定着を期待するなら、プロセスよりもサイクルを意識しよう

業務改革には「プロセス」の議論は欠かせません。
これは、プロジェクトマネジメントプロセスの改革に取り組んでいたときの話です。

お客様が書き上げたのは、緻密なマネジメントプロセスの山でした。パワーポイントのスライド上に表現されたプロセスマップは100枚を優に超える膨大なものでした。

プロセス定義は、定義する側と活用する側に大きなギャップがあります。定義する側は、想定しうるすべてケースで漏れが無いように、曖昧さにも配慮して厳格に書きたがります。それが自分の責務だと考え、責務を全うするわけです。
ところが活用する側は、複雑すぎるプロセスマップを前にすると気分が引いてしまいます。山と盛られたプロセスをひとつひとつ確認するようなことはしません。こんな状況では、プロセス遵守のモチベーションなど高まるはずもありません。

大切なのは「定義」ではなく「定着」です。定着しなければ、時間をかけた改革も水泡に帰してしまいます。そのためには、シンプルでなければなりません。重要なポイントや実行上のキーワードが頭に残る程度のシンプルさが理想です。
何をやるにも、その都度、プロセスマップを確認しなければならないような状況では、プロセスは定着するはずありません。

そこで私は、マネジメントをプロセスではなく「サイクル」として捉えることにしています。マネジメントプロセスではなく「マネジメントサイクル」です。

プロジェクトマネジメントにおけるマネジメントサイクルには、いくつかの段階があります。
例を挙げてみましょう。

1. ウィークリーに行う、プロジェクトレベルのマネジメントサイクル
2. バイ・ウィークリーに行う、プログラムレベルのマネジメントサイクル
3. マンスリーに行う、経営幹部によるマネジメントサイクル

「1」のマネジメントサイクルは、プロジェクトチーム内で閉じています。
例えば毎週金曜日の午前中にプロジェクトメンバーは作業実績を報告します。その夕方にはプロジェクトチーム内で会議を開催し、計画と実績とのギャップを分析します。その後、ギャップを受け入れた上で計画を更新し、全員が合意した時点で会議はお開きです。月曜日の午前中、メンバーは新しい計画をもとにその週の詳細な活動計画を作成します。

「2」のマネジメントサイクルは、プログラムチーム内で閉じています。プロジェクトマネジメントチームがプログラムマネジメントチームに対して情報発信し、その情報を参加者全員で議論します。これには、プロジェクト内では解決できなかった問題なども含まれます。
例えば、隔週月曜日の午前中に、プログラムマネジメントチームとプロジェクトマネジメントチームが会議を開催し、最新の計画や新たに発生した問題、リスクの状況などを共有します。プログラムマネジメントチームはプロジェクト横断的な観点から状況を判断し、アドバイスします。場合によっては、問題解決に向けた行動を起こすこともあります。プロジェクトマネジメントチームは結果をプロジェクトに持ち帰り、必要に応じて臨時会議を開催し、プロジェクト内に指示の徹底を図ります。

「3」のマネジメントサイクルは、経営幹部のレビューを目的に組織レベルで開催します。
幹部はその場で状況を判断し、意思決定します。経営幹部から直々に与えられた指示は、その場に参加していたライン部門やスタッフ部門のトップ、プログラムマネジメントチームやプロジェクトマネジメントチームを動かします。達成状況は1カ月後を待つことなく、ダッシュボードシステム(KPIやアクションアイテムの進捗状況などを組織内で共有するためのITツール)などを通じて幹部のもとへと届けられます。

プロセスとサイクルの違いは「馴染みやすさ」にあります。
これを強調するために、私はさたなる工夫をしています。「サイクル」ではなく「リズム」と呼ぶのです。これによって「マネジメントサイクル」は「マネジメントのリズム」に変わります。

サイクルとリズムの基本は同じですが、受ける印象が違います。
カラダのリズムや生活のリズムという言葉があるように、「リズム」という言葉は生命活動をイメージさせます。このイメージが大切なのです。
リズムにしたときの馴染みやすは格別です。「サイクル」を「リズム」に読み変えるだけで、時間の経過とともに忘れ去られてしまうリスクは大幅に低下します。
リズムが組織に浸透し、事業活動の背骨となって組織の生命活動を支えるのです。

++++++++ ヒント ++++++++

サイクルとリズムに敢えて違いを見つけるなら、リズムは一筆書きが基本です。
先ほどの「ウィークリー」「バイ・ウィークリー」「マンスリー」などのようにサイクルが枝分かれしている場合は、それぞれを分離して定義しましょう。それぞれが一筆書きになることでリズムとしても馴染みやすさが際立ってきます。

私が勤めていたグローバル企業には「リズム・オブ・ビジネス」がありました。1年間を通じて実行される事業管理のプロセスを、階層別に独立したリズムで表現したものです。象徴的に描かれた最上位のリズムはシンプルそのもので、ポスターとなってオフィスのそこかしこに貼られていました。
最下位のリズムには社員ひとりひとりの活動が埋め込まれています。要領の悪い私ですら、施行初年度から馴染むことができました。

私はこの表現を拝借して、プロジェクトマネジメントサイクルのことを「リズム・オブ・プロジェクト」と呼んでいますが、評判は上々です。

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