僕は小児科医 救急編

プルルルル・・・PHSが鳴る。だいたい、PHSが鳴っていいことは一度もない。

「●●救急隊ですけど、搬送の依頼です。1歳男児でけいれんです・・・」

はーい、どうぞー。

統計を取ったわけではないが、体感としては小児の救急搬送で最も多い原因はけいれんだ。

到着した両親の表情は硬くなっている。

「今朝から熱を出してて、ふと見たらけいれんしてて・・。けいれんは2-3分で止まったんですけど、突然白目むいて手足をバタバタさせて、死ぬんじゃないかって心配で・・。救急車が来てからは止まってしゃべるようになったりもしたんですけど・・」

こどものけいれんの最も多い原因は熱性けいれんだ。だから、小児科を訪れる患者のけいれんで第一に考えるのもやはり熱性けいれんだ。熱性けいれんの多くは単純型で、短時間のみですぐにとまり(重積しない)、繰り返さず(群発しない)、神経学的な異常はないというのが特徴だ。生後6か月以降の子には起き、だいたい6歳をすぎるとほぼ起こさなくなる。

頻度的にもやはり多いのは単純型なので、極論を言ってしまえば単純型であれば救急車は必要ない。よく熱性けいれんを起こす子であれば、親がみて単純型であればその日は受診せず翌朝受診するつわものもいる。

単純型であれば過剰に恐れる必要はないが、単純型でない場合は最大限の注意が必要である。

我々が臨床で接する場合も、

あれ?なんかこれ、いつものけいれんと違うぞ。

という肌感覚は時にどんな教科書よりも有用な場合がある。頻度は圧倒的に低いが、脳炎や髄膜炎であれば治療の遅れは命に関わる場合があり、心筋炎の部分症状としてけいれんが目立っているだけの時もある。

色んな患者さんを経験して、怖い経験をすればするほど、けいれんは恐ろしくなってくる。だから、僕は正直なところ今でも止まらないけいれんの時は怖いし、膝が震える。

少し話がそれたので話を戻そう。

単純型の熱性けいれんでけいれんがすでに止まった患者が救急車を使う必要があるかというと、医学的にはNOだと思う。人によっては、救急車を呼んだ親を怒る先生も以前いた。

自分も不要と思っていたので、もしかしたら昔はそういうふうに患者さんに話したこともあるかもしれない(もちろんマイルドに)。このあたりは今でもDrによって意見が分かれるところだと思う。

自分の中でそれが変わったのは息子が生まれてからだ。全ての考え方が変わり、子供が自分を変えてくれた。親の視点になって考えられるようになって、

「自分が親だったら、自分も頭が真っ白になったと思います。怖かったですね。」

大学の授業で習ったダサい「共感的態度」じゃなくて、本当に強く共感できるようになった。

人と人との仕事だから、エビデンスや教科書的知識ももちろん大事なんだが、もう少し医療に温かみがあってもいいのかなって気が僕はする。

※この症例に関しては、よくある経過をもとにしたフィクションです。

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