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大人になってからの学び方を、400ページ超の馬田さんスライドの本当の凄さから考える

以前から気になってた Customer Success Cafe #SuccessCafe で、馬田さん @tumadaのお話が聞けるということで参加したら、凄まじいプレゼンを聞けた。

界隈で噂のスライドはこの2束。

はい、合わせて403スライドです。
当日の参加者がどれくらい圧倒されていたかは、このあたりを追っていただくとして、、、

Q&Aでおもしろかったのが、「大量のインプット、どうやって整理してるんですか?」に対して、馬田さんが「うーん」となって、あまり明確な答えを言えなかったシーン。


で、突然、馬田さんのプレゼンや学び方に触発されて、新しい分野について学ぶときのコツみたいなものを共有しようと思いたちました。
大人になってからの方が学ぶことが多い、というのは、割りと皆さん実感してると思うんですが、仕事しながら新しいことを学ぶって、けっこう大変ですよね。

私もインプットとか学びは好きな方だと思いますが、正しい学び方というのは、30代を通じて、ようやく身につけられた気がしています。
典型的な私立文系人間で昭和世代な私は、まあ、大学では勉強しなかったわけです。
それが、30過ぎてアメリカの大学院というアカデミックなところに応募し、そこで生まれてはじめて論文とかたくさん読み、卒業後にそれを実務で学び返す、というサイクルを経てみて、ようやく理解できたことがたくさんありました。

私自身もそうでしたが、若いときはどうしてもノウハウやTipsが欲しくなるという傾向はあります。
でも今の20〜30代の皆さんを見ていると、めちゃくちゃスマートなので、ノウハウやTipsだけでなく、こういう部分も体得できると、さらに成長スピードが上がるんじゃないかな、という期待を込めて。


定石=体系的な文献を、短期間でたくさん読み漁る

新しい分野のことを学ぶときのコツ、というか定石は、その分野について体系的にまとめられた複数の文献に目を通すことだ。

体系的にまとめられておらず、部分的な話が書かれたものをたくさん読むと、それが全体だと誤解してしまう。この弊害はけっこう大きいと思う。

雑な例えで言えば、「どうやって集客・新規顧客獲得しよう?」というときに、いきなりそれに関する記事や本を読んじゃったりすると、それが4Pで言うところのPromotionの話であることに気づかず、そして4Pを知ったところで、実はそれは戦略を立てる上でのSTPを考えた後でないと意味がないということに気づかず、さらに言えば、そもそもマーケティングというのは事業の一部でしかないことに気づかず、、、となってしまったり。

だからポイントは「複数の」というところ。

1つ2つくらいだと理解が浅いままなので、すぐに壁にぶつかってしまう。
3つとか5つとかに目を通していくと、この話・こういう捉え方が、この分野では鉄板なんだな、というのが掴めてくる。
同時に、この部分については、割りと意見や捉え方が分かれるところで、未確立な部分なんだな、というのもわかる。


鉄板部分と未確立部分を把握する

自分が悩んでいる部分もそこなのであれば、世の中でもまだ解が見えていないのだから、悩むのは当然だとわかる。そして、自分・自社なりの解を作りにいく必要があることもわかる。
意見や捉え方がわかれる部分というのは、得てして、状況や前提の違いがうまく反映されていないもの。
例えば、Aという著者は、Pという状況(産業構造とか自社のポジションとか競争環境とか)を前提にしているので、Xが大事だと言っている。
一方で、Bという著者は、Qという状況(さっきとは違う産業構造とか自社のポジションとか競争環境とか)を分析しているので、Yが大事だと主張している。
こんな感じ。

同じ打ち手(経営アクション)でも、状況の違いによって、まるで違う結果を生み出す*ので、違う状況を前提にして議論してたら、どっちが大事かで意見が分かれるのは当然のこと。
なので、自分・自社なりの解を考えるときには、今の状況・前提を正しく理解するのがとっても大事。

状況 (Situation) ✖️ 打ち手 (Action) = 結果 (Result)

一方で、世の中的に共通見解ができているところで悩んでいたとしたら、それは単に勉強不足というか情報不足だっただけ、ということがわかる。
そうであれば、すぐにでも巨人の肩の上に乗ってしまえばいい。
解がほとんど見えているのだから、ここを目指そうという目標設定もしやすい。
あとは、どうやるかを考えることに集中すればいい。

実はこれ、戦略コンサルタントの常套手段だったりする。

未知の業界のプロジェクトに放り込まれたら、まずはざーっとたくさんの文献を読み漁る。それこそ、大学生向けの業界本から、業界のマニアックな新聞・雑誌までいろいろと。
1日とか長くても3日くらい、ざーっと読みまくると、だいたい同じような話が出てくるので、鉄板部分は掴める。

そして前者のような「解が見えないパターン」では、市場の構造とか自社のポジショニングとかをかなり綿密に、定量的にも定性的にも分析して、関係者が同じ認識をもてるようにする。
その上で、蓋然性の高い仮説を導く、といった芸当を、かなり短期間でやってのける。

後者のような「解が見えてるパターン」なら、いわゆるベンチマーク分析というのをやって、自分・自社のどこがどれくらい(定量的に)劣っているのかを把握する。
で、業界トップレベルになるためには、誰が何をどれくらいやればいいのかを考える。

(言わずもがなですが、ものすごくはしょって書いてますよ)

馬田さんや田所さんのスライドは文献の目利き役

で、ようやくココで馬田さんに戻ってくるのだが、彼のアウトプットの素晴らしいところは、この「ざーっとたくさんの文献を読みまくり、鉄板部分と未確立部分を洗い出す」ところまでを超圧縮してくれるところ。

ふつうであれば、体系的にまとまった文献を的確に探し出すのに時間がかかるし、その中のエッセンス部分を見つけるのにも時間がかかるし、それを複数繰り返していくのは、時間・労力的に大変ということに加えて、実はかなり高度なスキルが求められる。

しっかりした根拠(実証実験や、信頼できるボリュームでの分析など)にもとづく文献なのか、そうでないのかを、ひとつひとつ見ていく必要があり、信頼できる著者のしっかりした書籍だとしても、後半はポエムになったりすることもあるので、一筋縄ではいかない。

目利き力が求められるのだ。

いろいろ見ていった結果、古典的な文献(論文や書籍)に行き着く、というのはよくあることで、これは歴史のフィルタを通過しているものには普遍性があるということを表している。
複数の人が引用している内容は、モデルとして普遍性があり、多くのケースに当てはまる、ということだ。
つまり、歴史が目利き役を担ってくれている、ということ。

でも新しい分野だったり、新しい概念だったりすると、そういう歴史のフィルタは使えない。
だから目利きが難しいし、とにかく時間・労力的に大変。

そんな高難度で、めちゃくちゃ時間がかかる大変な部分を全部やった上で、こういうモデルとこういうモデルがあって、こんなところに気をつけるのが大事なんじゃないでしょうか、という例示を、400枚超のスライドで、これでもかこれでもか、と伝えてくれる。
単にボリュームが多いということではなく、その分野の鉄板モデルを短期間で一気に理解させてくれるのが、彼のアウトプットの素晴らしさ。

ちなみに、馬田さんスライドは論文・書籍というかなり体系化された文献に裏打ちされているものが多いのに対して、田所さん @masa77707のスライドは自らの実践や投資家としての観察を通じて得た学びを、USでの先行事例に当てはめて解説したりモデル化したりするケースが多く、より実証研究っぽいと感じる。連続1位で有名なこの本とかは、その集大成。
(けど、どっちもスライドが膨大すぎて読み切れてるわけじゃないので、違ったらすいません)

ところで、こういうアウトプットは、読み物として消化しようと思っても無理。
傍らに置いておき、ふとしたときに参照できるようにしておくのが大事。
信頼できるリファレンスという位置づけ。
あれ?こういう課題を整理するときって、こんなフレームワークがあった気がするな。
そう思ったら、その該当箇所に戻って、じっくり読み込む。
そんな使い方が適していると思う。

エビデンスベースを流行と思わないでほしい

昨今、エビデンスベースとかファクトフルネスとかが話題ですが、ちゃんとしたアカデミアでの教育を受けた人なら、こういう話ってきっと当たり前のことなんでしょうね。
特に、多くの論文を読んだり、書いたりしてきた人であれば、しっかりカラダに染み付いているんだと思う。
私もずいぶん前に、めちゃくちゃ優秀な友人に、こんな話をされたけど、当時は全然わからなかった。

これまで日本のビジネス界には、そういう経験が豊富な人材が少なかったのかもしれない。
大学院卒の多くは理系で、そういう教育を受けた人が、なかなかビジネスのど真ん中にいなかったからかな、と思ったり。

だからこそ、これからビジネスの世界でリーダーになる若い人は、ぜひこういうアプローチ・学び方を身につけると、とてもいいと思う。
早く身につけると、きっといいことが起こる(と思う)。


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