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運営業務の生産性KPIを完璧に理解する

こんにちは、Kazpeeです。
第1回目となる前回は運営業務におけるコストパフォーマンス評価に関して書きました。

前回の要点は以下のようなものでした。

< Sumally >

1件あたりコスト      ・・・Unit Cost
1人・1時間あたりコスト   ・・・人件費単価
1人・1時間あたり対応件数  ・・・生産性

Unit Cost = 人件費単価 ÷ 生産性

・Unit Costは対応数(ボリューム)に対するコストパフォーマンス評価指標

・変動要因は、人件費単価と生産性のそれぞれに「分けて」分析することで原因に迫ることができる

今回は、運営業務における「生産性」について書きたいと思います。
おそらく運営業務のKPI管理に少しでも関わっている方ならば、会社の上司やクライアント企業から「生産性を上げろYO!!」と口すっぱく言われたという経験があるのではないでしょうか?


運営業務である以上は生産性の維持・向上という命題からは逃れることはできませんし、できることならばポジティブに向き合っていきたいものです。
そのための1stステップとして、生産性の定義を明確にし、定量指標を設計しておく必要があります。

当たり前の話ですが、「生産性が上がった/下がった」という事実を定量指標(数字)で示し、関係者全員が共通認識をもつことが欠かせません。

しかし、実際にはこの生産性の定量指標の定義や扱い方を誤っているケースは実に多いんです……!!

それら陥りがちな落とし穴(生産性あるある)の事例も交えつつ、正しく理解できるように解説して参ります。それでは参りましょう。


生産性の定義


ところで生産性の定義とはなんでしょうか?

生産性とは、 労働・設備・原材料などの投入量と、これによって作り出される生産物の産出量の比率のこと。
生産性 =  産出量(Output)÷  投入量(Input)

ちょっと小難しいですが、業務上の生産性という意味では

生産性 = 労働成果 ÷  労働量

と理解しておけば良いと思います。
つまり、生産性とは「労働成果」を「労働量」で割ったものですが、これだと定義としてはまだ曖昧なので、今後は以下のように定義します。

生産性 = 対応件数 ÷ 勤務時間

勤務時間としている点が重要です。
分母となる時間は「人件費が発生している全ての時間」である必要があります。時給制の給与形態だと給与が発生している時間は明確ですが、月給制などの場合であっても、勤務時間=給与の発生している時間とみなします。

なぜか??

その理由は「生産性を上げる目的」にあります。

生産性を上げる目的

一体何のために生産性を上げようとするのでしょうか?

極めて当たり前の話ですが、生産性を上げるのはコストパフォーマンスを上げるためのはずです。ちなみにボリューム(業務量)に対するコストパフォーマンス指標 Unit Costについては前回の記事で解説しましたが、

Unit Cost = 人件費単価 ÷ 生産性

このように Unit Cost を構成する要素指標として生産性があります。
この式からもわかるように、分母である生産性が高くなるほどにUnit Costは安くなる関係にあります。

先程、生産性の分母となる時間は「人件費が発生している全ての時間」である必要があると言いましたが、上記の式はそもそも以下のような計算過程で導かれています。

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1件あたりコスト      ・・・Unit Cost
1人・1時間あたりコスト   ・・・人件費単価
1人・1時間あたり対応件数  ・・・生産性

つまり、「人件費コストが発生している時間」における業務量(ボリューム)の効率が生産性です。当然、コストの発生しない「昼休憩」などは除きますが、ミーティングや研修、小休憩といった直接作業に関わらない時間も全て含みます。

生産性に影響を与える要因

ここまで生産性の定義や計算構造を解説してきました。
ところでこの生産性に影響を与える要因は主に以下のようなものが該当します。

・オペレータ個人の生産性のばらつき
・業務ルールやフローの複雑性
・作業導線の非効率性(システムが使いづらい、ツールがばらばら など)
・対応に直結しない間接工数(研修、マネジメントなど)
・自動化の度合い

あくまでここで挙げたものは代表的な要因で、実際には単純なものから複雑なものまで様々な要因があります。

CPH・稼働率という考え方

要因が様々あるので打ち手も様々、、、というのが実情ではありますが、打ち手を考えるために便利な道具があります。
それは「生産性をCPHと稼働率に分けて考える」というフレームワークです。業界ではかなり浸透していて「なにを今さら・・・」と思われた方も多いかもしれません。

CPHとは Completion Per Hour の頭文字をとったものです。
コールセンターでは Call Per Hour と覚えている人の方が多いと思いますが、全く同じものと考えて頂いて構いません。
CPHの定義は「稼働時間1時間あたりの対応件数」です。

CPH = 対応件数 ÷ 稼働時間

「稼働時間」新しいワードが出てきました。
稼働時間とは業務対応に直接的に関与している時間のことです。
業務や会社によって何を稼働時間と捉えるかは異なりますが、例えば「小休憩」や「MTG」や「研修」などの時間は稼働時間に含まれない事が多いと思います。
(一方で、例えば「業務上でわからない事をリーダーに質問する時間」や、管理者の「管理業務」「業務ナレッジ/マニュアルの整備」などの時間は稼働時間に含めるかどうかは意見が分かれると思います)

この稼働時間が勤務時間に占める割合のことを稼働率と言います。

稼働率 = 稼働時間 ÷ 勤務時間

この考え方は、

CPHを上げる ・・・ 稼働時間内の作業効率を上げる
稼働率を上げる ・・・ 勤務時間内の稼働時間を増やす(=非稼働時間を減らす)

という改善方針を2つに分けて考えるという思考フレームワークです。
分けて考えることによって具体的な打ち手が考えやすくなるという利点があり、業界でもかなり浸透している手法なのではないでしょうか。

例えばCPHを改善する場合は「複雑な業務フローをシンプル化する」「作業動線を改善する」といった打ち手が考えられますし、稼働率を改善する場合は「無駄なミーティングをなくす(または短縮化)」「研修プログラムを改良して研修期間を短縮する」といった打ち手が考えられます。

かなり重要なポイントですが、これらCPHと稼働率は生産性を構成する要素になり、以下の式で表されます。

生産性 = CPH ✕ 稼働率

なぜ重要かというと、上記の計算構造を理解しないまま扱うと判断を誤る原因になりかねないからです。それについてはこの後解説します。
また、意外とこの計算構造を理解していない人が多いので、この機会にしっかりと理解しておくことをおすすめします。

生産性あるある①

稼働時間の定義が難しくてモメる問題

前述した通り、稼働時間の定義は業務内容や会社によって変わります。
よくみる光景ですが、

「この業務は稼働時間から外すべきだと思います」
「いや、その業務は~~という理由で、直接作業に関与しているから稼働時間に含めるべきでは?」

みたいなやりとりを目にします。確かに定義は全員が納得感があるものがベストですが、この議論に多大な時間を費やすのは得策ではない、というのが僕の意見です。

例えば以下のようなケースを考えてみてください。

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稼働時間をパターンAとパターンBのように定義したとします。そうすると、それぞれのパターン毎にCPH・稼働率は変わります。しかし、どちらのパターンも生産性は同じです。稼働時間の定義によって生産性が変わることはないのです。

そもそも、生産性をCPHと稼働率に分けて考えるのは、その方が改善方針を考えやすいからです。どうしても業務内容によっては稼働とも非稼働ともとれるグレーな業務があるもので、それをどう定義するかは「決めの問題」です。よほど納得感がないものじゃなければ、それでいいのです。本質に立ち戻って考えてみることが大切です。

生産性あるある②

稼働率の適正ラインの見極め難しい問題

上述の通り、業務内容や会社によって稼働時間の定義が変わるため、稼働率の適正ラインも変わります。適正ラインの見極めは、まずはその定義で稼働率を計測し、平均的なラインを見定めてから、改善が見込みを試算して決める他にないと思います。

ただし、注意しなくてはならないのは「稼働率は高ければ高いほど良い」という訳ではないという事です。

例えば「オペレータからリーダーへの質問時間が稼働率低下の原因だ」と捉えて、この時間を単純に削減したとします。すると、確かに稼働率は上がりますが、オペレータが業務に悩んでしまう時間が増えてCPHが悪化し、結果的に生産性が悪化するリスクがあります。

このように非稼働時間の中にはCPHとトレードオフの関係のものがあるため、その見極めには十分注意する必要があります。稼働率が良化したのに生産性が悪化する場合は、このトレードオフを疑ってみるのが良いでしょう。

生産性あるある③

「CPHの稼働時間」と「稼働率の稼働時間」の定義が異なる問題

「?? どゆこと?」となった人もいるかもしれません。これをご覧ください。

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このようにCPHの稼働時間の定義と、稼働率の稼働時間の定義が異なると、
生産性 = CPH ✕ 稼働率 の計算が成立しません。
言うまでもなく、定義を合わせる必要があります。このケース、意外と多いですので注意ください。

生産性あるある④

CPHと稼働率、それぞれ単独ではみてるが生産性はみてない問題

このケースは本当に多いです。(ちなみに生産性あるある③のケースに該当する場合、ほぼ必ずこれもセットで発生します)

CPH・稼働率は生産性を分解したものであり、そもそもは生産性を改善するために分けて考えているのに、まさに本末転倒です。

社員「CPHは○○pt 改善し、稼働率も△△%改善しました! キリリ」
上司「で、生産性は改善したの?」
社員「」

みたいなケース、本当に多いです。心持ちとしては「まず生産性を把握し、CPHと稼働率に分けて考察する」というマインドでいるべし、です。

生産性あるある⑤

対応専任オペレータの生産性しかみていない問題

対応専任オペレータの生産性を上げることが、組織全体の生産性を上げることにダイレクトにつながるのは言うまでもないですが、それだけしかモニタリングしないというのは生産性マネジメントできているとは言えません。なぜなら管理者も人件費コストが発生しているからです。例えば以下のようなケースです。

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通常、管理者の業務は専任オペレータの生産性を上げるための環境整備やトレーニング、クライアントとのMTGなどが占める割合が多いですが、これらの業務は定型化された業務ではないため、人によってはとても非効率な仕事の進め方をしているケースもあります。逆にいえば、この管理者業務こそ戦略的に整理すれば効率化しやすいという側面もあります。

よって、まずは組織全体の生産性を把握し、専任オペレータと管理者に分けて分析・改善を行うというのがセオリーです。

指標を用いて説明するということ

生産性についての注意点を解説してきました。

これまで解説してきたUnit Cost や生産性、CPH、稼働率といった指標を正しく活用することによって、業務改善に役立つという側面も大切ですが、業務コンディションを説明するという点においても強力です。例えば以下のようなケースだと、、、

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「Unit Costは前月比▲150円改善しました。
理由は生産性が+1.0改善したことによるもので、CPH・稼働率の両方が改善しています。稼働率については、無駄な会議を減らして前月の半分まで抑えたことにより改善し、CPHについては、顧客対応の時間を50%→55%に増やすことができたため改善しました。」

みたいに、指標を用いることによってわかりやすさと説得力が増します。
(きっとクライアントのウケもいいはず)



かなり長文になりましたが、ここまで体系立てて説明されているドキュメントは少ないはずなので、きっと参考になると思います。

ではではまたお会いしましょう。


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