正井

小説を書いています。俳句と短歌もときどき。作った本の通販ページ https://store.retro-biz.com/i17484.html

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    マガジン

    • 出したものまとめ

      今まで出した同人誌や寄稿したもののまとめです。試し読みもあります。

    • リクエストボックス

      リクエストボックスでいただいたお題で書いたものです リクエストボックス→ https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSfJP9ZMUO7oLa084N6Y60yLeOzumhle6aKnMteLao6EWX_L4Q/viewform

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    書いたものまとめ

    個人誌『さまよえるベガ・君は』  2017年1月発行 800円 B6版 116ページ オンデマンド印刷  装幀:蔦子さま  →試し読み 4/20 第5回文学フリマ金沢わ-26夜更社に委託します。  架空ストアさんに委託しております(手数料分、イベント頒布価格より100円上乗せしております)。 『沈黙のために』  2014年9月発行 600円 新書判 86ページ オンデマンド印刷  装幀:蔦子さま  →試し読み  完売しました。お手にとってくださった方、ほんとうにありがとうご

      • 朗読用・逆さの女

         エリザベート、とこの学年では呼ばれている。エリザベートというのはこの学校に出る女の幽霊の名前である。  折しも四月から某歌劇団で「エリザベート」が上演されるとかで、最寄りの駅にはきらびやかな男女(というか女性と男装の女性)のポスターが貼られており、五月の学校行事は芸術鑑賞、今年は演劇、まさかとは思うがエリザベートやったらやばいやん、エリザベートめっちゃ見たいし、とか言い合っていたのだが当然のごとくというか、ごく普通の市民劇団の演劇を見ることになった。せやろなと思いつつ見たか

        • 沈黙のために

           禁じられた町がある。その町の名前は誰も知らない。  たとえば地図帳にはその町の鳥瞰図がたしかに載せられていたけれど、索引には名前の代わりに空白が、「ン」の下にページ番号と並んでちょこんとくっついていたし、郵便番号の一覧表にも、番号はあるのに名前は伏せ字になっていた。資源ゴミの収集日が変わるときには、空白だと分かりにくいからか、自治体のホームページに他の市と一緒に「****、水曜日」というふうに書いてある。  その町には人が住んでいる。たった一軒のコンビニとさびれた商店街と工

          • 大阪市史

             川のそばで生まれて川のそばで暮らしている。そば、と言っても一番近い川まで自転車で十五分ほどかかる。住んでいる土地にも最寄駅にも川の名がついている。だからだろうか、家のなかは時々川を流れる水の淀んだ臭いがする。遼太郎が家出したのは、あるいはこの臭いから逃げようとしたのかもしれない。  遼太郎というのは真由子の七つ上の兄で、カシコか阿呆かで言ったら馬鹿である。その馬鹿さ加減は卒業を目前に控えた某公立大学を突然やめて放浪の旅に出たことでだいたい察しがつくかと思う。馬鹿なりにがんば

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            宇宙開発時代のドーナツレシピ

             宇宙開発華やかなりし頃、手頃なおやつとしてもてはやされたのがドーナツだった。といって、昔の、つまり地球時代のドーナツとそうレシピは変わらない。小麦粉と砂糖、卵に牛乳。溶かしバターにベーキングパウダー。さっくりと混ぜて油で揚げる。おいしくて高カロリー、惑星開発用の重機付き小型飛行船を操作しながら片手で食べられる手軽さもあり、しかも地球への甘いノスタルジーをたっぷり含んでいる。スシを食べたことのない人間はいても、ドーナツを食べたことのない人間はそうそういない。ノスタルジーという

            共有結晶とその思い出について

             今年の五月に上京する機会があり、その時に麻子さん、有さん、穂崎さん、砂漠谷さんとご飯を食べた。お店は池袋にあってチーズが美味しい。ノンアルコールカクテルも豊富で、お酒の飲めない私には嬉しいお店だった。私はノンアルコールモヒートを選ぶ。モヒートは『インサイダーズ』という映画でキーワード的に出てきていたお酒で、飲んでみたかったけれども飲めなかったもの。少し甘みのある紅茶にサイダーとミントが入っている。  『共有結晶』4号への寄稿のお誘いをいただいたところで、メインはその話だっ

            わたくしのまち

             わたくしどもの、学校はまちの東がわにあります。学校には、たかい四かいがあります。学校をでると、北にはゆーびん局があります。まちには、ゆーびん局と、消防しょと、警察しょと、おしろがあって、おしろを曲がって東に行くと、橋があって、橋はミヨリ川にかかっています。そしておしろから南がわに行きますと、わたくしと、田口君の家があります。そしてまちには、ふしん者があります。  こないだ先生が、ふしん者があるから気をつけるよーに、とおっしゃいました。わたくしは田口君に気をつけよー、と言いま

            重力

            「すごい仕事をもらったぞ」 と父がぶるぶる体を震わせながら帰ってきたのが今年の四月のこと。なに、なんなの、と尋ねたらこんどできる新アイオリス駅に設置する一千万分の一火星儀を父がまかされたのだ、という。なんてったって、観光客相手のお土産ものと違う、お役所からの依頼で規模だって桁違い。そりゃすごい、というわけでその日の我が家はちらし寿司を作って前祝いをした。  父の火星儀は世界一。  身内の私から見てもそう思う。 「だから、ねえ」  母は父のひいた設計図に沿って、パーツを並べなが

            私とBLと俳句と短歌

            はじめに なぜBLなの、と尋ねられます。  尋ねられなくても、なぜ彼女らはBLを好むのか、と言った分析がよく見受けられます。  しかしながら、何かの物語を好きであるということについて、明確な答えを持つ人はいるのでしょうか。昨年はシン・ゴジラが大変に流行しましたが、シン・ゴジラのファンの人々はなぜそれが好きなのでしょうか。明確な答えはありますか。役者でしょうか、脚本でしょうか、演出でしょうか、アツくなれるところでしょうか、それともその全てでしょうか(そういえばシン・ゴジラがな

            こーかんにっき

             こーかんにっき。やったことある? 私はあるよ。こーかんにっき、隣のクラスのまりちゃんといとこのこうちゃんと三人でやったよ。こうちゃん、今東京行ってしまって会えへんのやけどね。じこ責任で、お金も自分で出すからって。おばちゃんもおかあさんも反対したんやけどねえ。とおいよねえ東京。ひこーきとか新幹線とかあるけど、ねえ、駅までいくんがしんどいねんて。正月帰ってくるねんけどな。たまにはこっち来てやって言われるわ。  まりちゃんとこうちゃんとやってたこーかんにっき、最初はほんまにただの

            さまよえるベガ

            2017/1/22 文学フリマ京都にて発行した『さまよえるベガ・君は』のサンプルです。(完売)  ベガへ行くにはいろんな方法があったが、最も一般的だったのは旧式のエンジンで、古き良き冷凍睡眠の霜に覆われながら、数十年の旅をするという方法だ。ただし、これは迂遠だし、冷凍睡眠というのは不安定な技術だから、惑星に着くまでのつもりが永遠の眠りになってしまうことも少なくなかった。だから今は第二や第三の、第四の、あるいは第九あたりの方法が用いられている。  そのうちの一つに奇妙な方法が

            #庫内灯 1号解凍小説集・後半

            BL俳句誌『庫内灯』1号に掲載された俳句の解凍小説集・後半です。 前半はこちら。 珈琲にバターの油膜ジキタリス 「家賃六万円」なかやまなな これしかなかったわというのでコーヒーとトーストの朝食だった。「えなんかないの。ジャムとか」「ない」「牛乳とかは?」インスタントをお湯で溶いただけのコーヒーは毒みたいに苦い。牛乳を注ぐ直前のコーヒーには油膜が浮いていて、トーストに塗ったバターのせいだ。「マーガリンだよ」 お前の足がやっと麦茶に沈む 「夏の少年」西 彼はコップを奪い去

            #庫内灯 1号解凍小説集・前半

            BL俳句誌『庫内灯』1号に掲載された俳句の解凍小説集です。 後半はこちら。 月の客喀血いろに唇濡らし 「月の客」藍川蘭 お前は肺病で死んだのかと思っていたよ、と三年ぶりに尋ねて来た友人に言う。「何そりゃまぼろしさ」と、彼は私の出した茶を飲みまずいな相変わらずと文句を言う。「茶菓子はないのか」友の唇は随分と赤く、触れてみると温かい。そう言うと「茶のせいさ」と言い、ちらっと尖った歯を見せた。 傷みたる葉を捨ててより葱らしく 「じゃれあうて」天宮風牙 おんなのこになりたい

            чик-чирик

            絶滅鳥類図鑑新し冬麗 寒卵あさき宇宙を飲み干せり 東京タワーの尖り白鳥たちの骨 鴬を呼ぶ鴬もついに見ず 窓といふ窓閉ざされぬ鳥雲に 狂ひなき鳩が歩める花の上 金雀枝や校歌朗々石踏んで 五月果つお前の喉も神様に 二階三階真水匂へば蚊喰鳥 先生のかつては詩篇ほととぎす 山手の空黄色っぽい夏燕 小鳥来る封を開けないコカ・コーラ 蔦かづら無知なるままに坂下る 痛むほど瞳の黒き小鳥かな 君の池で鳰は両目を開けぬべし (かの鷹に風と名づけて飼ひ殺す 正木ゆう

            『きみとダンスを』寄稿小説

             七実が来たのは、働き出して数年、お金も貯まったしとえいやっと一人暮らしを初めて一年目の冬だった。 「ひさしぶりー」 と玄関先で迎えた七実は、とても美しく装っていた。うすいピンクの唇がつやつやで、おいしい食べ物のようで、見上げながらかな子は、ああちゃんと手入れをしているんやなあと思って、七実が手に下げている小さな花束にも一瞬、気がつかなかった。 「ひさびさやね」 「ねー! 入って入って」  七実が手に花束を持ったままアンクルブーツを脱ごうとしているので、持とうか、と言って受け

            映画吟行集

            #オデッセイ火星の吟行 惑星や一足ずつに薯植えぬ 百日の先に友あり春嵐 薯食べてやや熱くなる血肉かな 草の芽の水の地球にまた逢はむ 仲春の耳垢震はせ肉声は 脱出成功回らぬ機械に霾る日 きらきらのミラーボールに誘はれて霊長類かくも長き旅路は ロックンローラ (予告編) 北風に並ぶ浦沢直樹顔 胸筋の入墨曲がる事始 看板の海がみずいろ重ね着す 冬凪やザリガニの殻干からびぬ 押し負けてロックンローラ初氷 裏切りのサーカス (予告編) 物差しをつかふ生活枯