世界のESGスタートアップ30選(中編)
皆さん、こんにちは!創業前後のスタートアップへ投資を行うジェネシア・ベンチャーズにて、パートナー兼チーフESGオフィサーを務める河合です。
スタートアップに関連するESG情報を発信していく連載企画「ESG for Startups」の第3回目となる本稿では、前回に続いて、世界のESG関連スタートアップ30社をご紹介したいと思います。
なお、今回の中編を含め、前編・中編・後編の3回に分けてお届けしていますので、既に公開済みの前編も合わせてご覧頂けますと幸いです。(筆者のTwitterアカウントのフォローもぜひお願いします!)
1. Recyda(ドイツ/2020年)
消費財業界では、世論の圧力や法規制の整備により、リサイクル可能なパッケージングが求められています。しかし、パッケージングのリサイクル性は、包装設計だけでなく、回収・分別・リサイクルに関する地域の規制や回収インフラにも依存するため、評価することは簡単ではありません。
ドイツのスタートアップ企業Recydaは、リサイクル性の評価ツールを開発しており、地域の規制、回収インフラ、パッケージデザインに関する信頼性と透明性の高い情報を提供することで、企業が消費財パッケージングのリサイクル性を評価することを支援しています。
具体的には、国ごとのリサイクル性に関する研究を集約し、包括的なデータベースと高度なパッケージング管理機能を備えたウェブアプリケーションに組み込んでいます。まず、パッケージング仕様を入力またはインポートして、多くのガイドラインや推奨事項に従って包装データを詳細にモデル化します。次に、技術的なリサイクル性(設計ガイドライン、法的要件)と、国別のリサイクル性要件に関するデータベースを組みわせることで、リサイクル性に関する結果とその評価プロセスを把握することができます。
ブランドオーナー、小売業者、パッケージング生産者は、パッケージング仕様の変更がリサイクル性に与える影響を可視化することで、国ごとの要件に合わせ、その影響を最適化し、循環型経済に貢献することが可能になります。
(画像:Recyda)
2. H2 Green Steel(スウェーデン/2020年)
製鉄業は世界で最もCO2を排出している産業の一つであり、同セクターが排出する温室効果ガスは、世界の化石燃料の使用による直接排出量の7〜9%を占めています。
2020年にスウェーデンで設立されたH2 Green Steelは、世界初の大規模な脱化石製鉄所の建設を目指しています。2024年までに同国北部のボーデンにあるグリーンフィールド製鉄所で生産を開始し、2030年までに年間500万トンの化石を含まない鋼(グリーンスチール)を生産する計画としています。
また同製鉄所では、化石を含まない電力を用いて水を電気分解するギガ規模の燃料プラントが鉄鋼生産施設の一部として組み込まれており、グリーンスチールの生産に必要な燃料(グリーン水素)も合わせて生産されます。同社のグリーンスチール生産は、再生可能エネルギー、持続可能な素材、人工知能を組み合わせることで、CO2排出量ゼロを実現するデジタル化及び自動化されたプロセスを構築しています。
2020年10月には、自動車メーカーのBMWグループとの間で、2025年からのグリーンスチール調達に関する契約を締結、また2021年12月には、世界的なエネルギー・電力供給会社であるイベルドローラ社との間で、23億ユーロ(約2,900億円)を投じた1,000MWのグリーン水素製造プラント建設に合意しています。
3. Diginex Solutions(英国/2017年)
企業に対する非財務情報の開示圧力が強まる一方、ESGレポートの作成には巨額なコンサルティング費用と膨大な時間や人手が必要なため、多くの企業、特に中小企業にとっては大きな負担になっています。Diginex Solutionsの主要サービス「DiginexESG」を使えば、ESGレポートの作成に要する労力を大幅に削減し、従来の方法よりも6倍速くESGレポートを作成することが可能になります。月額99ドルからと安価に利用できることもあり、特にリソースの確保が困難な中小企業の導入に適しています。また、「DiginexESG」はGRIから認証された初のブロックチェーン対応製品でもあり、国際標準のフレームワークに沿った報告書の作成が可能です。
また、第二のサービスである「DiginexLUMIX」は、サプライチェーン全体における労働環境のアセスメントに特化しています。労働環境に関する情報を自動で収集することで、企業はサプライチェーン内で注視すべき点や改善点を把握しやすくなります。「DiginexLUMIX」では、ブロックチェーン技術を応用することで、データに透明性と信頼性を持たせており、これまでにMicrosoftやコカ・コーラ、国連などにサービス提供の実績があります。
(画像:Diginex Solutions)
4. Allonnia(米国/2020年)
Allonniaは、ボストンを拠点とする廃棄物バイオレメディエーション(生物学的環境修復)を手掛けるスタートアップ企業で、廃水処理、土壌修復、固形廃棄物管理、およびアップサイクリングの廃棄物管理に対する新しいソリューションの開発を目指しています。同社は、タンパク質工学や細胞設計などの合成生物学を活用して、より持続可能な廃棄物プロトコルを商品化するためのソリューションとシステムを開発しています。
同社の最初のターゲットは、PFAS、PFOA、およびPFOSを含むフッ素化合物です。これらの化合物は、分解せず、環境中に何十年も存続し、土壌や地下水を汚染し、さらには人間の血流に侵入する可能性があるため、「永遠の化学物質」として知られています。化学物質を永久に処理するための既存のプロセスでは、多くのエネルギー消費と化学物質の使用を必要としており、それでも汚染物質を環境から完全に除去することはできず、隔離または埋め立てるだけとなっています。
Allonniaでは、様々な環境および媒体中の汚染物質を生分解するための、遺伝子配列や表現型が特徴づけれた微生物および酵素のデータベースを保有しており、自然生態系に悪影響を与えず、特定の環境用途にカスタマイズできる微生物を工学的に開発することで、次世代の生物学的ソリューションを提供しています。
(画像:Allonnia)
5. Cobwebs Technologies(米国/2015年)
ソーシャルメディアの拡大に伴い、テロリストグループや犯罪者は、メンバーの募集や情報交換のためにWebを使用しています。このような地下活動に対処するためには、セキュリティ機関がWebを監視して犯罪を防止し、過激化または犯罪化のリスクがある個人を特定する必要があります。
米国を拠点とするスタートアップCobwebs Technologiesは、国家安全保障、法執行機関、金融サービス、企業セキュリティ向けに、脅威監視ソリューションを開発しています。同社の専門家チームは、軍隊や情報機関の第一人者で構成されており、業界関連のプロジェクトに長年積極的に関与してきたことから、特殊な専門知識を有しています。
同社のプラットフォーム「Trapdoor」は、ソーシャルメディアや、モバイルアプリ、ダークウェブなどのインターネット上のソースから情報を収集し、脅威になる攻撃者と匿名でやり取りを行います。このプラットフォームでは、機械学習アルゴリズムを用いて、従来の検索手法では獲得できない膨大なWeb情報からインテリジェンスに関する洞察が得られるため、テロ計画、サイバー犯罪、麻薬密売、マネーロンダリングに至る様々な脅威に関する調査活動を支援しています。
(画像:Cobwebs Technologies)
6. Earthly Labs(米国/2017年)
Earthly Labsは、小規模な炭素回収システムの主要プロバイダーで、CO2を回収・リサイクル・再利用・追跡・販売するための「CiCi」と呼ばれる技術プラットフォームを安価に提供しています。「CiCi」は、醸造所および炭酸飲料分野向けに特別に開発されたソリューションとなっており、ビール工場や炭酸飲料メーカーの発酵廃棄物から炭素を捕獲することができます。CO 2回収容器(泡トラップ)、制御および監視ソフトウェア、優れた保管技術によって、発酵タンクとブライトタンクからの混合ガス廃棄物を飲料に適した液体に変換します。さらに、この技術によって得られたCO2は、トマトやレタスなどの屋内の植物の成長を促進するために活用することで、農家の野菜収穫量を増やすことができます。
なお、同社は2021年12月に、エネルギーおよび産業用ガス市場で高度なエンジニアリング機器を製造する世界的メーカーであるChart Industries社にて買収されました。
(画像:Earthly Labs)
7. Blue Sky Analytics(インド/2018年)
Blue Sky Analyticsは、衛星に由来する気候情報を利用して金融の意思決定を行うインドの気候テック企業です。同社は、インド工科大学および米国イェール大学で、気候変動に伴う金融リスクを長年研究してきた姉のAbhilasha Purwarと、ITエンジニアで弟のKshitij Purwarの二人によって設立されました。
人工衛星から得られる地理空間情報と、IoTセンサーから得られる地面、水、大気等のパラメーターを利用して、"環境データのブルームバーグ"とも言えるような環境データプラットフォームを構築しています。また、独自のAI技術を用いたリアルタイムの予測生成によって、気候変動リスクに関する意思決定をサポートすることができます。
様々なユースケースでの活用が考えられますが、具体的には、投資ポートフォリオ、不動産、ローンポートフォリオなどの資産クラスにおける物理的気候リスクを、TCFDフレームワークに従って監視・測定したり、気候VaR(気候バリューアットリスク)を算出したり、様々な温暖化シナリオを想定したストレステストの実施などにも活用できます。また、ポートフォリオリスクの監視・測定・軽減のために、洪水、干ばつ、山火事、熱リスクに対応した特注のデータソリューションも提供しています。潜在的なユーザーには、政府、銀行、インフラ、保険会社、医療機関、農業関連企業などが含まれます。
(画像:Blue Sky Analytics)
8. Dynamhex(米国/2018年)
現在、多くのスマートシティで都市開発を計画する際には、都市当局は様々なデータソースやパラメーターを考慮する必要があります。例えば、温室効果ガス(GHG)の排出量、生態系に与える影響、エネルギー供給能力、市民の要望などです。
米国のスタートアップ企業Dynamhexは、建物、家庭、個別企業レベルごとのデータを分析して、都市全体の気候関連情報を可視化します。これにより、都市レベルでの気候支援プロジェクトの計画を促進し、影響を評価することで、炭素削減目標を追跡することも可能になります。オープンデータへのアクセスが制限されることの多いエネルギー分野のデータを取得するために、同社ではエネルギー用の統合APIプラットフォームを開発しています。
DynamhexによるGHGインベントリの構築には2つのステップがあり、まず、複数の情報ソースから得られた計量経済学的および地理空間的データセットを使って、これらをビッグデータ解析することにより、ボトムアップでGHGインベントリのモデルを構築します。次に、電力会社や公共/民間団体と提携することで、GHGインベントリの精度を高めています。同社は、排出量データの集中管理プラットフォームを構築することで、エネルギー供給者、消費者、規制当局、資金提供者などのステークホルダーの関与を支援しており、これまで、カンザス州プレイリービレッジ市やカンザス州ローランドパーク市などの自治体や、米国の大手電力会社とのパートナーシップ契約を結んでいます。
(画像:Dynamhex)
9. Solmeyea(ギリシャ/2018年)
Solmeyeaは、微細藻類を原料とした高付加価値なタンパク質の大規模生産を目指すギリシャのスタートアップ企業です。同社の特許技術である「ハイブリッド垂直微細藻類培養法」を通じて、動物飼料、サプリメント、タンパク質スナックなどを生産しています。同社の製品は、必須アミノ酸や抗酸化物質を豊富に含む大豆、米、エンドウ豆など他の植物由来のタンパク質よりも、栄養的に優れています。
この技術は、微細藻類の光合成によって空気中の余分なCO2を除去しながら、食品製造のために再利用することができるため、循環型経済を実現するためのソリューションとなっています。また、化石燃料の発電所から直接CO2を回収して利用することで、発電効率を25%以上も向上させながら、その一方で安定的な動物飼料の提供を通じて畜産事業者の支援も行うことができます。
(画像:Solmeyea)
10. Poseidon(シンガポール/2017年)
シンガポールのスタートアップ企業Poseidonは、最近の気候変動に対する消費者の意識の高まりを受けて、個人の日常行動に着目し、消費者の力で気候変動を抑制することを目指しています。同社のソリューションである「reduce」は、人工知能とブロックチェーンを用いて、あらゆる製品やサービスのCO2排出量を分析したうえで、同量のカーボン・クレジットを購入することにより、製品の炭素影響を相殺することができます。「reduce」では、グラム単位の炭素クレジットを取引することができ、これによって炭素市場と小売業の統合が可能となりました。
消費者は、「reduce」におけるカーボン・クレジット購入を通じて、本森林保全、森林再生、持続可能な農業のプロジェクトを支援できます。実際に消費者のカーボン・クレジット購入が、信頼のおける脱炭素プロジェクトに貢献できていることを保証するため、ブロックチェーン上に取引情報を公開保存することで透明性と追跡可能性を生み出しています。また、ブロックチェーンを活用することで、自身のライフスタイルが気候変動に与える影響を正確に把握することもできます。
(画像:Poseidon)
おわりに
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『ESG for Startups』連載一覧 [再掲]
#1 PRI署名及びESG投資方針の策定について
#2 世界のESGスタートアップ30選(前編)
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