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不器用な売り込み

イラストレーターとして頑張っていこう、と決心したばかりの頃、勇気を出してとある雑誌のアートディレクターさんにメールをお送りしたことがある。

20代の頃から好きな料理と暮らしの雑誌。
この雑誌と、雑誌のディレクションやデザインが好きなこと、
わたしのイラスト作品を見ていただきたいことを書いてメールを送信した。

文章にするとたった数行の工程だけど、ここに辿り着くまでに何日もかかった。
「多忙な方に突然こんなメールを送って迷惑じゃないだろうか…」「作品、全然だめですね、とか言われたらどうしよう」
メールの文章を何度も推敲した。

自分の作品を売り込むときに
「 “もしよければ” 見てください」という伝え方は絶対だめ、と教わったので
心の底の方では正直まだ自信がなかったとしても、今の自分のベストを尽くしたものであること、「ぜひご覧いただきたいです」という姿勢でいることは、一人前に忘れないでいようと思った。

押しの弱い自分の「しっかりモード」スイッチをONにしてメールを送信した。

数日後にアートディレクターさんからお返事のメールをいただいた。
多忙なタイミングだったにも関わらず
「遅れてすみません!作品集 見ますので送信していただけますか」となり、
「このテイストだったら依頼しやすいかも」
「この雑誌だとこういったニーズがあります」といった具体的なアドバイスや感想をいただいた。

当時の私の作品集は、イラストの作風も何方向かに分かれていて、まとまりがなく、アドバイスをしようにもしづらい仕上がりのものだったと思う。

「ぜひご覧いただきたいです」というものではなかった。改善点がたくさんある、というのがじわじわと伝わってきて、申し訳ないし、恥ずかしい。でも良いところや、改善点を的確に、正直に指摘してもらえた。
「すぐに仕事につながるか分かりませんが、作品集を社内のデザイナーと共有しますね」とも言っていただけて、わたしは恐縮してばかりだった。

その出来事は、その通り
すぐに仕事につながらなかったけれど、
もごもごしていた自分がやっと一歩前に進めたと感じた日だった。
というかスタート地点にすら立っていなかったことにも気づいた日だった。

動いてみると分かることがたくさんある。
こうして人に連絡しても良いんだな、とか
作品を見てもらってもすぐに仕事にはつながらない、とか
だからもうちょっと試行錯誤してみよう、とか。

その後もわたしの不器用で時間のかかる営業活動は続いた。
メール文をまとめるのにすごく時間がかかるし、電話でスラスラと喋ることもできないので、事前練習やメモが必須。そもそも自分の強みって何なんだろう?とか。

うまくいかないこともたくさんあって、
初対面であんなに丁寧に言葉をかけてくださったアートディレクターさんが当たり前じゃないということも分かってくる。

それから1年、2年…と活動しているうちに、少しずつ色々なところから声をかけてもらえるようになって、イラストの仕事が増え始めた。あの頃、唐突にお送りしてしまったメールと作品集は、振り返ると拙くて少し恥ずかしいし、未熟で失礼もあったと思う。ただ、駆け出しの自分にはとても有難い経験だった。

なので、「あの頃よりは成長してるかな」と振り返る基準の日にもなっている。
親切にしてくれた人、時間を割いてくれた人に恩返ししていく気持ちで、頑張ろう、と思うきっかけの日なのでした。


追記  2024.12.11
吉穂みらいさんがこのエッセイを紹介してくださいました。
素敵な小説やエッセイをたくさん書かれているみらいさん。アイコンイラストを描かせていただいたり、プライベートでもとにかくお世話になっております。ありがとうございます。


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高橋マサエ
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