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イグノーベル賞を獲った行動経済学者に幸せになる方法について聞いてみた

ダン・アリエリーは米国の超名門デューク大学の行動経済学者です。著作の「要素通りに不合理」は世界的大ベストセラーとなり、彼がTEDで行った講演は780万回以上再生されています。高価な偽薬(プラシーボ)は安価な偽薬よりも効力が高いとを示したことから、2008年にイグノーベル賞医学賞を受賞しています。そんな世界的な行動経済学の権威に話を聞く機会があったのでシェアしたいと思います。

雅彬:心理学、行動経済学、特に「人間の非合理性」という分野に興味を持ったのはなぜですか?何か具体的なきっかけはありましたか?

ダン:何年も前に大怪我をしたんだけど、入院していて嫌なことがたくさんあった。医者や看護師は頑張っているのだろうかと。特に、早くから気になっていたのは「包帯のはがし方」。あなたが入院していて、誰かがあなたの包帯を剥がすと想像してごらん。痛みを最大限に軽減するためにはどうすればいいのか?という問題に直面するだろう。看護師は、あなたの腕を押さえて腕から包帯をはがす「クイックリムーバー」という方法を取っていた。正直、私はこのアプローチが好きではなく、改善すべきだと思っていたよ。

退院して大学で勉強するようになってから、痛みに関する実験を始めた。すると、病院で行われていたアプローチが患者さんにとってベストな方法ではないことが分かった。この経験から、患者さんのために最善を尽くそうと思っていても、実際には最善を尽くせていないのではと考えさせらた。患者さんのため、お客様のため、市民のために最善を尽くしていると思っていても、直感では違う方向に行ってしまうことがあるのではないかとね。そこから、意思決定についてもっと勉強して理解を深めた方がいいと思ったんだ。

雅彬:ビジネスの経験も豊富ですね。ビジネスの世界に飛び込もうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

ダン:基本的にはアプリケーションに興味がある。ビジネスの分野は、より良い方法で物事を進めるために、多くの機会を提供してくれるからだ。もちろん、公共の分野にも興味がある。ただ、努力してもなかなかうまくいかないのが現状だ。ビジネスの分野の方が機動力があるから仕事がしやすいね。

雅彬:今まで経験してきた中で一番辛かったこと、そしてそれをどうやって乗り越えたかを教えてください。失敗した時の精神的な対処法を教えてください。

ダン:私は事故で大火傷を負い、3年近く入院していた。とても長く、最初は何が起こっているのか理解できなかったよ。それを克服するために、一日一日をしっかりと経験することにした。その後は、目標や目指す変化を自分に与えるようにしていた。ただし、あまりに長期的な目標にはならないようにね。他にも、私の本に書いてある「報酬の置き換え」のようなことも実践していた。例えば、難しいセラピーをしたときには、自分がやっていて本当に好きなご褒美を自分に与えてるんだ。これには唯一無二の答えはない。いろいろな方法があるからね。

雅彬:生産的に仕事をしたり、創造的に考えたり、目標を達成したりするのに役立つ習慣を持っていますか?また、どのようにして習慣を身につけましたか?

ダン:私は沢山働きたい。だから、誘惑に屈しないようにしているよ。オフィスにいるときは、自分のやりたいことに集中して、スケジュールを入れて、特定の時間に何に取り組むかを決めるようにしている。そうしないと、Facebookを何時間もやっているような誘惑に屈してしまいがちだからね。

本当にやりたいことをやりながら「長期に渡って自分の意思をどう実現させるか」ということが大切な点だ。そのためには、カレンダーを使うことも有効な方法だ。人は行動計画を作ると実際にそれを継続する可能性がずっと高くなるんだ。逆に行動計画を作成しなければ、一度もやらない可能性が高くなる。だから私の習慣は、行動計画を作り、具体的にして、スケジュールに入れて、それに従うことだ。

雅彬:ダンさんが考える合理的な幸せの追求方法とは何ですか?

幸せになる方法は沢山あると思うが、一つの方法を選ぶとしたら意味のあることを追求することだ。幸せには2つのタイプがあると考えているよ。一つは、ビーチに座ってモヒートを飲むことで得られる幸せ、即効性のある幸せ。もう一つは、意味や目的があるという満足感から来るもので、充実感を得るもの。人々はしばしば2番目のものではなく、最初のものを追求することが多いと思う。2番目のものは、自分に長期的な幸福を与えてくれる。

雅彬:多くの人は自分の行動に疑問を持たずに、自分は合理的だと信じています。自分の不合理さや不誠実さを自覚して、人生をより良くするための第一歩は何でしょうか?

ダン:自分たちが非合理だと気付く方法はたくさんあるよ。他人に非合理的であることに気付かせるのは簡単なことさ。最も簡単な方法としては、スポーツの試合を見ること。すると、自分の見方がいかに偏っているかが分かる。このようなことをすると、自分が都合の良い方法で、自分の見たい方法で現実を見ているという偏った見方をしていることに気付かされる。

雅彬:成功という言葉を聞いて、どんな人を思い浮かべますか?その理由は?

ダン:私にとっての成功とは、貢献とバランスが混ざったものだ。私自身はそれに到達したと思っているよ。第一に、成功とは、役に立つ形で世の中に貢献することだ。二つ目に、友人、家族、キャリアのバランスをとること。これを達成するのは信じられないほど大変なことで、成功の秘訣なんてものは持ってないよ。

雅彬:20歳のダン・アリエリーに電話をかけることができるとしたら、彼にどんなアドバイスをしますか?

ダン:人生は長期戦だ。特に20代と30代は、残りの人生のために投資する良い時期で、知識を蓄積し何が自分のためになるのかを理解するには良い時期だと思う。20代、30代の頃の私は、あらゆることを達成したいという目標志向が強すぎて、常に物事を成し遂げたいと思っていた。そのために長期的なスキルセットに時間を投資していなかった。

私は教育についてずっと考えている。大学で学んでいる時は「さっさと卒業すること」が目標かもしれない。けれど、視点を変えれば、学校で学ぶということは、残りの人生のツールセットを設定していることで、長期的に考えることはとっても有益だ。長い目で見てツールセットを広げるんだ。

雅彬:世の中を良くするために、次の世代へのメッセージを一つ残せるとしたら、どんなメッセージを送りますか?

ダン:人類のすごいところは、環境をデザインしていることだ。周りを見渡してみると、人間はほとんど全ての物をデザインしている。人間は物理的な世界では素晴らしい物を設計してきたが、教育制度や税制、医療制度など、精神的な世界はまだまだだ。それらの面で出来ることがあれば、世界はもっと良くなると思う。そのためにはどうすればいいのかを一人一人が考えなければならない。


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