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仏「リベラシオン」紙に寄せたコメント全文(小池百合子都知事の件など)

 以下のテキストは、フランスの新聞「リベラシオン(Liberation)」からメールでの取材を受けて、返信した私のコメントです。記事では、全体の一部のみ紹介されましたが、備忘録的にここで公開しておこうと思います。

 一つ目は、安倍政権による黒川弘務氏の定年延長強行が、日本国内で大きな反発と抗議を受けている状況を報じた、2020年5月17日付の記事 “Au Japon, l’affaire du procureur Kurokawa soulève un vent de contestation” に寄せたコメントです。

記事URL: https://www.liberation.fr/planete/2020/05/17/au-japon-l-affaire-du-procureur-kurokawa-souleve-un-vent-de-contestation_1788634

【質問: 数年前から安部政権はスキャンダルだらけですが、なぜ今回は歌手、漫画家、作家、沢山の有名人も反対運動に参加するようになったと思われますか?】

 今回の件が今までと違う大きな点は、安倍政権が新型コロナウイルス対応で、市民の生活を破綻させない、つまり生活を守ることを、優先順位の上位に置いていないという事実を、表現者を含む多くの市民が「実感」したことだと思います。

 ヨーロッパなど諸外国では、政府がまず「市民の生活を守る」ことを優先順位の第一位として、「迅速な現金給付や休業補償」を行っていますが、安倍政権はそれをしていません。
 彼は、3月下旬まで、状況を甘く見て「東京オリンピックを予定通りに開催すること」を優先順位の第一位にしていました。そして、それが不可能になると、ようやく現金給付や休業補償にも目を向けるようになりましたが、一番重要なポイントである「迅速な」という要素の重要性を、彼は理解していません。それゆえ、優先順位は、相変わらず下のままです。

 その結果、手続きが面倒で、時間のかかる「申請」の段階で多くの市民が混乱しています。申請してももらえなかったという人もいます。その一方で、役に立たない「布マスク」の配布に、無駄な税金を使ったりしています。そして、今回の検察にかかわる法改正の国会審議です。

 こうした安倍政権の「自国民に対する冷酷さ」を、多くの市民が「自分に関わる問題」として意識し、怒っていることが、今までと違う点だと思います。国民には「休業してください」「不要不急の外出を控えてください」と要請しながら、安倍首相は自分の過去のスキャンダル隠しに役立つ検察制度の変更という、国民にとって「不要不急の法案」の成立を急いでいます。
 現実に新型コロナに関連する休業やイベント中止、収録中止などで収入が減ったりしている人々(歌手や俳優、漫画家、作家も含む)は、こんな安倍政権の態度を見て「われわれの生活が脅かされている中、なぜ安倍政権は、現金給付や休業補償など、われわれ市民の生活を守ることを後回しにして、そんな法案のゴリ押しを急ぐのか」と、当事者として怒っているのだと思います。

 私は、2020年4月7日に次のようなツイートを投稿しました。

《安倍政権と日本政府が今やっているのは、海に落ちた人に浮き輪を投げる前に「本当に必要とする人に浮き輪を渡すために、まず貴方が『泳げない人』であることを証明して下さい」と要求する態度。諸外国は「とりあえず浮き輪を投げる」。諸外国は人命救助を優先するが、日本政府は形式と手続を優先する。》
https://twitter.com/mas__yamazaki/status/1247382324699750400

 このツイートは、現在(コメント送信時点)15000以上がリツイートされ、30000以上の「いいね」が付いています。ツイートのインプレッションは1,734,911、エンゲージメント総数は132,894となっています。これは、私が書いた内容に実感として同意する人が多いことを示していると思います。
 つまり、安倍政権は、困っている自国民を助けようと本気で思っていない。それが、検察官をめぐる「不要不急の法案審議」に、表現者を含む多くの国民が怒り、声を挙げている最大の理由だと思います。

《追記》
 先ほどお送りしたコメントですが、表現者を含めて、反対している人が「法案の内容を理解せず」「ムードに流されている」という意味ではありませんので、そのようなニュアンスにならないよう注意していただければと思います。皆さん、ちゃんと法案の問題点や危険性を理解した上で、さらに「安倍政権の自国民への冷酷さや、自国民の生活への無関心さ」を思い知らされて、我慢の限界を超えた、という意味です。
 よろしくお願いします。

(2020年5月15日送信)


 二つ目は、東京都知事選を前にした小池百合子東京都知事の「人気」の背景をさぐる記事 “A Tokyo, Yuriko Koike, une gouverneure adroite très à droite” に寄せたコメントです。

記事URL: https://www.liberation.fr/planete/2020/06/30/a-tokyo-yuriko-koike-une-gouverneure-adroite-tres-a-droite_1792640

【質問: 小池さんは問題点の多い方ですが、知事として再選する可能性が高いです。何故でしょうか。】

 小池氏の強さは、やはりメディア操縦の上手さにあると思います。具体的には、自分が操縦されていることをメディアの記者に自覚させない形で、小池氏が望む方向の情報を宣伝させるテクニックに長けているように見えます。

 お気づきだと思いますが、日本には「問題の本質に深く切り込むジャーナリズムの能力」で競争する記者が少ないです。大手の新聞とテレビの記者は、なるべく楽に、そして事故の少ない記事を書こうとします。「事故」とは、取材相手との衝突、という意味で、その記事を書いたことが原因で取材相手との関係が悪化することを恐れます。それぞれの会社の上司も、そんな仕事の仕方をおかしいと思っていない様子です。
 かつてメディアで仕事をしていた小池氏は、そんなメディア記者の「習性」を、よく理解しています。そして、記者に対して二つのやり方で接しています。一つは、記者が自分で問題を考えなくて済むような「シンプルでわかりやすいキーワード」を使って説明すること。もう一つは、気に入らない質問をする記者に対して、露骨に不愉快な態度を示すことです。

 このテクニックは、安倍首相や維新の橋下徹氏なども使っていますが、小池氏はそれを使うのが上手な人だと思います。新型コロナウイルスに関連する「東京アラート」という警報は、実際には定義や発動条件がはっきりしない、ただの思いつきのような曖昧な告知でしかありません。都庁の建物やレインボー・ブリッジを赤くライトアップするのも、メディア向けのアピールでしかありません。しかし、こうした「餌」は、記者が自分で物事の意味を考える手間を省いてくれるので、メディアは安易にこれをニュースとして報道します。小池氏の思い通りの展開です。

 「やってる感」という言葉をご存知かと思いますが、今の日本では残念ながら、首相や大臣、知事などの為政者の人気は、この「何か仕事をしているかのようなイメージ」で成立しています。小池氏は、前回の都知事選で発表した「7つのゼロ」という公約をほとんど達成できていないので、本当はメディアがそれを厳しく追及しなくてはなりません。ところが、それをやって小池氏を怒らせてしまうと、自分と小池氏の関係が悪化して「事故」になってしまうので、記者は腰が引けて、小池氏が出す「シンプルでわかりやすいキーワード」を使って説明するという安易な方向に逃げているようです。

 つまり、今の小池人気を支えているのは、報道記者の無気力さや臆病さにあるのではないかと思います。安倍首相が、あれほど次々と重大な不正疑惑が発覚したにもかかわらず、今も総理大臣の地位を保っているのも、おそらく同じ理由です。
 本当なら、メディア各社が結束して、都知事選の候補者の公開討論会をたっぷり時間をかけてやりなさい、と公開の形で要求すべきですが、各社とも「事故」を恐れて、それをやりません。それゆえ、小池氏の都知事としての失敗や無能力を、東京都民はあらためて考えて理解する機会をほとんど得ないまま、小池氏が「何か仕事をしているかのようなイメージ」の報道だけを見て、投票に行くことになります。

【質問: (小池氏は)安倍総理のライバルでしょうか。】

 小池氏と安倍氏は、仲が悪いですが、政治的信念はよく似ています。しかし、小池氏が総理大臣になる可能性は、かなり低いと思います。小池氏は政治的な支持基盤が弱く、都知事から再び国政に転じても苦戦するでしょう。

 小池氏は、3年前の2017年に「希望の党」という政党を作って、国政の場で自民党に対抗しようとしましたが、野党の分裂を引き起こしただけに終わり、自分がかつて在籍していた自民党と対立する構図の中で、党の代表を辞職して撤退しました。小池氏が近い将来に、自民党と和解して自民党推薦で国会議員の選挙に出る可能性は無いと思いますし、野党側でも信用されていないので、小池氏が安倍氏の政治的なライバルになることはないと思います。

(2020年6月23日送信)

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