見出し画像

#102 美しい自然に囲まれた港街に一目惚れ@南アフリカ共和国・ケープタウン

2001年12月12日

レソトからケープタウンまで1000km以上も離れていたが、一気に大移動することに決めた。オランダ人マライアの車でマレアレアから首都マセルまで送ってもらえて助かった。国境のトイレでは大事な用を足そうと思ったら、どの便器もたっぷりのウンコで満たされていて驚愕した。我慢できないので仕方なく一番便位の低い便器を選び、そーっと穏便に事を済ませた。

南ア中央部、フリーステート州都ブルームフォンテーンへの道中は、緩やかな曲線を描く緑の丘が、地平線まで連なる丘陵地帯で美しかった。南ア黒人独特の都会的なデジタルミュージックをガンガンに鳴らしながら、ミニバスはかっ飛ばした。ミニバスは自家用車を持てない黒人の公共交通機関なので、乗客は自分以外全員黒人。南アに入って当初は白人と過ごす時間が多かったが、彼らが親切でも場の空気に疎外感を覚えていた。それに対して、黒人たちに囲まれているほうが不思議と安心感があり、彼らと体と体が触れ合うほどにギュウギュウに詰め込まれた車内で、一緒に揺られながら美しい大地を駆け抜けるこの時を愛しく感じた。

隣に座っていた黒人のおばちゃんは「結婚しよう」だの、「一緒に旅をしよう。私が残りのお金を使い果たしてあげるわ」など冗談を飛ばす愉快な人だった。ブルームフォンテーンに到着すると、彼女は親切に鉄道駅まで一緒に行き、ケープタウンへの列車の料金と時刻表を調べてくれた。乗り継ぎが悪いからバスが良いと分かると、バスステーションの場所を聞いて回り、タクシーの運転手と値段交渉までしてくれた。

バスステーションでは暇つぶしにムビラを弾いていたら、黒人の青年が話しかけてきた。レソト近くの実家に母親を訪ねた帰りで、ケープタウンでポロ用の馬の世話を仕事にしているという。この街で黒人と白人が一緒にいるのを何度か見かけたので、関係は良好なの?と微妙な質問を投げてみた。答えはこちらの印象とは裏腹で「ここフリーステート州は元々自分たちソト人の土地だったんだ。白人は自分たちを差別するから嫌いだね。」ときっぱり言った。お金に余裕がある訳でもないだろうにビールをおごってくれた。バスの出発時間となりメルアドを交換して、ハグして別れた。

綺麗な大型の夜行バスで隣に座ったのはヨハネスブルグ在住で母親に会うためにケープタウンへ向かう25歳のクールな女性、リン。ストレートの黒髪、褐色の肌でインド人に間違えられるが、黒人とドイツ人の血が混ざったカラード。カラードとは混血の人たちで構成される南ア独特の民族グループで人口の10%を占めている。彼女とお喋りして、長距離の移動を退屈することなく過ごせた。地平線に沈む太陽が見え隠れして、広大な大地が夕暮れに染まる中、バスは南アを貫く高速道路N1を一路南西へ駆け抜けた。

一夜明けた12月13日の朝、目が覚めると突き抜ける青空の下、箱庭のような整然とした街並みの中をバスは走っていた。切り立ったテーブルマウンテンが堂々と鎮座し、大西洋の青も見えてきた。喜望峰のあるケープ半島の付け根、テーブル湾に面した港街、南ア第二の都市ケープタウンに入っていた。植民地時代の古い建物群とモダンなビルが不思議なバランスで調和していた。

ケープタウンは17世紀にヨーロッパから喜望峰を回ってインドに至る航路の補給基地としてオランダ人が開発した南ア最初の入植地。その後、イギリスが占領して発展。ヨハネスブルグで金鉱が発見されて以降、経済の中心としての立場は失われたが、立法府が置かれている。郊外にはワイナリーが広がり、風光明媚なので世界の金持ちのリゾート地でもある。

広大な南アの国土には多様な気候が存在するが、ケープタウン周辺だけは温暖な地中海性気候なのが面白い。12月のケープタウンは、カリフォルニアのような青空と太陽の強い日差し、カラッと乾いた空気が心地良いベストシーズンの夏が到来したばかりだった。最高の気候と美しい自然に囲まれ、かつ洗練された街がひと目で気に入り、しばらく滞在して仕事を探そうと決意した。所持金が30万円ほどしか残っておらず、南米に渡るには心許ない状態だったのだ。

ジンバブエを離れて一人旅に戻ってから、親切な人々が次々と現れて、運命の糸に導かれるようにケープタウンに辿り着いた。長距離移動で疲れていたが、この街で何か良いことが起こりそうな期待に心は沸き立った。

ブラウンシュガー・ケープタウン店へ投宿。仮眠を取って昼過ぎに起きて、熱いシャワーを浴び、洗濯してスッキリ。ザンジバル島で楽しい時を共に過ごした南アの白人女性リーズルはこの街に住んでおり、到着の予定をメールで伝えていた。

早速彼女に電話をかけて、開口一番「誰だか分かる?」と意地悪をしてみたが、すぐに「マサ?」と言い当ててくれて嬉しかった。彼女はすぐに宿まで迎えに来てくれて、スカーレットと名付けられた愛車、色褪せた赤の古いフォルクスワーゲンに乗り込んだ。

古い建物を改装したオシャレなキューバレストランの2階バルコニーに座り、カンパリソーダで乾杯。ムール貝とトルティーヤを食べながら、別れてからの旅話に花を咲かせた。別れ際に「どうしてすぐに私の家に泊まりに来ないの?」と誘ってくれて感激した。リーズルの同居人は彼氏と同棲を始めたので一部屋空いていたのだ。

(旅はつづく・・・アフリカ縦断終了、あと3話で終了です!)
------------------------------------------

いつも御拝読ありがとうございます。面白かったら「スキ」ボタン、フォローをお願いします!次回は2021年12月13日更新予定、『#103 オシャレなフラットに居候@南アフリカ共和国・ケープタウン 』です。お楽しみに。 

気に入っていただけたらサポートもしていただけると、更新の励みになります。どうぞよろしくお願いいたします。