ある展覧会での体験を忘れないうちにメモしておく
すごい展覧会に行った。
やあ、あまりにすごすぎて、自分には、なにをどう表現したらよいか分からない。
ベルリンを拠点とするアーチスト、
Chiharu Shiota 氏の’ The Soul Tremble ‘
というタイトルの展覧会だ。
見上げるほどの大きなオブジェや、絵画、映像など多岐にわたる、大きな展覧会だった。
タイトルを侮ってはならない、と知った。
たまたま会っていた友人に、
日本人の有名なアーチストの展覧会がきてるよ。
これから行くんだけど、どう?と言われて、
じゃあ行く、と何の気なしについていった。
だから、Shiota氏がどんなアーチストなのか
どんな作品なのかも知らずに、出会ってしまったのだ。
自分には、悲しいくらい表現力がないけど、
持ってる言葉であえて言うと、そこには
無意識の見せる世界が、ただただ、広がっていた
私にはそう見えた。
だから、ものすごく恐ろしかった。
朝起きて、夕べの夢をうっすら断片的に覚えていて、
なんであんな夢見たんだろう
なんか薄気味悪いな、
と感じたことが誰にでもあるだろう、
まさに、あんな世界だったんだ。
誤解ないように書いておくと、悪夢だとか、作品についてネガティブな感想を持ってるんじゃなくて、
ただ、一般の人が、机に向かって、頭で考えて作ったんじゃない、ということを言いたいんだ。
もちろん、これは私の感覚であり、
作家にはちゃんと別に意図するものがあり、他の人はまた違う感想を持つだろう。
だけど、その妙に後味のこる夢が、立体の巨大なオブジェになって自分の目の前にあるのを想像してほしい。
私は、作品を見ながら、いてもたってもいられなくなってきた。
彼女の圧倒的な世界にぐいぐい飲みこまれてしまった。
やあ、本当になにがどうか上手く説明ができない。
アートの説明って、下手な人がすると、ジョークの説明とおんなじくらい、野暮だよ。
それでも写真の力を借りて、幾つががんばって書いておきたい。
彼女が9歳のとき、隣りの家が火事になり、
次の朝、焦げたピアノが家の外に出されていた。
焦げくさい匂いのする中で、
彼女は、そのピアノを見て存在感に圧倒され、
以前よりも、それは美しいと感じた。
そのエピソードにインスピレーションを得て、作られた作品。
ギャラリーの部屋一杯、不思議な空気が漂う。
音がないのに、大音響が鳴っているような密度
一見重たいようなのに、夢の中みたいに重力がない感じ
そんな感覚だった。
次の作品には、印象的なメッセージが書かれていた。
これもまた巨大な作品だ。
この作品については、自分はものすごく現実的なものとして捉えた。
身体の中の細胞と
社会の人間関係と
宇宙のしくみ
みたいな感じだろうか。
そして最後にこの作品は、自分にはよくわかるような気がしていた。
添えられたメッセージには、だいたい、次のようなことが書いてあった。
人は目的地を求めて故郷を離れる
多国籍の国に住んでいると、自分が日本人であることを忘れる
離れるほど、混ざるほど
自分を見つめ直す場所に到着するように感じる
と言った内容だった。
そして、スーツケースを見て、その人が故郷を離れ旅に出た朝を想う
として表現された作品だ。
とにかくおびただしい数のスーツケースが天井から吊るされて、
一部がカタカタと揺れているのを見ていたら、
村上 春樹氏の小説を読んでいるときの感覚をふと、思い出した。
強烈なインパクトすぎて、展覧会を出てからもしばらく呆然としていた。
「たましいが震える」
ということは、こんな感じなんだろうか。
言葉にならないから、こうしてメモを残した。
注)写真は、全て、Chiharu Shiota氏の展覧会内で撮影したものです。