ばれる身体がなければ、同じような欠損のない都市体験を得ることができません。
しかし、人間は年齢と共に衰え、多様な身体を持っている生き物です。サイバーとフィジカルの空間が融合し、身体性の拡張を行うことで、異なる身体状態でも同じような都市体験を得ることができよりフラットで多様性を包括する都市コミュニケーションの設計が可能になります。

また、近い未来では、ブレードランナーの主人公リック・デッカードの恋人ジョイのようなホログラムの人間のようにアニメキャラクタターやデジタルヒューマンに人工生命が宿り、会話しながら都市体験を行うことも実現可能でしょう。人間ではない存在とも都市体験を共有し、社会を構築する基盤(=コモングラウンド)となる都市を生成することができます。

サイバーとフィジカルの空間融合都市を実現することで、フィジカルレイヤーのみで人間中心の都市設計を超えて、多様な身体や、人工生命のようなノンヒューマン、または生命体が同じ土俵でやりとり可能なコモングラウンドの実現の技術的な実現の一歩になります。

コモングラウンド説明資料より引用


3.都市の人為起源物質の非物質化の進めるためのXR都市

最後に、デジタルツイントとXRの都市実装の本質的な目的は、人為起源物質の非物質化にあるとも言えるかもしれません。

現在、都市が切迫する環境問題に大きな影響を与えており、ダボス会議においても4つの気候変動のキーポイントの一つに都市や建築計画の在り方が挙げられています。また2020年のネイチャーでは人為期限の物質量が生物体量を追い抜くというまさに「人新生」の時代の到来と未来の危うさが現実世界を強く揺さぶっていることは周知の事実です

それらに対して、建築材料の脱炭素化やモビリティをのエネルギー源のシフト、都市で消費廃棄されるものの循環モデルを作り出すことが推進されていますが、そのほかの案として、ARや都市型メタバースを用いることで、都市で生産解体され続ける建築物や消費されるものをできる限り非物質的なものにリプレースしていくことができるかもしれません。

例えば、ARを用いたショッピングなどは「商品をAR化してホワイトキューブの店舗で販売する」「都市にある公園でAR越しでの店舗空間と商品を展開し、公園をARショッピングモールにする」など今まで物質として固定してきたものを仮想空間に置き換えることができますし、エンタメ要素やゲーミフィケーションを用いた行動変容が見込めます。また、交通標識や道路の白線などの固定化された資源もARに取って変わることも考えられます。

これらによって、経済的な成長や物質的な欲求を減衰させることなく、テナントの入れ替えによる店舗改装、短期スパンでのスクラップアンドビルドによって生まれる大量の廃棄物などを減少させることが現実的に可能になるでしょう。そして、それらが浸透しとき下駄履きマンションのような量産される空間の定式も書き換えられたり、都市のゾーニングや都市景観すらも書き変わる可能性を持っています。

脱炭素への都市の適応は、技術的な挑戦や倫理的な都市の対応以上に逼迫した地球環境の問題であり、今後の気候変動の進捗度合いによっては「都市の人為起源の物質を最低限にし、できる限りサイバー空間にリプレースすること」を目指さねばならない状況になりうる可能性は少なくないでしょう。

4.自動車が変えた都市の形を、次はXRが変える

近年、多くの企業が意欲的に都市開発に乗り出しています。アルファベット傘下のSidewalk Labsが計画していたトロントの「IDEA」計画、テンセントが計画する広東省深センのネットシティなど巨大な資本を持つテックカンパニー、トヨタのWoven cityが都市の開発に乗り出し、着々と未来の都市の在り方を形することに取り組んでいます。

これらの動向は、テックカンパニーが「ソフトとしてのサービスの充実」以上に、さらに人間社会として根本的な「ハードの改変の必要性」に気がつき始めたことにあると考えられます。先端的なテクノロジーを社会システムに落とし込み、最適化と検証を効率よく積み重ねるためには、最終的には自社テクノロジーを落とし込んだハード、つまり生活者の集う都市を構築する必要があるからでしょう。

現在では、デジタルと都市生活の交わりはスマートシティやMaaS、コンピュテーショナルデザインなど「都市の肥大化を処理し、効率的にかつ生活者の豊かさを構築するための都市論と技術論」が台頭していますが、それまで、都市論とテクノロジーの有用性は十分に交わり、今日のように社会に対して形として落とし込む挑戦ができていませんでした。

磯崎新の七〇年代の〈電脳都市〉や「コンピュータ・エイディッド・シティ」、そして日本初の建築運動「メタボリズム計画」では技術による有機的な都市の形を概念として先駆的な提案でした。しかしどの計画も、未来の日本の都市のあり方として現実的なものにはなっていません。都市に対しての想像を刺激する提案ではありましたが、当時のテクノロジーの発展状況に対しては身の丈の合わない提案であったことが大きいでしょう。

しかし、現在においては、肥大化した都市の課題に対してテクノロジーを用いたアプローチで改変することのできる状況まで来ていると言えるでしょう。テクノロジーを活用することで、今までのフォーマリズムのような都市設計ではなく、人間の生理的なものや異なる身体性にまでこまやかに対応できる都市ができそうな気がします。

これらを叶えることができるのはでもないテクノロジーを保有したテックカンパニーであり、都市の未来の形をハードの改変と共に作り上げ、積極的に提案と議論を積みかさせねていく必要があるでしょう。

1000台の自動車は、移動を可能にし、プライバシーを創造し、冒険を提供する。 10億台の自動車は、郊外を形成し、冒険を排除し、土地に根差した考えを消し、駐車問題を引き起こし、交通渋滞を生み出し、建造物は人間的尺度で作られなくなる。

ケヴィン・ケリー『テクニウム』

自動車という移動の発明は現在も都市の形に強い影響を与えています。それにより発生している問題も社会デザインの問題も我々は慣れてしまいました。
XRは世界を多層化し移動や時間、物理世界の存在意義を揺さぶり続け、都市の形を改変しようとする時、XRをどのように、そしてなぜ、どのような形で都市にインストールする必要があるのかを考え続けねばなりません。

以上のように、近年のエンタメとしてのXRの利用以上に、膨張し続ける社会課題や都市課題に対して積極的に貢献していく技術発展のベクトルにXRは進化していくべきとも考えられます。技術を用いた人類生活の逃避行のためではなく、これからも人類が形を変えながらも生き延びるためにXRと都市論を更新していく必要があるでしょう。

5.最後に

本論考は、MESONの主宰するARISEの国土交通省主導プロジェクト「PLATEAU」関連セッションをより楽しんでいただくために早稲田建築に所属するMESONディレクターの森原が作成しました。
記載した点が派生した内容が扱われるであろう、当日のセッションをぜひお楽しみください!

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