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「天城山からの手紙」28話

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とにかく森の朝はすばらしい。静寂の闇がだんだんと光に包まれ、次第に歓喜の声がこだまし始める。眩い太陽の光が、森に住む者達に命を吹き込むのだ。いつも暗い中を歩きながら、今日、出会えるだろう情景を頭に浮かべ、心を整える。感覚的に、森の朝をとらえるためには、徐々にそのモードへと自分を入れて行くのも重要で、歩く時間は私にとってそんな意味で必要なのだ。ふと気が付くと、小さな鳥の声が暗闇の向こうから聞こえ始め、その声が聞こえると、そろそろ朝の撮影が迫ってきている教えてくれる。時に、天候に不安があるときは、この声が聞こえると回復傾向だとささやき、聞こえない時は、しばらく回復はまだだと促される。これもまさに山から教わった知識なのだ。そして、この朝は、森に差し込む朝日と出合うべく森に立った。目の前から太陽の光がまっすぐに差し始めると、落葉の絨毯に真っ赤な光の筋が走り出す。それを追いかけながら森の奥へ奥へと侵入していく。刻々と変わるその光景は、目を疑うほどのスピードで変化して行き、息も絶え絶えになりながら、その一瞬一瞬を追いかけ撮影する。そのうち、日の出から20分も過ぎる頃になると、少しずつ落ち着きを取り戻し、爽やかな風と共に、過ぎる時間もやっと、ゆっくりと時を刻み始める。一通り朝の宴が終わると、撮影のペースも落ち着き、後は、朝の時間を楽しむだけだ。そして何時もの場所へと向かい、腰を下ろしておむすびを2個ほおばる。食べ終われば、しばし目を閉じて体を休めるのだ。後は浅い眠りの中で、今日の朝も素晴らしかったなぁと思い馳せるのである。


掲載写真 題名:「朝の宴」
撮影地:手引頭
カメラ:Canon EOS5D MARK3 EF24-105mm f/4L IS USM
撮影データ:焦点距離40mm F14 SS 2sec ISO400 WB太陽光 モードAV
日付:2014年5月12日AM4:53

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