医者はいかにして医者になるのか 1

医者はいかにして医者になるのか。禅問答のようだが、よく聞かれる事でもある。

特殊な職業では間違いなくある。人を針で刺したり、メスで切ったりする事は、一般の人がやれば間違いなく傷害罪である。それが、医師免許と、患者の同意があれば許され、感謝さえされるのだ。


立場的なことで言えば、医師免許を得た瞬間がそれにあたる。

医師免許を得た瞬間、医療行為が許され、患者には医者として見られる。

ただ、免許を得ても中身は普通の人間なのだ。目の前で急変があれば膝が震えるし、心肺停止の患者が運ばれてくれば恐ろしくて思考停止してしまう者もいるだろう。けれど、年数を重ね、経験を重ねる事でそういう「普通」な感覚は麻痺していく。患者の死すら、日常になってしまう者もいる。


僕の場合はどうだったのかと考えると、学生時代にそれを感じた。

医学部の5年生は、臨床実習として1年間の間に様々な科で実習を行う。当然まだ医師免許は持っていないのだが、白衣を着て、回診やカンファレンスに参加したり、担当患者を受け持って診察も行うので、ちょうど医師とのはざまのような期間だ。

その中で、一人の小児がん患者と出会った。

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