『おかえりモネ』 楽曲解説 2
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『おかえりモネ』 楽曲解説 2

サントラ2枚目の楽曲解説になります。
2枚目のテーマは、大きくは「海、命」。


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1.   来光(歌:高木正勝)
Raiko

「海」のテーマ曲です。

ドラマで使われているのは、アン・サリーさんが歌うバージョンなのですが(第2集に収録予定)、こちらは僕のデモになります。作曲した時のそのままの録音です。

どういう曲なのか、アンさんに送った文章があるのですが、そのまま載せてみます。


震災の話がでてきます。
あれから10年経ちましたが、あらためて当時の映像などを見返すと、とてもあの状況に対して音楽をつけようという気は起こりません。
呆然とするしかありません。
物語では、震災の直前まで「伝説の漁師」として漁に出れば大漁、しっかり稼いで自分の船を買ったばかりの漁師が、
震災で船を流され、妻も奪われてしまいます。
数年間、海にも出れず苦しみ続けます。
そんな人が、なんとか立ち直って、また海に出れた時に、真っ暗な海の向こうから朝日が差してきて、
何もできなかったこととか、何ができるだろうとか、また会いたい、どうにかするしかない、
失ってしまったものは確実にあるけれど、またあたらしい光がやってくる、やってきてしまう、
心が変わってしまう、変わっても大丈夫だ、
そういう想いを感じながら曲がでてきました。


こんな文章を送っていました。

『来光』というタイトルや曲のイメージは音響デザインの坂本愛さんからいただいたものです。
この時は、まだ第1章の脚本しか読んでいませんし、こんなシーンがこれからあるのかも分かりません。
震災に対してずっと感じ続けてきた想いが歌になって出たのだと思います。


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2.   生命の太鼓
Drumming of Life

いつか、公開されて欲しいのですが、オープニングの陣痛の船出のシーン、ほんとうはもっともっと長いシーンだったのです。このシーンだけで一本の映画のようでした。
この曲は、その元の映像に合わせて作りました。

台風のなか陣痛がきた妊婦を船に乗せて海を渡る。まさに出産、分娩を表した素晴らしいオープニング。

僕も妻の出産を隣で体験した直後だったので、感動しながら奏でました。
私生活とドラマがリンクして、モネの音楽は、僕が作るしかないと強く思いました。

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3.   小さな想い (歌:アン・サリー)
Peace of Mind

アン・サリーさんが歌詞をつけて歌って下さいました。

仮タイトルは、「祈り つぼみ」でした。
作曲した時は、冬至のように、ものごとが終わりの終わりまで行き尽くして、また新しくはじまる、静かな切り替わりをイメージしていました。それと、讃美歌。

アンさんに歌詞をお願いする際に、僕の好きな讃美歌について思うことを少しお伝えしました。
「わたしは、いま、こんな状態です」と素直に告白したり、「優しい精霊がわたしを慰めてくれます」と歌ってしまうことで、ほんとうに心が治癒される時があります。
自分を無にしていって、周りに生かしてもらうってことなのでしょうか。

アンさんから届いた歌詞は、聴くたびに、心が浮き彫りになってしまいます。
誰かへの想いでもあり、誰かからこういう風に想ってもらっているんだというあたたかい気持ちにもなります。

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4.   星合ひ(歌:大野颯太,  種田につこ)
Stars Reunion

「山」のテーマとして作ったメロディーでしたが、アレンジを試しているうちに、子どもが歌っているバージョンが生まれました。

子どもの頃の百音と未知が歌っているイメージです。

デモの時は、僕がボイスチェンジャーで子どもの声で歌っていたのですが、作曲家の小川明夏さんが見事に採譜してくれて、音符だけでなく、僕が歌った適当な発音を一語もらさず拾ってくれました。

「♪なんてぃううれやーかうりやもおて」

仕上がった楽譜を見た時、ものすごく嬉しい楽譜だけど、これは流石に歌えないでしょうと笑ってしまいましたが、大野颯太君と種田につこさんは難なく歌ってくれました。

 ふたりの歌声は事前に聞かせてもらっていたのですが、聞いた瞬間に、彼らにお願いしたいと思いました。なんて純粋な声。

歌い出しは大野君のソロからはじまり、途中から種田さんのコーラスが重なります。

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5.    喜雨
Kiu

『喜雨』というタイトルにつられて秋祭りのような楽しい曲になりました。
こういう曲は村に引っ越してから、自然に出てくるようになりました。
登米と、僕が住んでいる村の皆さん、よく似ています。

笛を吹いてもらった坂本圭さんは、『バケモノの子』のサントラでもご一緒させていただきましたが、演奏の表情がご本人そのままで、しなやかで自由です。一発でイメージ通りの演奏、あっという間に録音が進みます。
ピッコロの林広真さんの合いの手も鳥のようです。

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6.   かみあそび
Kami Asobi

わーはっはっは。
山でのラフターヨガのシーンに合わせて作った曲です。
本編では別の曲が流れてました。

曲がどんどん変わっていくのは、映像に展開があったからです。
映像に合わせて作ると、普通に音楽を作っていると思いつかないアイデアが出てきます。
この曲は、前半と後半で別の曲みたいに違っていて、ドラマ本編では後半部分がよく使われています。

先ほどの『喜雨』と同じく、笛がメロディーを吹いています。
以前、NHK富山のニュース番組の天気予報の音楽を作らせていただいたのですが、気象予報と笛は相性がいいと感じています。自然現象と人の営みをつなぐ音色です。

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7.   今日は日もよし天氣もよいし
Today is Our Day

弦楽器のみ。『お祭り騒ぎ』の仕事唄バージョン。
森林組合や気仙沼の漁師さんがみんなで働いているイメージです。

僕が住んでいる村でも「村用」と呼ばれるみんなで働く日がいくつもありまして、峠の草刈りをしたり、神社のお掃除をしたり、ひとりではしんどい仕事でも、みんなで汗をかくと元気が湧いてきたり幸せな気持ちになります。


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8.   みず
Mizu

こちらは木管中心の演奏です。
百音の瑞々しい独特の雰囲気を音楽で表現してみました。
フォーレの音楽も少し意識しました。

普通に演奏してもらうと情緒によりすぎて違ったので、「昔のアイドルのWinkみたいな感じで演奏してください」とお願いしました。淡々と、、しているようでしていない、絶妙な雰囲気になりました。


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9.   ひかり
Hikari

百音は自然からたくさんのメッセージを読み取っていきますが、音楽も自然そのもののようでありたいと思いました。
ひかりの粒がちらちら舞っていて、白昼夢のような。

僕が育った亀岡という場所も、いま住んでいる山村も、朝夕は深い霧に包まれます。霧に太陽が当たると『ひかり』の音楽のようになります。
オルガンの音は滅多に使わないのですが、ひかりの感じがよく出ました。

ドラマでの、この曲の使われ方はいつもハッとさせられます。


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10.   青嵐
Seiran

坂本さんからのリクエストで百音が必死に何かに立ち向かっている時の情熱的な音楽を『Rama』みたいな曲調で作って欲しいとのことで、なるほど『Rama』。それこそ百音くらいの年齢で作った曲ですが、久しぶりに続きを作るつもりで取り掛かりました。

ピアノと弦カルテットのシンプルな編成。
和音で考えずに、ひとつひとつの旋律が歌っていて、ぶつかったり、重なったり。
僕にとっては懐かくて新しい曲になりました。

デモが仕上がったら、まずメロディーパンチの福永菜摘さんに送ります。
モネの音楽チームのなかでも一番の若手でものすごく細やかに働いてくれました。皆に愛されてました。感謝しています。
彼女が一番最初に音楽を聴くことになるのですが、『青嵐』は「好きです!」と返してくれて、とても嬉しかったのを覚えています。
やっぱり年齢も40を超えて、自分ではいいと思っていても、若い人に届いているかわからなくなってきましたから。勇気をもらいました。

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11.   呼気
Koki

サックスがないバージョンがありまして、そちらもドラマでよく使われています。デモを出した時に制作陣の評判がよく、プロデューサーの須崎さんが「『呼気』はいいですね。何かありますね』と褒めてもらったのをよく覚えています。
タイトル通り、山の呼吸をイメージしました。

百音がサックスを吹いていることもあって、サックスを乗せてみようとなり、本田雅人さんにぶっつけ本番でアドリブ演奏をお願いしました。
一発録りの素晴らしい演奏で、覆っていた雲から光がさしたみたいでした。

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12.   虹に向かって
Toward a Rainbow

元々はポップなメロディーの曲でした。
そのメロディーに、真逆の雰囲気のテクノっぽいアルペジオを当てて崩してみたらどうなるか。
2つの違う人格で作るみたいな実験的な曲です。

ピアノと弦楽器などある程度の編曲を終えた状態で足本憲治さんに編曲の続きをお願いしました。

『未来のミライ』の頃から複雑な和音の曲を作りたいと一緒に話していたのですが、ここにきて形になったと思います。

この足本さんの弦楽器のアレンジがとても好きです。特に後半、弦楽器のハーモニーが、ぎりぎりのあわいを行き来して、一音一音、シンプルだけど、複雑に絡み合って、虹のようです。

ふたりのコラボレーションの新しい音楽ができたと思います。はじめてドラマで流れた時はお祝いの電話をしました。

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13.   さざなみ
Ripple

『青嵐』の別バージョンです。
仮タイトルは「青嵐 使命B」でした。
Bとある通り、Aもありまして、そちらがドラマではよく使われています(第2集に収録予定です)。

人は、自分のうちに使命感を抱いて生きていますが、いつの間に宿るのでしょう。

蝋燭の火のように、静かな波動が胸のなかから湧いてくるのをイメージしながら。

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14.   空がついてくる
The Sky Follows Me

「祈り」のオーケストラ・バージョンです。足本憲治さんによる編曲です。

足本さんのオーケストラの響きには、独特の安心感があります。
スケールが大きいのに、どこか愛らしい。
足本さんは久石譲さんのアシスタントを経て、現在は音楽大学で先生をされています。授業の様子をネットで見たことがあるのですが、とにかく知らないことだらけでした。生徒として放り込まれたら全くついていけないくらい、僕は違う道で音楽を作る仕事にたどり着いたんだなと。
だからこそ、足本さんと一緒に作ると、こう来るのかと予想外の展開しかありませんし、いつも刺激的です。

タイトルの『空がついてくる』は、CDブックレットを作っているときに思いつきました。空の写真が必要になり、ここ5年ほどの写真から集めたのですが、人や景色を撮影しているつもりの写真にも、だいたい空が写り込んでいました。空の部分だけ切り抜いたのですが、大量の写真が集まりました。どの空も見るだけでその時の記憶が呼び起こされて、覚えているものですね、びっくりしました。(この解説の空の写真たちです)


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15.   うみやまそらひと - 大漁旗Umi Yama Sora Hito

「循環」という大テーマを与えられていたのですが、実は最初に提出したのは、この『うみやまそらひと』でした。

タイトル通り、海のたくましさからはじまり、山の朗らかさ、空の広さに、どんどんと展開していく曲で、僕のなかでは、ぐるっと「循環」している曲だったのですが、演出の一木さんから、「循環」のテーマ曲はさらにもっと広大な曲にして欲しいとのことで、『環』という曲を新たに作りました。

こちらの『うみやまそらひと』は、海と生きる人たちのテーマ曲として発展していきました。

後半、音楽がどんどん盛り上がっていくところは、長い期間、漁に出ていた船が、溢れんばかりの魚を抱え、ずらっと大漁旗を掲げ戻ってきた、港では奥さんたちが大歓声をあげて迎えている、そんなイメージで演奏していただきました。

エンディングは、お経のようでもあり、生きている者たちだけでなく、あらゆる魂の声のように奏でました。

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16.   あなたが生む
You Give Birth to

仮タイトルは「おかえり 託す」でした。

今回、モネの音楽を作っていくなかで、一番嬉しかったのは、人生で好きだった音楽に助けられていると何度も感じられたことです。
全部、躰のなかに記憶されているのだなと感じました。
綿々と流れる音楽の河に浸かっているようで、あとは自分が手を動かすかどうかという穏やかな気持ちで作り続けられました。

弦楽器とハープによる、ぽっと灯がともる演奏です。


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17.   海心
Sea Hearts

ここから3曲、3部作のように感じたので並べてみました。
3曲とも『来光』のメロディが元になっています。

この曲は、作曲家の加藤久貴さんの編曲です。
加藤さんとは、はじめてご一緒させていただきましたが、加藤さんも普段は僕と同じ仕事、映画やCMの音楽を作られているので、とても心強く嬉しかったです。いつもなら孤独な作業になりがちな音楽制作が、意見を交わしながら活き活きと進められたのは、ほんとうに救いでした。

『海心』は、最初、加藤さんから送られてきた編曲がありまして、雰囲気が違い、もっと深すぎる、重たい曲でした。
お経のようなイメージとお伝えしていたので無理もなかったのですが、僕が出だしだけ軽く演奏してイメージを掴んでもらって膨らませてもらいました。

海に暮らす人たちの心の奥底が聞こえてくるような素晴らしい仕上がりになりました。

加藤さんの編曲には、スケールの大きな映画のサウンドトラックのような新しさと広がりを感じます。


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18.   彼方へ
Beyond the Far End

トランペットは、佐藤友紀さん。
佐藤さんの音色が素晴らしく、どの曲も演奏される度に惚れ惚れしました。

トロンボーンとホルンの旋律が行ったり来たりすることで、まだ見ぬ彼方へ一歩踏み出そうとする時の期待や不安を描いてみました。


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19.   海の灯り
Ocean Lights

『海の灯り』は、実に加藤久貴さんらしい編曲だと思います。
同じ『来光』のメロディでもこんな風に別曲のような広がりを作れるのは、やはり加藤さんが普段作曲をメインにされているからだと感じます。
輝く波飛沫や海で暮らす人たちの健やかな気迫を感じます。

ドラマでは登米で小学校に机を納品するシーンなど、みんなの元気がぐっと溢れるシーンで流れていました。
加藤さんのお陰でモネの世界がぐんと広がりました。

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20.   白き日
White Day

仮タイトルは「喪失」。

『虹に向かって』と同じメロディですが、星座を描くように余白を感じながらピアノを弾いてみました。

この物語は、喪失がたくさん描かれていますが、僕も人生で強い喪失感を味わったことがあります。自分が体験しなければわからなかった感情や躰の反応があって、知らないことだらけだったんだなと、いちから生き直した経験があります。
いまも知らないことだらけですが、生きれば生きるほど、いろんなものごとが繋がっては離れ、無数の星を漂うようです。

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21.   優しさと孤独 (歌:アン・サリー)
Tender Solitude

モネの音楽づくりは、妻の出産と重なっていたため、妻の大きなお腹に赤ちゃんがいて、毎日静かに待ちわびて、ようやくこの世界に生まれてきてくれたおおきな特別な日々の想いが、どの曲にも染みついています。

この曲には、子宮から産道を通って生まれてくるイメージがあります。

メロディは、「山」のテーマ曲を発展させています。山っぽくないなと思われるかもしれませんが、山だなと感じます。

僕の住んでいる村には山の上に小さな神社があるのですが、子を授かるように祈願のタスキを掛けにいったり、出産の前日には、山の参道をホウキで掃き清めました。整った参道を歩いていると、妻の産道も整った気がして、無事に子どもが産まれてくるように感じました。
まあるい山の姿は大きくなった妻のお腹のようでした。

以前、和歌山の熊野古道に立ち寄った時、山の入り口で胎内くぐりを体験したことを思い出しました。小さな洞穴なので、躰をねじって這い進まないと通り抜けられません。狭く真っ暗な闇を抜けて外の世界に戻ると、さっきまで見ていた山ではなく、真新しい、はじめて世界を見た赤子のような気持ちになっていました。

アンさんから届いた歌は、いまの自分をそのまま写されたような気持ちにもなりますし、ふっと意識が遠くなって、命の長い永い輪廻の旅をしている気がします。

(2枚目はおしまいです。
3枚目に続きます。)


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音楽家・映像作家 1979年京都生まれ。NHK『おかえりモネ』のドラマ音楽、『おおかみこどもの雨と雪』などの映画音楽、CM音楽やエッセイ執筆など幅広く活動している。ピアノ曲集『マージナリア』、エッセイ集『こといづ』。 http://www.takagimasakatsu.com