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「天城山からの手紙 45話」

夜明けの蒼い時間が訪れる頃、薄っすらと霧が森を包んでいるのがわかった。久しぶりに歩くこの道は懐かしく、しかもまだ立ち入ったことの無い場所へと行くのだ。私は撮影の時、少し歩けば振り返り景色を確かめる。真っすぐ進めば、いくらでも早く目的地へ到着できるのだが、景色は面白いもので、行きと帰りでは全く見える物が違う。だからその都度、振り向き確かめ、その時の出合いを逃さない様にしている。そして、初めて歩く場所は新鮮で、一歩一歩確かめながら進んでいく。何よりも、その場を包む空気感をしっかりと体に慣らすのだ。この日は、朝が過ぎるとポツポツと小雨が森を包んで行った。木々の肌は薄っすらと水気で潤し、つややかに輝く。そんな中、ぽつんと立つ不思議な木に出合ったのだ。四方から細い幹が立ち上がり、互いに絡み合う様に姿を変え一本の木へと化けている。近づいてみると、胴の中はぽっかりと穴が開き、よくもまだ生きているなぁと感心するばかりだった。そんな姿を撮影していると、
一体あの絡み合った幹たちはどんな景色をいつも見ているのだろう?ふつふつと沸いた興味は、三脚を投げ捨て手に持ったカメラを穴の開いた胴へと突っ込ませたのだ。そして、撮った画像は、骨々しい姿だったのだが、隙間から見えた緑の存在がなぜか美しかった。こんな姿に化け、生きる為に咲かせた葉・・・一生懸命に何かをやる事は、恥ずかしい事ではない!素晴らしい事なのだと私は教わった。

掲載写真 題名:「秘密の眺め」
撮影地:八丁池付近
カメラ:SONY ILCE-7RM3I FE 16-35mm F4 ZA OSS
撮影データ:焦点距離16mm F4 SS 1/20sec ISO400 WB太陽光 モードAV
日付:2018年9月26日 AM6:24


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