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店をオープンするまで / (8)情熱と収益と

2017年5月28日からも、店の価値設定、メニュー決め、席数決め、厨房設備決めなど続けていました。それらを仮決めしたうえで費用の積算をして初期コストを出して、同時に資金繰りの見通しをしてランニングコストのイメージをもって、逆算して売上をどれだけ積まないと成立しないのかを計算。決めたメニューで現実的に到達できる可能性のある売上高なのか、物件のあるあの街にそれだけのポテンシャルがあるのか、シミュレーションを繰り返しました。まだ見ぬお客様にどんな価値をつくってご提供するのか、とにかくこの価値を決めないことにはメニューが決まりませんし、席数も厨房設備も決まりません。

並行して、物件の場所についても検討を繰り返しました。店をどこにかまえるかというのは、当たり前にとても重大な決め事です。営業するうえでもっとも重要な顧客層が決まりますし、自分の通勤負荷も決まります。用意するメニューにも多大な影響を与えますし、営業時間、定休日など、さまざまな営業要素が「場所」によって選択の余地なく決まる、あるいは場所を重々考慮して決めることになります。「店の価値」と相互に太く関連します。

それから、自分がストレスフルであってもこの事業を続けられません。毎日のちょっとずつのストレスをちょっとずつ軽減しておかないと、気がついたときには積もり重なって解消できなくなっています。結果、いよいよ自分が店に行きたくなくなってしまったら終わりですから、その観点でも物件の場所は最適なのかどうか整理していきました。

究極の理想は、あれやこれやと考え続けているこの状況とは真逆で、唯一無二の商品を創り出して、その商品があるだけで宣伝しないでもお客様が引きも切らず買いに来てくださる状況なのですが、この時点で人様に買っていただいたことのない自分のコーヒーにそこまでの究極的な自信はありませんでしたし、早く働いて収入を得なければならなかったので時間もなく、ぼくは愚直に泥臭く土台から積み上げていくしかありませんでした。

このように、物件が具体的になったことで、店の価値と物件と資金を織り混ぜてこの事業の見通しを煮詰める段階に突入しました。



一方で、コーヒー屋で生きていくという思いを明文化しておく必要がありました。仮説を数字にした見通しを何度か立てて煮詰めた末に「これで行こう」と決めたものが事業の計画ですが、その事業の根っこは「自分がやりたいこと」であるべきです。

ぼくは、なにか継続的な取り組みを始める前に「なぜやるの?」「なんのためにやるの?」ということを自問して、解を出して、自分の中で結晶にしておくということをします。明文化は結晶にするためにぼくにとっては不可欠な作業です。

そこはうだうだ期間であった4月に整理しておいたのですが、物件が具体的になって事業のプランニングを始めた5月下旬にあらためて振り返りをしておきました。

(2017年4月5日のメモから引用)

『・・・そう、だからやっぱりだけど、通底するコンセプトが必要。自分の支えになるほどのコンセプト。
コンセプトというものは「自分の思い」だ。これを支持していただけるお客様を増やしたいというようなのは商売の戦術であってコンセプトじゃない。コンセプトとは、いつも、自分が立ち戻れるもの。自分のなかからこんこんと湧き出ているもの。信じ続けているもの。希望をもてるもの。
・自分の技術でメシを食い、将来設計ができる程度には稼ぐことのできる事業にしたい。
・人と笑顔。これが根幹。
・コーヒーの魅力を伝えたい。(おれはコーヒーが好き)
・・・自分の技術と意気で人の笑顔をみたい。これが根っこの燃料だ。人に執着しよう。その燃料をもって進む道が、コーヒーだ。
コンセプト:「自分の技術と意気で人の笑顔をみたい。共通言語はコーヒー。」』

自分のコアになるコンセプトは、整理する過程で自分と対話しますから自分のこころの整理もつきます。挫けそうなときの精神的な支えは自分に求めないと一人で立って歩けません。

自分の個人的な性格としては情熱(コンセプト)をすべての根っこにしたいのですが、いま取り組んでいるのは生計を立てていく事業の組み立てですから、現実としては情熱と収益を両手に握ってあくせく走っている感覚です。この感覚はいまも変わっていません。

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