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#104 ヒッピーコミューンに転がり込む  @南アフリカ共和国・ケープタウン

2001年12月

南アでの滞在が長くなるにつれて、白人と黒人の明らかな経済格差が目につくようになった。アパルトヘイトは7年前の1994年に撤廃されたが、構造的差別は続いていることを実感した。

ヨハネスブルグ郊外の緑豊かな住宅街、ケープタウンで仲良くなった白人たちの暮らしを垣間見たが、彼らは立地の良い安全な地域で優雅な生活を享受する一方、黒人やカラードは郊外の低所得者居住地域に住み、その一部はスラム化していた。

宿では、掃除など下働きをしているのは全て黒人だったし、黒人による盗難の話をよく聞いた。ヨハネスブルクほどではないが、ケープタウンも治安の悪さは有名で、夜に出歩くことは自殺行為だった。

黒人だから罪を犯すのではなく、貧しいからである。どうして彼らが貧困に甘んじなければいけないのかに思いを巡らせば、侵略された歴史を無視することは出来ない。地元の白人は日本人に対しては好意的な人も多いが、差別された体験をした日本人旅行者の間では評判が悪かった。差別が当たり前だった時代が長いので、簡単に意識が変わらないのだろう。

人種と貧富に関わらず、誰もが自分でその境遇を選んで生まれた訳ではない。私たちは社会に不平を言うのではなく、その状況をどうより良くするために行動出来るかを、現在進行形で常に問われている。

しかし、ケープタウンは南アが持つ、いびつな社会構造から生じる閉塞感とは明らかに異なる多様性、自由、より良い未来への可能性が感じられた。宿が多く、カフェやバー、土産物屋などが立ち並ぶ街の中心部、ロングストリート近くでは、マレーシアからの移民の子孫がカラフルな住宅街を形成しているし、古いモスクにはガラベーヤを着た男性が出入りしている。

一方で、セクシャルマイノリティの人々も自由を求めてこの街を目指す。ゲイパレードが行われ、パーティー文化も世界的に有名というだけで、街の自由度が推し量られるというものだ。

喜望峰、ワイナリー、ホエール・ウォッチング、テーブル・マウンテンなど観光資源も豊富なので、世界から観光客がやってくるし、ケープタウン大学に留学する学生を含む多国籍な人種が入り交じり、自由な雰囲気が感じられた。この街の魅力を発見する度に、何とか仕事を見つけたいという気持ちが強く、明確になってきた。

ある日、意を決して仕事を見つけようと宿の近くにある寿司屋を訪問。オーナーの日本人の親父さんに直談判したのだが、「観光ビザだと、不法就労が見つかったらこちらが罰金を払わないといけないから雇えないよ」とあっさり断れられた。ウェイターなら出来るかもしれないと、いくつかのカフェを訪ねたが、期待は失望に変わった。断られるために手当たり次第に店を回るのは精神的にも楽ではなかった。

ニューヨークやロンドンでは旅行者でもモグリで働けるという話を聞いていたが、ケープタウンは簡単ではなかった。ビザは3ヶ月の有効期間があるので、何とか金をかけずに滞在してこの街にしがみつきたい。仕事が貰えないなら自分たちで作ろうと、寿司弁当を作って白人相手に販売するのはどうか?など起業アイデアをしゅうすけ君と練ったりしていた。

宿代で少しずつ旅費が削られる日々に焦りを感じた僕らは一大決心をした。しゅうすけ君が参加したザンビアでの皆既日食パーティーで仲良くなった友人がいる、マンションの一室に転がり込むことにしたのだ。そこはヒッピーたちが共同生活をしているコミューンだった。


海の近くの町、シーポイントにあるマンションの部屋の借り主はザンジバル出身のブルンジ人の女の子、アメリカ人ニックとオーストラリア人エミリーのカップルの3人。ブルンジの女の子はヘナ・タトゥーのアーティストとして毎日ビーチで働いていた。

この時、家主以外に7~8人のヒッピーたちが居候していた。しゅうすけ君の友達も居候している立場だったので、初対面の家主、エミリーに事情を話して、恐る恐る「仕事が見つかるまでしばらく泊まらせてもらえませんか?」とお願いすると笑顔で快諾してくれた。これでしばらくゆっくりできるとしゅうすけくんと安堵した。

ニックは楊式太極拳をマスターしていた。毎朝7時に起きてすぐ近くの海沿いの公園でトレーニングをしている彼について、僕らも習い始めた。太極拳をやったのは旅のスタート地点、上海以来。毎日やっているうちに体が自然と動くようになり、見えないエネルギー、「気」を意識する感覚が面白くなった。

家主たちがベジタリアンだったので、肉や魚を食べる訳にはいかず、物は試しで菜食生活に挑戦することにした。ある日、エミリーと一緒に巻き寿司を一緒に作った。きゅうり、トマトを生で巻き、人参、ズッキーニは炒めて巻いただけ。予想以上に美味かったので、自分の既成概念が打ち砕かれた。

朝は太極拳、菜食の日々は新鮮で健康的だった。元々体調に問題は無かったが、カラッと晴れ続きの気候もあり、気分が良く体調の質がグッと上がったことを実感した。食べ物が体に及ぼす影響を意識するのは初めてだった。肉を食べないと気持ちも落ち着くことが分かったし、動物性タンパク質を食べないと力が出ないと思っていたが、それも先入観に過ぎなかった。

ヒッピー精神、ラブアンドピースのヴァイブレーションは居心地良く、彼らの優しさ、知恵や技術をシェアする精神、人生に対する前向きな姿勢に大いに感化された貴重な共同生活の時間だった。

(旅はつづく・・・アフリカ縦断終了、次回最終話です!)
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