見出し画像

第94回アカデミー賞全部門予想(9月時点)

本国の各媒体では早くも第94回アカデミー賞のノミネート予想が行われていますが、僕も思い切って「早すぎる第94回アカデミー賞全部門予想」をしていきたいと思います。また直前になったら本気の予想記事を執筆しますが、今回はまだ9月ということで個人的な希望をバンバンぶち込んでいきたいと思います。何気にこの時期の予想が一番気楽で楽しかったりします。直前になれば、重要3賞すべてで候補漏れしたコンテンダーを予想に入れることに躊躇いを覚えたりと緊張感を伴うものになりますからね。では、早速いきましょう。(長編ドキュメンタリー映画賞、主題歌賞のみ予想していません)

作品賞(10作品) Best Picture

オスカー予想 画像.002

・The Power of the Dog(ジェーン・カンピオン監督)
・Don't Look Up(アダム・マッケイ監督)
・Nightmare Alley(ギレルモ・デル・トロ監督)
・The French Dispatch(ウェス・アンダーソン監督)
・Soggy Bottom(ポール・トーマス・アンダーソン監督)
・CODA(シアン・ヘダー監督)
・Mass(フランク・クランツ監督)
・Passing(レベッカ・ホール監督)
・ウエスト・サイド・ストーリー(スティーヴン・スピルバーグ監督)
・Parallel Mothers(ペドロ・アルモドヴァル監督)

 第94回アカデミー賞から作品賞の候補枠は10作品となりました。せっかく10作品候補に選出されるわけだから、多様なジャンル、インディーズ作品、女性が主人公の作品、アフリカ系やアジア系など「マイノリティ」の人々が主人公の作品、非英語作品、女性の監督作品、アフリカ系やアジア系など「マイノリティ」の監督による作品などバランスを考えて選考した。
 まず、オスカー常連の監督や名匠の作品から、「Don't Look Up」(アダム・マッケイ監督)、「The French Dispatch」(ウェス・アンダーソン監督)、「Nightmare Alley」(ギレルモ・デル・トロ監督)、「Soggy Bottom」(ポール・トーマス・アンダーソン監督)、「ウェスト・サイド・ストーリー」(スティーヴン・スピルバーグ監督)の5作品をチョイス。いずれもオスカーで愛される可能性を十二分に秘めた作品だ。このうち、「Nightmare Alley」と「ウエスト・サイド・ストーリー」はリメイク作品。その点で若干の不安が残る。特に後者はミュージカル作品枠をめぐって「イン・ザ・ハイツ」と接戦を繰り広げるとみられる。しかし、「イン・ザ・ハイツ」は、その公開日、そしてスピルバーグのネームバリューを考えると、「ウエスト・サイド・ストーリー」に枠を譲るのではないかという読み。まあ、両作品が候補入りする可能性もあるのだけれど…しかしそれは低い気がする。名匠の作品で言えば、リドリー・スコットの「House of Gucci」(もしくは「最後の決闘裁判」)、ジョエル・コーエンの「The Tragedy of Macbeth」があり、いずれも有力で各媒体でも軒並み10枠に入れられている気がする。しかし、推測の域を決して出ないが「House of Gucci」はその絶大な期待に反して「ゲティ家の身代金」並みの評価にとどまる匂いを感じてしまい、10枠に入れなかった。それにどこもチョイスしているし、僕は入れなくてもいいかという思いもある。「The Tragedy of Macbeth」は名前から察せられる通り、シェイクスピアの四大悲劇の一つ。しかし、いくらジョエル・コーエン(今回はイーサンなし)の作品であっても、シェイクスピア劇とオスカーの相性がそこまで良くないことを考えると積極的には選びにくい(しかし有識者は軒並み予想に入れている)。
 インディーズ作品からは「CODA」「Mass」「Passing」をチョイス。いずれもサンダンス映画祭を沸かせ、絶賛を勝ち取った作品だ。「CODA」はおそらく誰からも愛される作品。フランス映画「エール!」のリメイクという点もここではマイナスにはならないだろう。「Passing」は女性監督、アフリカ系が主人公という点が強みになるはず。そう考えると「Mass」は決定打に欠ける。役者も実力派ばかりではあるものの地味に映るだろう。演技賞中心の戦いになることは目に見えるが、しかし希望込みで入れてみた。そしてすべてが英語作品というのは如何せんつまらない。なので、敬愛するペドロ・アルモドヴァル🇪🇸の「Parallel Mothers」をチョイス。非英語作品という枠では他にアスガー・ファルハディ🇮🇷の「A Hero」の線もある。レオス・カラックス🇫🇷久々の新作「Annette」は流石にオスカーで愛されるにはクセが強すぎるのではないか。他にパオロ・ソレンティーノの「The Hand of God 」も。しかしファルハディやソレンティーノは作品賞ではなく監督賞で外国人監督枠を獲得しそうな匂いがプンプンする。女性監督の作品は3作品入っている。「The Power of the Dog」「CODA」「Passing」だ。特に「The Power of the Dog」はジェーン・カンピオン監督の久々の本領発揮作として期待が高まる。10作品中3作品しか女性監督作がないのは甚だ問題だろう。他にマギー・ジレンホールの監督デビュー作「The Lost Daughter」や、ミア・ハンセン=ラヴ🇫🇷の「Bergman Island」、オリヴィア・ワイルドの「Don't Worry Darling」、ハル・ベリーが主演を兼ねる「Bruised」など注目作は多数あるが(ケリー・ライカートの「Showing Up」も?)、現時点では決定打に欠ける感。もちろん、今後の展開は誰にも予測できないことは断っておきたい。
 そして、選んだ10作品をみて、ビッグバジェットの派手な娯楽作に欠けることを寂しく思う方もいるだろうし、僕もその1人だ(「ウエスト・サイド・ストーリー」は娯楽作と見ていいだろうが)。実はドゥニ・ヴィルヌーヴの「DUNE/デューン 砂の惑星」はいずれの媒体でも有力候補として名が挙がっているし、僕も入れたかったのだが、本当に有力なのか首を傾げるところ。「ブレードランナー2049」が候補入りせずに「DUNE/デューン 砂の惑星」が認められるのだろうか…という。これはもうすぐ明かされる作品の評価次第だろう。(この項はヴェネツィア以前に執筆)
*有力作はあまりに多いため、文章の構成上必要なものだけピックアップしました


監督賞 Best Director

オスカー予想 画像.023

・ジェーン・カンピオン(The Power of the Dog)
・ギレルモ・デル・トロ(Nightmare Alley)
・ポール・トーマス・アンダーソン(Soggy Bottom)
・シアン・ヘダー(CODA)
・アスガー・ファルハディ(A Hero)

 昨年、史上初の女性監督の2人同時候補が注目された監督賞。是非とも今年度もその流れを受け継いで欲しいところ。ということで、ジェーン・カンピオンとシアン・ヘダーをチョイス。シアン・ヘダーの枠はレベッカ・ホール(Passing)もあり得るのだが、両作がどの程度の強さなのか賞レースが始まっていない現時点では未知数。女性監督が3人候補入りするのは、それぞれの作品パワーを考えるとおそらく難しいのではないか。名匠からはギレルモ・デル・トロとポール・トーマス・アンダーソン。他にリドリー・スコット(House of Gucci)も作品評価次第で十二分にある。ウェス・アンダーソン(The French Dispatch)はカンヌでは絶賛されていたけれど(とても嬉しい)、監督賞でインするほどの勢いかは首を傾げるところ。ジョエル・コーエン(The Tragedy of Macbeth)やスティーヴン・スピルバーグ(ウエスト・サイド・ストーリー)も。
 さて、気になるのは今年も「外国人監督枠」があるのかどうか。パヴェウ・パヴリコフスキやトマス・ヴィンターベアなど、このところ外国語映画賞(国際長編映画賞)で有力の作品から外国人監督が顔を出すことが多くなったこの部門。今年度その枠を獲得するとしたら…ペドロ・アルモドヴァル(Parallel Mothers)?いや、個人的にはアスガー・ファルハディがとても匂う。作品賞候補予想との整合性がとれていないことを承知でファルハディをチョイス。それか、パオロ・ソレンティーノ(The Hand of God)あたり。アルモドヴァルはもうハリウッドでも十分に名のしれた名匠であるから、若干これまでの傾向とずれる気がする。
 気になるのはドゥニ・ヴィルヌーヴ(DUNE/デューン 砂の惑星)の候補入りだろう。本国でもかなりの期待を持って予想されている。いずれにせよ、ヴィルヌーヴが候補入りするのは、当該作が作品賞での候補入りを確実なものとするときに限られるのは確かだ。


主演男優賞 Best Actor

オスカー予想 画像.015

・ベネディクト・カンバーバッチ(The Power of the Dog)
・アダム・ドライヴァー(House of Gucci)
・ウィル・スミス(King Richard)
・クリフトン・コリンズ・ジュニア(Jockey )
・ピーター・ディンクレイジ(Cyrano)

 激戦すぎる。9月予想なんて気軽にやればいいものを、本気で悩んでしまった。有力候補が多すぎるのである。ということで個人的な希望を大いに反映させて選出。長年地道に活躍を続けてきた実力派が日の目を浴びるのに弱い僕は、老ジョッキーを演じサンダンス映画祭を沸かせたクリフトン・コリンズ・ジュニアをどうしても外せなかった。事実、候補入りの可能性は大いにある。そして、ピーター・ディンクレイジ!エミー賞の常連だが、映画での賞レース経験は乏しく、賞レースを沸かせたのは「The Station Agent」(2003)のときのみと言ってよい(SAGで候補入りも果たしている)。初のオスカー候補なるか、期待大。あとは作品パワーを考慮してカンバーバッチ、勢いのあるドライヴァーを選んでみた。個人的にドライヴァーは「Annette」で候補入りしたら面白いのになあと思っている。ウィル・スミスが久々の候補を狙うのは、女子テニスのウィリアムズ姉妹の父を演じる「King Richard」。これまた期待大。
 その他、泣く泣く予想から外したのはデンゼル・ワシントン(The Tragedy of Macbeth)、ホアキン・フェニックス(C’mon C’mon)あたり。作品パワーが強そうなブラッドリー・クーパー(Nightmare Alley)、レオナルド・ディカプリオ(Don’t Look Up)も勿論有力。でも、わがままを言うと作品賞レースでの作品の強さに引っ張られるように自動的に候補入りするのは個人的につまらないと思っていて、だからクーパーもディカプリオも入れなかった。2人ともオスカーの常連だもの。ディカプリオに関しては男版メリル・ストリープ。だったら9月の予想くらい希望を抱いたっていいじゃないか!という強い思想のもと2人を選外に。ニコラス・ケイジ(Pig)が来たら、僕はオスカーをかなり見直す気がする。本当に。あとはアンドリュー・ガーフィールド(The Eyes of Tammy Faye / Tick, Tick... Boom!)、ハヴィエル・バルデム(Being the Ricardos)、アンソニー・ラモス(イン・ザ・ハイツ)、ティモシー・シャラメ(DUNE/デューン 砂の惑星)などなど。小品からは銃乱射事件で息子を亡くした父親を演じるジェイソン・アイザックス(Mass)、変化球としては「Nitram」のケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、外国語映画からは「A Hero」のアミール・ジャディディなども1枠を狙う有力コンテンダーになり得るのではないか。子役ではクーパー・ホフマン(Soggy Bottom)も。ファミリー・ネームで気づいただろうか。そう、フィリップ・シーモア・ホフマンの息子だ。


主演女優賞 Best Actress

オスカー予想 画像.017

・クリステン・スチュワート(Spencer)
・ジェシカ・チャステイン(The Eyes of Tammy Faye)
・レディー・ガガ(House of Gucci)
・オリヴィア・コールマン(The Lost Daughter)
・ペネロペ・クルス(Parallel Mothers)

 もう完全に僕の希望でしかない予想。まず、クリステン・スチュワートがメイクの力を借りてダイアナ元皇太子妃役に挑む「Spencer」は大注目作。監督がパブロ・ララインなのでさほど出来は心配していないというのが正直なところ。近年以前のような飛ぶ鳥を落とす勢いは感じられないジェシカ・チャステイン。オスカー候補こそ「ゼロ・ダーク・サーティ」以来ないものの「アメリカン・ドリーマー」「女神の見えざる手」「モリーズ・ゲーム」とオスカー級の演技を連発していた。そしてタミー・フェイを演じる「The Eyes of Tammy Faye」は久々の勝負作になりそう。女優レディー・ガガの賞レースへの帰還は思ったより早かった!リドリー・スコット作品で主役に抜擢、今回は「アリー/スター誕生」のように歌唱シーンがない分、単純に演技のみで評価される。そう、女優レディー・ガガの本当の勝負作は当該作なのかもしれない。ペネロペ・クルスは結局スペイン映画で輝くというもの。そして恩師ペドロ・アルモドヴァル作品で久々の候補を狙う。オリヴィア・コールマンはオスカーの常連になってきた感。各授賞式のスピーチを聞くたびに彼女のことを好きにならざるを得ない。それは会員も同じだろう。単純に演技だけでは賄いきれないパーソナリティの部分も含めて票を投じやすい俳優というのも中々いない。現時点で各媒体ではコールマンはそこまで有力視されていない。作品が小規模というのもあるだろう。しかしここは完全に希望でぶち込んだ。
 ジェニファー・ハドソン(リスペクト)はどうだろう。アレサ・フランクリンを演じる勝負作。「ドリームガールズ」で受賞済みだが、その後の彼女の代表作を1つでも挙げられるだろうか。そう、明らかに一発屋の匂いが濃厚なのだ。どん底だったわけでは決してないが、キャリアの起死回生となる一打になることは間違いない。作品は決して絶賛一色ではない。勿論ハドソンの演技には多大な賛辞が寄せられているのだが、一気にギリギリのラインになってしてしまった。僕の予想は全員白人となってしまったが、それに待ったをかけるのが上記のジェニファー・ハドソンやテッサ・トンプソン(Passing)だろう。しかし、いずれもイマイチ(賞レースにおける)パワーを感じられない。他にケイト・ブランシェット(Nightmare Alley)、フランシス・マクドーマンド (The Tragedy of Macbeth)、サンドラ・ブロック(The Unforgivable)、ニコール・キッドマン(Being the Ricardos)、ハル・ベリー(Bruised)らヴェテラン勢もいる。中堅ではジェニファー・ローレンス(Don't Look Up)も。また、リドリー・スコット監督作からは「最後の決闘裁判」のジョディ・カマーも有力視されている。若手では「CODA」のエミリア・ジョーンズが注目だが、うーん恐らく候補入りまでは難しいはず。まずはブレイクスルー演技賞を総なめする勢いがないと厳しい。


助演男優賞 Best Supporting Actor

オスカー予想 画像.019

・ジェシー・プレモンス(The Power of the Dog)
・リチャード・ジェンキンス(The Humans)
・コディ・スミット=マクフィー(The Power of the Dog)
・コーリー・ホーキンス(The Tragedy of Macbeth)
・シアラン・ハインズ(Belfast)

 有力コンテンダーがひしめく激戦の部門。この人も入れたかった…という俳優があまりに多い。なので僕はできるだけオスカーでの候補経験がない俳優を優先して入れてみた。夢がある予想だし、これが実現したら俳優ファンとして嬉しい限り。本当に嬉しい。まずヴェネツィアの評価を見る限り「パワー・オブ・ザ・ドッグ」は賞レースの主役になってもおかしくないので、その勢いを象徴してこの部門では有力視されているプレモンス、スミット=マクフィーのW候補が実現するのではないかという読み。より賛辞が集まっているのはスミット=マクフィーのように思えるが、プレモンスは近年の印象的な仕事の数々を総合的に評価されてもおかしくない。いずれにせよ票割れの可能性は十分あるのだけれど…
 ジェンキンスは「Nightmare Alley」でも有力だが、僕は「The Humans」をチョイス。実力派たちがひしめき合う小品だが、それゆえ俳優陣の演技に注目が集まりやすいと思う。そしてそちらでの候補の方がジェンキンスらしいと思ってしまう。あとは「The Tragedy of Macbeth」からコーリー・ホーキンス。勢いのある若手の候補入りは嬉しいというもの。アフリカ系からは「Zola」のコールマン・ドミンゴも応援しているのだが、どうもそこまでBUZZが盛り上がっていないように感じる。公開時期の早さも賞レースでは命取り。批評家賞でしっかり認められれば、その先のオスカーが見えてくる。そしてケネス・ブラナーが撮り上げるモノクロ映画「Belfast」からシアラン・ハインズ。意外にもオスカーには縁がなかった俳優だが、その実力は誰もが知るところ。候補入りしたら本当に嬉しい。おそらくBAFTA(英国アカデミー賞)は当確な気もする…。
 それからこちらも入れるか迷ったが、アダム・ドライヴァーは主演・助演でのW候補を達成してもおかしくない。助演では「最後の決闘裁判」での候補入りが有力視されている。しかも両作ともリドリー・スコット監督作。残りの有力候補を一挙に紹介。ギレルモ・デル・トロの「Nightmare Alley」からウィレム・デフォーリチャード・ジェンキンス(上述)、アダム・マッケイの「Don't Look Up」からジョナ・ヒルマーク・ライランス、「House of Gucci」からアル・パチーノジャレッド・レト、ポール・トーマス・アンダーソンの「Soggy Bottom」からブラッドリー・クーパー、ウェス・アンダーソンの「The French Dispatch」からベネチオ・デル・トロジェフリー・ライト、小品から「Mass」のリード・バーニージェイソン・アイザックス(助演プッシュの可能性がある)、「The Humans」のスティーヴン・ユァン、「リスペクト」のフォレスト・ウィテカー、「Annette」のサイモン・ヘルバーグ、勢いのある若手スターでは「Cyrano」のケルヴィン・ハリソン・Jr.らだ。この中では「Annette」のヘルバーグあたりがきたら面白いなあと思っている。


助演女優賞 Best Supporting Actress

オスカー予想 画像.021

・アン・ダウド(Mass)
・キルスティン・ダンスト(The Power of the Dog)
・ルース・ネッガ(Passing)
・ジュディ・デンチ(Belfast)
・アーンジャニュー・エリス(King Richard)

 またまた完全に僕好みの候補予想。助演男優賞と同様、助演女優賞も有力俳優がひしめいている。まず、各媒体でも最有力視されているのが「Mass」で銃乱射事件を起こした犯人の母親を演じたアン・ダウド。僕、アン・ダウドがすごく好き。助演女優の完成形のような演技を見せてくれる俳優で、脇を固めればそれだけで作品が引き締まる。賞レースの実績はというと、「コンプライアンス 服従の心理」でオスカー候補まであと一歩というところまでいったのが記憶に新しいか。この時、ダウドがその後のキャリアを考えて借金をして試写用DVD配布の費用を払ったのは賞レースウォッチャーの間では有名な話。う〜んこれを聞いた時、俳優という職業の厳しい世界を思い知り、かつ力のある俳優がしっかり日の目を浴びる場としての賞レースの意義を改めて考えさせられた。しかし、そこでの注目を契機として、映画・テレビ問わず活躍の場を広げ、「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」ではエミー賞を受賞、ますます知名度を高めつつある。そんな彼女がついにオスカー候補に手が届くかもしれないのだ!!配給会社は、まず試写用DVDをしっかり配布してください。僕からのお願いです。それからキルスティン・ダンストは作品の勢いに乗って初候補、見えてきた。そう、ダンストとっくに候補経験があると思われがちだが、候補入りすればこれが初。ジュディ・デンチは一時猛烈な勢いがあって、凄まじいペースで候補入りしていたが、近年は落ち着いてきている。そんな彼女がケネス・ブラナーの「Belfast」で久々の候補入りを狙う。実現すれば、「あなたを抱きしめる日まで」以来。「Passing」はテッサ・トンプソンが主演で候補入りするよりもルース・ネッガの助演女優賞での候補入りの方が現実的と見ていいかもしれない。ヴェネツィアが開催されている一方、アメリカではテルライド映画祭が開催、「King Richard」がプレミアを迎えたが、当該作からは主演のウィル・スミスのみならずその妻を演じるアーンジャニュー・エリスも候補を狙えそうだ。テレビのイメージが少々強いのが難点か。
 残りの有力候補を一挙に紹介。まず、ミュージカル映画からは「ウエスト・サイド・ストーリー」のアリアナ・デボーズ、「イン・ザ・ハイツ」のオルガ・メレディスが有力。サンダンス映画祭を熱狂させた「CODA」からはマーリー・マトリンが久々の候補入りを狙う。ギレルモ・デル・トロの「Nightmare Alley」からトニ・コレットルーニー・マーラ、ペドロ・アルモドヴァルの「Parallel Mothers」からミレーナ・スミットらも枠を狙う。その他「The Lost Daughter」のダコタ・ジョンソンジェシー・バックリー、「The Humans」のジェイン・ハウディシェル、「リスペクト」のオードラ・マクドナルド、「Being the Ricardos」のニーナ・アリアンダなどなど。なんか口に出したら実現してしまいそうだから「Don't Look Up」のメリル・ストリープは書かない(書かないとは)。いい加減彼女が枠を押さえるせいで他に優れた演技を見せた俳優が退けられるのには耐えられないのだ。


脚本賞 Best Original Screenplay

オスカー予想 画像.004

・Don't Look Up
・The French Dispatch
・Belfast
・The Card Counter
・A Hero

他の有力コンテンダー:
Soggy Bottom, Mass, ラストナイト・イン・ソーホー, Spencer, Parallel Mothers, Jockey, Pig, Annette, Zola


脚色賞 Best Adapted Screenplay

オスカー予想 画像.003

・The Power of the Dog
・Nightmare Alley
・CODA
・Passing
・The Tragedy of Macbeth

他の有力コンテンダー:
House of Gucci, The Humans, Cyrano, The Lost Daughter, The Green Knight, 最後の決闘裁判, Tick, Tick... Boom!, ウエスト・サイド・ストーリー


長編アニメーション映画賞 Best Animated Feature Film

オスカー予想 画像.005

・ミッチェル家とマシンの反乱
・あの夏のルカ
・ラーヤと龍の王国
・Flee
・ミラベルと魔法だらけの家


撮影賞 Best Cinematography

オスカー予想 画像.006

・The Power of the Dog(アリ・ウェグナー)
・The French Dispatch(ロバート・イェーマン)
・DUNE/デューン 砂の惑星(グレイグ・フレイザー)
・Belfast(ハリス・ザンバーラウコス)
・Spencer(クレア・マトン)

他の有力コンテンダー:
Nightmare Alley, ウエスト・サイド・ストーリー, The Tragedy of Macbeth, After Yang, Annette, エターナルズ, The Green Knight, 最後の決闘裁判, Passing


編集賞 Best Film Editing

オスカー予想 画像.007

・The Power of the Dog(ピーター・シベラス)
・DUNE/デューン 砂の惑星(ジョー・ウォーカー)
・Nightmare Alley(キャム・マクラクリン)
・ウエスト・サイド・ストーリー(マイケル・カーン、サラ・ブロシャー)
・最後の決闘裁判(クレア・シンプソン)

他の有力コンテンダー:
The French Dispatch, Don't Look Up, After Yang, Annette, Belfast, CODA, エターナルズ, The Green Knight, House of Gucci, イン・ザ・ハイツ, クワイエット・プレイス 破られた沈黙, Spencer, The Tragedy of Macbeth


美術賞 Best Production Design

オスカー予想 画像.008

・The Power of the Dog
・The French Dispatch
・DUNE/デューン 砂の惑星
・Nightmare Alley
・Spencer

他の有力コンテンダー:
House of Gucci, 最後の決闘裁判, After Yang, Annette, Belfast, クルエラ, The Green Knight, ラストナイト・イン・ソーホー, リスペクト, The Tragedy of Macbeth, ウエスト・サイド・ストーリー


衣装デザイン賞 Best Costume Design

オスカー予想 画像.009

・The French Dispatch(ミレーナ・カノネロ)
・Nightmare Alley(ルイス・セケイラ)
・The Green Night(マウゴシャ・トゥルジャンスカ)
・Spencer(ジャクリーン・デュラン)
・クルエラ(ジェニー・ビーヴァン)

他の有力コンテンダー:
House of Gucci, Annette, DUNE/デューン 砂の惑星, エターナルズ, The Harder They Fall, 最後の決闘裁判, The Power of the Dog, リスペクト, The Tragedy of Macbeth, ウエスト・サイド・ストーリー


メイキャップ&ヘアスタイリング賞 Best Makeup&Hairstyling

オスカー予想 画像.010

・Spencer
・クルエラ
・House of Gucci
・The Green Knight
・The Eyes of Tammy Faye

他の有力コンテンダー:
King Richard, Belfast, DUNE/デューン 砂の惑星, エターナルズ, The French Dispatch, ラストナイト・イン・ソーホー, Nightmare Alley, The Power of the Dog, リスペクト


視覚効果賞 Best Visual Effects

オスカー予想 画像.011

・DUNE/デューン 砂の惑星
・エターナルズ
・シャン・チー テン・リングスの伝説
・ゴジラvsコング
・The Green Knight

他の有力コンテンダー:
ブラック・ウィドウ, ジャングル・クルーズ, クルエラ, ラストナイト・イン・ソーホー, ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結, スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム, ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ, トゥモロー・ウォー


音響賞 Best Sound

オスカー予想 画像.012

・The Power of the Dog
・DUNE/デューン 砂の惑星
・Nightmare Alley
・クワイエット・プレイス 破られた沈黙
・ウエスト・サイド・ストーリー

他の有力コンテンダー:
After Yang, Annette, Belfast, The French Dispatch, ディア・エヴァン・ハンセン, イン・ザ・ハイツ, 最後の決闘裁判, ラストナイト・イン・ソーホー, あの夏のルカ, リスペクト,  Stillwater, Tick, Tick... Boom!, The Tragedy of Macbeth


作曲賞 Best Original Score

オスカー予想 画像.013

・Nightmare Alley(アレクサンドル・デスプラ)
・DUNE/デューン 砂の惑星(ハンス・ジマー)
・The Power of the Dog(ジョニー・グリーンウッド)
・Spencer(ジョニー・グリーンウッド)
・Parallel Mothers(アルベルト・イグレシアス)

他の有力コンテンダー:
The French Dispatch, Don't Look Up, Tick, Tick... Boom!, House of Gucci, 最後の決闘裁判, 007/ノー・タイム・トゥ・ダイ, Stillwater, The Tragedy of Macbeth


候補数予想(主題歌賞、国際長編映画賞、長編ドキュメンタリー映画賞を除く)

The Power of the Dog:作品、監督、主演男優、助演男優(×2)、助演女優、脚色、撮影、編集、美術、音響、作曲(12部門13ノミネート)
Nightmare Alley:作品、監督、脚色、編集、美術、衣装デザイン、音響、作曲(8部門)
DUNE/デューン 砂の惑星:撮影、編集、美術、視覚効果、音響、作曲(6部門)
Spencer:主演女優、撮影、美術、衣装デザイン、メイキャップ&ヘアスタイリング、作曲(6部門)
The French Dispatch:作品、脚本、撮影、美術、衣装デザイン(5部門)
Belfast:助演男優、助演女優、脚本、撮影(4部門)
CODA:作品、監督、脚色(3部門)
Passing:作品、助演女優、脚色(3部門)
ウエスト・サイド・ストーリー:作品、編集、音響(3部門)
Parallel Mothers:作品、主演女優、作曲(3部門)
House of Gucci:主演男優、主演女優、メイキャップ&ヘアスタイリング(3部門)
The Green Knight:衣装デザイン、メイキャップ&ヘアスタイリング、視覚効果(3部門)
Don't Look Up:作品、脚本(2部門)
Soggy Bottom:作品、監督(2部門)
Mass:作品、助演女優(2部門)
A Hero:監督、脚本(2部門)
King Richard:主演男優、助演女優(2部門)
The Eyes of Tammy Faye:主演女優、メイキャップ&ヘアスタイリング(2部門)
The Tragedy of Macbeth:助演男優、脚色(2部門)
クルエラ:衣装デザイン、メイキャップ&ヘアスタイリング(2部門)
Jockey:主演男優(1部門)
Cyrano:主演男優(1部門)
The Lost Daughter:主演女優(1部門)
The Humans:助演男優(1部門)
The Card Counter:脚本(1部門)
最後の決闘裁判:編集(1部門)
エターナルズ:視覚効果(1部門)
シャン・チー テン・リングスの伝説:視覚効果(1部門)
ゴジラvsコング:視覚効果(1部門)
クワイエット・プレイス 破られた沈黙:音響(1部門)

総評
ヴェネツィアで賞レースの主役になりうる絶賛評を獲得した「The Power of the Dog」は、それゆえほぼ全ての部門で予想。勢いに引っ張られて演者も軒並み候補入りするのではないか、という読み。少なくともカンバーバッチとダンストの候補は堅いと見ているが、いかに。「Nightmare Alley」は、演技部門で誰が真に強いのか現時点では判断しかねるため、演技部門の予想からは全て外した。「House of Gucci」が3部門予想というのは各方面から怒られそうだが、僕は当該作の前評判の高さには懐疑的なため、判断を保留。「ゲティ家の身代金」レヴェルの評価にとどまる可能性も考えられる。「DUNE/デューン 砂の惑星」はヴェネツィアの絶賛を見る限り、作品賞、監督賞で指名を受けてもおかしくない(作品賞の項はヴェネツィア開幕以前に執筆したため、予想には入れていない)。さすがに演技部門は難しいように思えるが、あるとすれば主演男優賞(ティモシー・シャラメ)、助演女優賞(レベッカ・ファーガソン)か。「Belfast」も4部門の予想にとどめたが、伸びそうな気がする。作品賞、もしかすると監督賞もありうるのではないかなあ。そして、「Spencer」「The Green Knight」贔屓はご愛敬。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?