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#103 オシャレなフラットに居候@南アフリカ共和国・ケープタウン


2001年12月13日

旅の恥は掻き捨てというではないか。お誘いの言葉に甘えて、テーブルマウンテンの麓、大西洋を見下ろす丘の中腹にある閑静な住宅街、フレデフックにあるリーズルの家に転がり込んだ。2階建てフラットの2階、厳重な二重扉を開けると、白い壁、高い天井、フローリング床、2LDKの素敵な部屋が現れた。

リビングには茶色のソファ、壁には抽象画、中央のテーブルにはガラス瓶に活けられたオレンジ色の花、ロウソクとトスカーナ地方の洋書。「散らかっていてごめんね」と謙遜するのだが、実際はその真逆でインテリア雑誌を切り抜いたような完璧な内装だった。

大きな窓からは大西洋に面した港が見えて、ベランダに出て振り返れば急斜面の岩肌にピンクの花が群生しているのが分かる近さにテーブルマウンテンがそびえている。名前の通り、机のように平らな頂上からは、白い雲が滝のように流れ落ちてきて、息を呑む光景だった。

リーズルはこんな最高の住居に「好きなだけいていいのよ。自分の家だと思って冷蔵庫にあるものも好きに食べていいし、MTBも乗っていいから。」と合鍵を手渡してくれた。彼女の親切に胸が一杯になって言葉を失った。

ガヤガヤした安宿暮らしとは対極の静かな生活が始まった。研修医として働く病院へリーズルが出かけると、居心地いい部屋に一人取り残された。ゆっくりと白のバスタブに浸かって旅の垢を落とし、彼女のCDコレクションを漁り、シャーデーのアルバム「BY YOUR SIDE」を流す。ゆったりとしたメロウなソウルミュージックに耳を傾けつつ、オリーブ、キュウリ、トマトのサラダを作って食べた。これまでの過酷だったアフリカ旅へのご褒美、夢のような生活だなと、しみじみと幸せを噛み締めたのだった。

数日後、リーズルの友達デビッドの家で開催された現地語アフリカーンスでブラーイと呼ばれるバーベキューにお邪魔した。リーズル宅から車で20分、テーブルマウンテンの反対側にある木々の生い茂る閑静な高級住宅街。家が広いだけでなく、裏庭にはテーブルマウンテンからの清水が流れる小川がせせらぎ、レモンが実り、大きな柳の木が茂っていた。テーブルマウンテンの眺めは最高で、川向こうの石造りの教会から、鐘の音が響いてくる。今まで人生で見た住居の中でも最高の部類に入る環境だった。

彼らのバーベキューはフォークとナイフで食べる洗練されたスタイル。テーブルには沢山の肉、ぐるぐる巻きの巨大ソーセージを中心に、大きな青い皿に美しく盛られたサラダ、参加者が海に潜って採ってきた伊勢エビが二匹。あまりに優雅な彼らの生活を垣間見て、ため息しかでなかった。 完全に場違いな環境に迷い込んだ状況だったが、英語を話せたお陰で遠い異国からの旅人に興味を持った人たちと楽しい時間を過ごせた。

ジンバブエでは大阪弁だけでアフリカ縦断の旅をしている猛者に出会ったが、彼の隣で現地人とのちぐはぐな会話を聞いていたら、いたたまれなくなった。旅を振り返れば、英語でコミュニケーションが深くなり、何倍も旅が楽しいものになっていることを実感した。

残念ながら、夢のようなリーズル宅の居候生活は10日間で強制終了した。1階に住んでいる大家さんが「居候は契約違反だ」と立腹して、追い出されたのだ。リーズルは謝ってくれたが、こればかりは仕方がない。

しかし、ただでは転ばない。リーズル宅で開かれたクリスマスパーティーで知り合った青年クレムが、「良かったら泊まりに来なよ」と誘ってくれていたので早速電話をしてみた。ジンバブエ以来の再会を果たしたしゅうすけ君と宿で合流して、彼の家に2人で居候することになった。

迎えに来てくれたクレムの車に乗って、街の中心部からテーブルマウンテンとライオンズヘッドの丘の間を抜けると、眼の前に大西洋が現れた。混雑する海沿いから道を折れて、ビーチを見下ろす丘の中腹にある閑静な高級住宅街キャンプスベイへ。その一画に建つ白い漆喰塗りの立派な邸宅が彼の家だった。裏手には岩山がそびえて、広い芝の庭からは大西洋が一望の元に見渡せた。クレムは不思議な絵を描くアーティストで、日本のアニメがディズニーよりも大好きなオタクでもあった。

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年が明けて、クレムの親が帰ってきて優雅なヤドカリ生活が終わり、再び宿に戻った。仕事を探したいと思いながら、行動に移す気が起きず、結局毎日だらだらとお喋りしたり、美味しいご飯を作ったりして過ごしていた。
ケープタウンではザンジバル以来、海の魚介類が食べられて、日本人のDNAが喜んだ。近くの海で獲った貝と蟹でブイヤベース、日本大使館で借りた漫画「おいしんぼ」を参考に、とこぶしの炊き込み御飯。極めつけは近くの磯で偶然見つけたアワビのステーキ。さっと焼いてワインとバターと醤油で味付けして食べたら卒倒する美味さだった。パリに向かう日本人のお別れパーティーでは、近海物の鮭ケープサーモンとジャガイモで味噌仕立ての石狩鍋。美味さに胃袋がパンパンになるまで食べて、しばらく動くことが出来なかった。

白人、黒人など人種を問わず宿のスタッフとも仲良くなっていたので居心地が良く、毎日のように新しい出会いがあるので飽きることがなかった。プールに足を浸して友達のギターを弾いていたら、ザンジバルで出会ったもう一人の友達ジェネットがリーズルと一緒にいきなり現れてびっくり。一緒に昼ご飯を食べながら、ザンジバルの写真を見て懐かくなった。

(旅はつづく・・・アフリカ縦断終了、あと2話で終了です!)
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