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#95 泥棒逮捕!そして裁判へ@ジンバブエ・ハラレ

2001年10月25日

働きざかりなのに働かず、美味しいものを食べることだけに熱中する日本人旅行者たち。彼らにとって、ハラレは日本と変わらぬ、いやそれ以上の飽食の黄金期を迎えていた。毎日ご馳走だからたまには粗食しなきゃと考えている自分に気づき、初めて金持ちの気分が少しだけ分かった気がした。ろくに運動もせず宿でゴロゴロ、太って当然の生活を始めて2週間が経とうとしていた頃、事件は起きた。

深夜1時頃、宿の一階の相部屋。ゴソゴソという物音で目覚めたM君は、泥棒が窓の外から手を伸ばして、同室のはるこさんのバッグを物色している現場を目撃した。M君に気付いた泥棒が「500米ドルよこせ」と脅してきた。しかし、手を鉄砲の形にしているだけで命の危険はないと察知。

彼は、はるこさんを起こして部屋を飛び出し、宿の警備員に助けを求めた。警備員が通りに出ると、2人組の泥棒がカメラの入ったバッグを持って逃走。運良く、パトロール中の警察官がいて、一人は逃したものの一人は逮捕された。泥棒は警察官によって宿に連行されて、みんなにタコ殴りされた。そしてカメラも無事戻ってきた。

二日後、はるこさんに証人として刑事裁判へ出廷要請があったため、一人で法廷に立つ彼女を、宿に滞在中の日本人6人で応援することになった。朝7時に早起きして、調書を取るためにハラレ中央警察署へ。その後、ランチビュッフェで訪れたシェラトン・ホテルの近くにある裁判所へ移動。

3階建て、ドーナツ形の建物内には、法的に結婚をする女性がウエディングドレス姿で何人も歩いており、裁判所で結婚するという文化の違いを感じた。2階で待っている間、隣の部屋を覗くと、手錠で繋がれた悪そうな容疑者たちが大勢たむろしていた。どす黒い目付きで、逆に睨みつけられて思わず目をそらしてしまった。

30分ほど待って3階の9番法廷へ。そこは学校の音楽教室ほどの広さで天井が高く、裁判官席には威厳を感じる巨大なテーブルが鎮座していた。法廷に来るのはみんな初めて。誰もいないのをいいことに、お祭り気分で「イェーイ!」と記念撮影を始めて、ジンバブエの法廷を完全に冒涜していた。

裁判が始まり、逮捕されたときと同じ青シャツを着た容疑者の青年を警察官が連れてきた。しかし、始まってすぐに、正確を期すため通訳が必要と言われて、翌週月曜まで審判は延期されてしまった。仕方なく日本大使館と連絡を取ると、通訳を手配してくれることになった。

週末を挟んで3日後の月曜日。連日、夜更かしな僕らは眠い目をこすりながら、朝8時半に再び裁判所へタクシーで向かった。前回は「勝訴」と書いた紙を作ろう!などと盛り上がっていたのに、2日空いたせいで気が抜けてしまった。

再び3階の9番法廷へ。今日は他の裁判も流れ作業で進行するようで、傍聴者席が満席だった。9時前、奥の扉から黒いガウンを着た頭の良さそうな30代の若い黒人女性裁判官が登場。全員起立して着席。30分ほど他の裁判の日時を告知する作業が続いた。

そして、いよいよ僕らの番。容疑者が別の扉から手錠を付けられて登場して、被告人席についた。現地のショナ語と英語が入り交じって裁判は進んでいく。状況からいって彼が犯人だということは間違いないのに、予期せぬことに男は容疑を否認したのだった!

「近くを歩いていたら、バッグが落ちていたから拾っただけだ」とうそぶいたのである。争点はバッグを盗んだ人物と、警察が捕まえた人物が同一かどうか。容疑者の嘘の弁明が終わると、はるこさんが呼ばれた。正面向いて右側、容疑者と対峙して立ち、「語ることが真実であることを誓います」と英語で宣誓。やや緊張した様子だが、堂々としており、通訳を通じて質問に答えていった。

しかし、彼女は寝ていたので犯人の顔を見ていなかった。次に犯人を追いかけた警備員が証言したが、彼は逮捕現場にいただけで犯行を見ていなかった。僕らは犯人の顔をはっきり見たM君が呼ばれることを期待していたのだが、裁判官は「次は2日後の水曜日」という一言で、別の審議に入ってしまった。

外に出て大使館員と打ち合わせ。何度も裁判所に行く煩わしさを考えて、今日中に全部終わらせることを裁判所に申し出て、了承された。休憩後、再び審議が始まり、M君が証言台に立った。犯人を見ながら「彼がバッグを取るところを見ました」と証言。これで決定的になったはずだ。いよいよ判決かと期待したが、女性裁判官は木槌をドン、ドンと叩くでもなく、判決を下さず次の審議に移ってしまった。

用の済んだ僕らは裁判所をモヤモヤした気持ちとともに去った。 後日判決の連絡も来ないという。これで有罪にならなかったら、何の為にみんなで早起きしたのか分からない。

親切だった日本大使館員曰く、ジンバブエの刑務所は環境が劣悪で、8畳の部屋に10人で寝起きするそうだ。家族が養えるならと刑務所に入る覚悟で罪を犯す人たちも多いという。

ハイパーインフレは国外から来る旅行者にとっては天国だったが、現地人にしてみれば、持っているお金の価値がどんどん目減りして、生活が苦しくなる地獄だった。そんな状況下で、外貨を持っている旅行者は格好のターゲット。先日も同じ宿の韓国人旅行者が夜の7時頃、宿の近くを一人で歩いていて4人組に襲われた。自分もバス待ちで、バッグからちょっと目を離したスキにカメラを盗られてしまった。昼間は平和なハラレだが、日が暮れれば、何をされてもおかしくない獣の世界だった。

(旅はつづく・・・アフリカ縦断終了まであと48日)
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